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ばりん3g

「直観的操作の極致」ティアキンがなぜ”歩いているだけでも楽しい”のかを心理学的に解説。

引用: https://www.nintendo.co.jp/corporate/release/2023/230517.html

「ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム」(以下、ティアキン)という作品をご存じだろうか?

わかりやすく言うと3日で1000万本売り上げたゲームです。やばいです。

あとMetacriticのメタスコア96点ユーザースコア8.1点のゲームでもあります(執筆時点)。えぐいです。

私もこのゲームに140時間以上費やしてます。ストリー全然進んでません。まだカメラ機能解放できてません。たすけて。

 

でね、心理学にはプレイヤーの欲求充足尺度(PENS)ってものがありましてね。

言ってしまえば、ゲームが楽しい理由は心理学の言葉で説明できるっていうお話なんですよね。

言い方を変えれば、すべての"楽しい"には理屈があるんですよ。

で、いま規格外のゲームが目の前にあるんですよ。

楽しくて仕方ない理屈が気になってしょうがないよね、ってことでやります。

 

頑張って1つの記事にまとめようとすると大変なことになるので、記事毎にどこに着目するかを宣言して、そこを深堀りしていきます。

 

 

今回はティアキンの直観的操作について解説します。

初手が直観的と謳いながらその概念がめちゃめちゃ直観的じゃない題材だけど許してほしい。

 

引用: 中谷, 矢野. 1993

直観的操作とは、ゲームとプレイヤーの入出・出力のやり取りをスムーズに行うためのテクニックのことを指します。

一個のボタンで完結する操作や、何が起きているのかがぱっと見でわかるグラフィックとかがこれにあたります。

 

基本的に、ゲームのキャラとプレイヤーは認知・知覚的に分離した存在です。ゲームのキャラが見たまま感じたままの景色をプレイヤーは知覚できないし、プレイヤーがいつも体を動かす感覚でキャラが動くことはまずありません。

なので、プレイヤーはゲーム画面を見てキャラの状態を知り(入力)、キャラを操作するためにコントローラで入力する(出力)必要があります。この時の入力・出力はそれぞれ「プレイヤーに情報が入る」「プレイヤーが情報を発信する」意です。

 

この入力・出力のサイクルはまぁまぁ高負荷な作業です。感覚が分離したものを操るという、自分がいつも経験し稼働するサイクルとは別物ですから。

それに、圧倒的に情報不足というのもあります。ゲームの主な情報源はグラフィックとサウンド、つまり視覚と聴覚のみ。出力手段も神経系から直接というわけにはいかず、いくつかのボタンやスティックを介したものになります。

私たちは普段から五感を頼りに思案していますが、ゲームプレイではそうはいかない。認知・知覚の面からとらえたとき、ゲームプレイは結構な制約があります。

 

そこで直観的操作という概念が挙がるわけです。

一個のボタンで完結する操作や、何が起きているのかがぱっと見でわかるグラフィックなどを用いて、この問題を克服するわけです。

 

直観的操作の概念を反映させたテクニックは文字の表示1つ1つまで細かく組まれますが、そのすべてがプレイの快適さ、ひいては楽しさに直結します。

 

 

で、本題のティアキンの直観的操作についてですが。

もうなんかいろいろ極まってます。代表的なのをいくつか挙げますね。

 

 


画像: 白銀ライネルをボコボコにしているところ。慣れれば簡単。

直観的操作というのは、プレイヤーの「こうなってほしい」という出力時の意思と実際に反映されたものの差の少なさ、も範疇に入る。

たとえ癖の強い操作だとしてもプレイしていけば慣れていくが、この差が小さければ小さいほど慣れるのも早くなり、より楽しさを享受しやすくなる。

私が思うに、この"差"の改善は直観的操作における最小単位であり、有能間充足におけるフレームであり、ゲームの楽しさの根幹に位置ずる。

これはすごく言語化しづらい要素だが、ティアキンは確かにこの部分がよく調整されていると感じた。

 


要はこのゲーム「歩いているだけでも楽しい」のだ。

全体的な時間間隔が速すぎず遅すぎない。走りや崖のぼりやジャンプなどの値が極端すぎない。操作も癖なくすぐに馴染む。世界とオブジェクトと主人公の行動範囲との寸法に一貫性がある。認知する奥行きと実際の奥行きに齟齬が生じない。

ちょうどいいのだ。プレイヤーの知覚と実際にゲームで起こったことにずれや違和感を感じることはほぼない。

 

 

ティアキンはGUIがすんげぇ優れているのだけれど、その中でも特に武器選択のGUIがすごい。

このGUIで武器を即座に切り替えることができるんですが、これ1つで『新品か』『1回以上使用したか』『壊れかけか』『スクラビルド(武器となにかを合体して新しい武器を作る能力)したものか』『可燃性か』『導電性か』『攻撃力』『武器種』『武器効果』という武器に関するあらゆるステータスがわかるっていうね。

プレイヤーはこのわかりやすい表示を参考に「いま雷落ちてるから金属製の武器装備してるのはまずいな」とかすぐに判断下せるわけ。

めっちゃ詰め詰めな情報を見ただけでわかるようにしているの、すごいよね。

 

 

画像: 雷に打たれている主人公。よく見たら温度計真っ赤である、細かい。

音響と振動の要素も欠かせない。

一番体感できるのは雷雨の時だろう。そこかしこに落ちる雷だが、この雷が聴覚的な奥行きを伴うのはまだ理解できる。遠いところに落ちたときは音量が減衰するし構成される音も違ってくる。

この雷、Joy-Conの振動、つまり触覚的情報においても奥行きを持たせている。遠くに落ちればちょっと地面が揺れた程度の、近くに落ちたときは腹に届くような振動が発生する。

これに気づいたときはJoy-Con手放して感動して主人公に雷直撃した。わざとじゃないんよ。

 

 

引用: https://www.youtube.com/watch?v=NmkDyyeSYsI&list=LL&index=61

直観的操作において最もわかりやすい事項は入力遅延の類だろう。よく「ラグい」「重い」とか言われる現象のことだ。

プレイヤーの出力、つまりゲーム側にとっての入力信号の反映が遅くなる原因は、入力・出力のサイクルを直接的に崩す。楽しい楽しくない以前に満足に遊べるかというレベルのお話なので、今まで上げてきた要素以上に重要だったりする。

で、このティアキンはプレイ中に「ラグい」と感じることはほぼない。

モドレコ(対象オブジェクトの動きを逆再生させる能力)のために広範囲のオブジェクトの移動の軌跡を保存している、ゾナウギアというフライマシンから大量殺戮兵器まで作れるパーツ群が大量に存在できる、などいつラグくなってもおかしくない環境下だが、そう感じることはない。

ティアキンがどれだけラグくなりづらいかは、バグを使って200個以上のオブジェクトを設置してもなおゲームがエラー落ちしないという実証動画(笑顔の時間 2023/06/25)を参照してほしい。

モドレコに関してはもう謎技術である。どうやって実装したん?

 

 

すべての楽しいには理屈がある。

今回はその理屈の中でも特に言語化されない箇所をピックアップした。

直観的操作に関する事項はどれも地味で目立たず、そしておそらくその最適化に多大な労力がかかる領域である。

だが、直観的操作は有能感の充足を介しプレイの楽しさにダイレクトに影響する。

ティアキンの"歩いているだけでも楽しい"という感想は、まさしくそれを表している。

 

 

 

参考文献

中谷 智司 and 矢野 米雄. ロールプレイングゲームにおけるやる気の持続. 情報処理学会研究報告人文科学とコンピュータ(CH), 1993, 18(1992-CH-017), 33 - 38, http://id.nii.ac.jp/1001/00055493/

{105}Ryan, R.M., Rigby, C.S. & Przybylski, A. The Motivational Pull of Video Games: A Self-Determination Theory Approach. Motiv Emot 30, 344–360 (2006).


論文を参考にいろいろ喋るブログです。

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