おにいちゃんは一回り年上だった。
私はいつから恋してたんだろうね?
チビスケの頃からなのは確かだね。
おにいちゃんは上智大学に行ったんだよ。
そこしか入れなかったのさ。
今は知らないけどあの当時は戸籍書類を提出するからね。
おにいちゃんは芸者の私生児で認知もされてない。
だからどの大学からも門前払いだったんだ。
私生児はお断りの時代だった。
だけどね、キリスト教の理念のもと上智大学だけは皆が公平であるってんで入れたんだよ。
大学は私生児だからって入れなかったのに社会に出たら
「あの方の息子さん」ってことで出世街道をばく進できた。
若い頃は純粋にそんな世の中に傷ついてたおにいちゃんもさ、なんか図太くなったよ。
「俺は親父よりたくさん女を作ってやる。親父を越えてやる」が口癖になってた。
本気なのか自虐なのかわかんないけど確かに女癖は悪かったよ。
おにいちゃんの母親が亡くなって何回目の法事だったかな。
おにいちゃんが指差して言ったんだ。
「あそこでさ、休んでこうよ」
それはご休憩はご休憩でもラブホテルだった。
おにいちゃんの頭ひっぱたいてプリプリしながら帰って来たよ。
後ろから「おーい、そんなに怒るなよ」っておにいちゃんの笑い声が聞こえたけどね。
初恋の思い出はぶち壊しだよ。
あれからおにいちゃんには会ってない。
法事にも行かないしね。
でもさおにいちゃんの記憶の中の私は綺麗な女のままなんだと思うと嬉しいんだよ。
女心は複雑である。
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