幼稚園から小学校低学年頃まで私は本能のまま暴れて走り回っていたずらをする生まれて数か月目の子猫みたいに生きていた。親の言いつけは守らない、姉とはすぐにケンカをする、物は壊す、ふろしきを首に巻き付けて飛べると信じて崖から飛び降りる、飼い犬の耳をハサミで切る、コンセントの上下対角線の穴にハサミを突っ込み火花をちらしうっとりと見る、などと数えきれないほどのわるさをした。
そうすると田舎にはたいていの家には倉があってそこへ両親や祖母にがっしり抱えられて放り込まれる。私は必死に泣きわめいて手足をばたつかせもがいて大人たちの衣服をびりびりに引き裂いて抵抗する。大人たちも完全にのぼせあがって大声をだしてしかりつけながら私を拘束する。警察に通報されてもおかしくないくらの騒ぎであるが、どこの家でも悪ガキは倉に放り込まれていたので日常のできごとでもあった。
一時間もすると分厚い土の扉があいて反省したか、と聞かれて外に出される。反省という言葉の意味もわからないけど一応しゅんとしてこくんとうなずいてちょっと媚びる。こましゃくれたガキだったので蔵の中のアオダイショウに食べられてしまえって嘘だよね、とか言って機嫌を取る。
倉の中では玄米と小豆をまぜてやったり大事にしまってある皿なんかにヒビを入れてやったりして楽しんだ。
そんな一連の出来事の中でも一度も殴られたり蹴られたりはしなかったし、命の危険にかかわるようなことはなかった。
今、あれは決して虐待ではなかったと言い切れる。なんでかなあ、そう思う。あの体験による心の傷は無かったし、家族みんなお互いに大好きだったからね。