小さな窓口に向かってスクラッチくじを買い求める。
その日、私の運は灰色だった。
出る目出る目が裏目だった。
職場の上司に早退を願い出れば、
勤続112日目で初めて嫌味を言われた。
普段は感じのいい女性なのだが、
その時は、多分虫の居所が悪かったのだろう。
保健センターに行けば、駐車場満車。
クリニックに行けば、休診。
銭湯に行けば、臨時休業。
道行けば、裏目裏目の紅葉かな。
スーパーで食料品を買って帰ろうとした時、
視野の隅に宝くじ売り場が映った。
こういう裏目ばかりが出る日は、
ひょっとすると、逆に、当たるかもしれないな。
迷わず、「千円分ください」と言った。
女性売人はトランプのように宝くじを二つに分けて、
「上がいいですか、下がいいですか」と聞いてきた。
福なんてものは下にあるものだから、
私は「下がいいです」と答えた。
売り場の台の上で、5枚の札の表面を順次こすっていった。
絵柄がまったく合わない。
1枚も当たらない。
私は、売り場の窓口に顔を近づけて、
「1000万が、」と真面目顔で言った。
「当たったんですか!」と女性売人がすぐ引き継ぐように言った。
まだ30代くらいのメガネをかけた、おかっぱ頭の女性だった。
心臓が止まりそうな顔つきをしていた。
一瞬、間を置いてから、
「当たらんかった」と私は答えた。
「ああびっくりした!」と言いながら、
彼女は自分の顔の前で両手をパンと叩いた。
「ワハハハハハ」と私は笑った。
透明なアクリル板の向こう側で、
彼女も心臓を再び鼓動させながら愉快な気分を味わっているようだった。
こういうカラカイは、
コスト0円。
愉快指数100。
やめられねえや。
下手に1000円当たるよりよっぽど価値ある交流だった。
(と、自分では思っている)
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