祖母が入院したので約一週間の間に四回お見舞いに行った。
病棟にある休憩スペースは携帯電話の使用が許可されており、飲食や打ち合わせにも利用できるようになっていた。そこにあるソファとテーブルで休んでいるとテーブルの下の雑誌や文庫本に気がついた。その中で「探偵倶楽部」という文庫本があり私の好みのジャンルなので手にして読み始めた。面白い。とそこで見舞いに同行していた母が帰ると言ってきたので本を戻し帰宅した。
そんな感じで次の見舞いもその次の見舞いも私は「探偵倶楽部」の続きを読みたくて休憩スペースへ通った。退院の日が近づいている。私は祖母の退院の前日に書店に行き文庫本コーナーに直行した。目当ての「探偵倶楽部」はすぐ見つかった。これこれ、と手に取り最初のページの出だしのところを読んでみて驚いた。書いてあることが全く違うのだ。何度見返しても記憶にある文章やシーンが出てこない。私は書棚に本を戻ししょんぼりと書店を出た。
退院の日、私は入院費の支払いに行く途中に休憩スペースに立ち寄った。この本の謎を、このミステリーを解かねばならないのだ。私は雑誌や単行本やコミックの下に隠しておいた「探偵倶楽部」を引っ張り出して、文庫本のカバーを表紙から外した。そこには「鬼手 世田谷駐在刑事・小林健」という本があった。
そういうことだったのか。カバーの取れた文庫本に違う本のカバーをつけてあっただけで、誰も指摘するどころかいろんな本などに埋もれて生涯を全うするところで私が謎をといてやったのだ。あの文庫本がどうも本当の自分じゃない気がすると悩んでいたところに、あなたは他人のカバーをつけられていたんだよ、と。