産経News 平成30年11月25日 01:00
【ソウルから 倭人の眼】
1965年の日韓請求権協定により解決済みの請求権問題を蒸し返し、「徴用工訴訟」で新日鉄住金に賠償を命じた韓国最高裁の確定判決に続き、韓国政府は2015年の慰安婦問題をめぐる日韓合意を無視し、合意に基づき設立された「和解・癒やし財団」の解散と事業の終了を予定通り発表した。一方的で勝手な解釈に基づき、日本が相手なら国際的な協定や合意を無視しても平然としている。韓国との関係は、もはや軌道修正が困難な所に来ている。
(ソウル 名村隆寛)
■反則許可のお墨付き
日韓関係の根幹を揺るがせている韓国最高裁の判決の問題点は「日本政府の朝鮮半島に対する不法な植民地支配」。つまり日本の朝鮮半島統治自体に不法性があるのだという。
この点を原告勝訴の理由にし、法により救済したわけだ。
その解釈に従えば、日本統治時代のことなら、何でも持ち出し、日本の責任を法的に断罪できることになる。日本企業だけでなく、日本政府も「不法行為」を犯したとして訴訟の対象になり得る。
国際協定を無視した“反則技”も可能ということである。
しかも、今回勝訴した原告は「徴用」や「強制動員」ではなく、「募集」に応じて労働に従事した者だ。現在の韓国流の勝手な解釈と価値観による、いい加減な判決が確定してしまった。
日本統治時代が絡めば何でも請求できる-。最高裁は判決でそのお墨付きを、いとも簡単に韓国国民に与えてしまった。
11月29日には三菱重工業を相手取った訴訟の差し戻し審の判決が韓国最高裁で言い渡される。同様の判決が出るのは間違いなく、下級審での似たような判決や、同様の提訴の続出も必至とみられる。
■歯止め効かず外交放棄?
日本政府の再三の抗議や反発にも関わらず、韓国政府は「司法府の判断を尊重する」(李洛淵=イ・ナギョン=首相や康京和=カン・ギョンファ=外相)と言い続けている。
最高裁の判決を尊重して、53年前に日韓が合意した請求権協定を無視し、日本政府の不法性を韓国政府までが認めるとなれば、まさに外交の放棄である。韓国政府としては、「未来志向の関係」を強調し、どうにか日本の反発をくい止めたいという狙いがにじんだ、説得じみた声明を出すのが精いっぱいだった。
判決が韓国国内で歓迎される一方で、韓国政府からは一方で焦燥感もうかがえる。判決が事実上、外交問題化しており、「国際協定を破る韓国」「またも約束を守らない韓国」といったイメージが国際社会へ広がりかねない。
さらに、財界などからは、日本の大企業の敗訴による、日本企業の韓国離れや、危機が迫っている韓国経済への悪影響を懸念する声が聞かれる。
それでも韓国政府は日本の反発を増幅させるような行動に出た。元慰安婦を支援する財団の解散発表だ。
■日韓関係より国民感情
財団の解散については、陳善美(チン・ソンミ)女性家族相が10月末に「11月初旬には発表できる」と語っており、発表を待つだけだった。
そこに「徴用工訴訟」の判決に日本の政府や世論が反発したことで、韓国政府は発表に二の足を踏んでいた。
結局、21日に財団解散は発表されたが、発表に際しては記者会見さえ開かれず。韓国政府なりのせめてもの対日配慮なのか、バツの悪さをうかがわせた。
「国際社会の一員としての責任ある対応」を安倍晋三首相が韓国政府に求めるなど、日韓合意をほごにされた日本政府の反発は予期されていた。
相当の覚悟ができていたのか、単に後戻りできないのか。韓国政府は日本との関係よりも、とにかく自国の「国民感情」を選んだ。
慰安婦問題の「最終的かつ不可逆的な解決」を確認した合意に至る過程で、協議が難航する中、韓国の要求を聞き入れ、さんざん付き合わされた日本政府としてはたまったものではない。
■勝手な思い込みと解釈
慰安婦と「徴用工」の問題で、日本は韓国にゴールポストをまたしても動かされてしまった。
それなのに、韓国では「日本こそ(政治家が前言を翻すなど)ゴールポストを動かし続けた」という主張が、徴用工裁判にかかわる団体の間ではまかり通っている。
対日関係に頭を痛めている韓国政府はともかく、日韓関係悪化に対する深刻さは韓国社会からは感じられない。
韓国側の事情による一連の蒸し返しに日本が強く懸念しているのに「韓日関係を再構築する好機だ」という識者までいる。
日本政府の反発を「節制のない言葉で過剰に反応している」(韓国外務省)と逆に批判し、その原因がどこにあるのか、分かっているのかを疑わせる声明まで出た。
日韓関係の基盤が揺らいでいること自体まで忘れたかのような雰囲気だ。
また、元慰安婦の財団解散の発表を受け、韓国政府当局者は「2015年の合意は慰安婦問題の真の解決になりえない。
合意の根本的な趣旨と精神は、被害者の方々の名誉と尊厳の回復、癒やしにあり、日本政府が誠意ある姿勢でこのために努力することを期待する」と語った。
日本にさらなる要求を突きつけた発言で、「開き直り」そのものである。
韓国がしばしば見せる「嫌がらせ」と同レベルのことを、日本がやっていると思い込んでいるきらいもある。いつものような困った勝手な解釈が、ここでも独り歩きしている。
その解釈が正当化され、日本との問題は信じられない方向に向かおうとしている。
■今回の火は消せない
慰安婦問題をめぐる日韓合意の精神に反し、韓国政府は16年末に釜山の日本総領事館前への慰安婦像設置を左派系市民団体に許し、その結果、日本との関係が悪化した。
韓国は今、あの時と似たような状況だ。自分で火をつけて、火消しの必要に迫られる。
韓国政府は今回も、見慣れた「マッチポンプ」の繰り返しに頭をひねっている。ただ、今回は火を消すのが大変だ。
何しろ、韓国が起こした火が大き過ぎる。しかも連発させてしまった。
「徴用工」に限れば、問題の打開は、韓国政府が表明する立場と、その後の対応次第である。
ただし、期待は禁物だ。韓国への期待がむなしいものに終わるであろうことを、日本は何度も味わってきた。
今回の最高裁判決や財団解散で、またもや日本は裏切られ、そのことが再確認された。
韓国は国同士の約束を守らない国で、約束をしても無駄な相手であることを、またしても自ら示した。
二国間の合意や協定の順守は、韓国の国民感情の前にはもはや通じない。「異論」を許そうとはしない。
日本が隙を見せなくても、身勝手な価値観で無理に隙を作り、そこを突いてくる。最高裁判決と慰安婦財団解散は、新たに韓国が作り出した隙そのものだ。
韓国との付き合い方は限界に来ており、関係を元に戻すのは難しい。