China共産党が諸悪の根源か?
China経済の行き詰まりが報道されています。普通は経済の行き詰まりは政権の行き詰まりを意味します。民主主義体制であれば、政権が行き詰っても政権交代をすれば済みます。さて、権威主義による専制のChinaではどうなるのでしょうか?
巷には現状のChinaを取り巻く混乱について、China共産党政権を諸悪の根源のように決めつける言説が見受けられます。China共産党政権が倒れさえすれば、Chinaは民主的でまっとうな政権が誕生し、周辺諸国とうまくやっていけるのでは、というものです。あるいはChinaは人口規模が大きすぎて民主主義を機能させるためには人口が大きすぎるため、4か国程度の民主主義国に分裂すると良い、というのもあるようです。今回はChinaの民主化の可能性について考えてみたいと思います。
China共産党が様々な悪を生み出していることについては疑問の余地はありません。しかし、China共産党を除去すれば、Chinaは民主化して、台湾のような同じ価値観を有する友好国に生まれ変わるのでしょうか。私はChina共産党政権が倒れることがあっても、同様の権威主義政権による専制政治になると思います。もちろん誰も政権がとれずに、ぐだぐだに分裂した不安定な状態がしばらく続くことも十分考えられますが。
民主主義の前提条件
民主主義が成立するためにはいくつかの前提条件があるのではないでしょうか。国民の真っ当な権利意識は言うまでもありません。自分の物は自分の物だと主張できることです。国民の間の遵法意識もその1つだと考えます。他人の物は他人の物なのです。権利意識とも関わりますが、社会的に上位の立場の者に対して遵法を求める姿勢も重要です。権力者だからといって好き勝手出来ない、権力者も法に則ってしか権力をふるえない、という意識が上から下まで共有されることが、民主主義が機能するための大前提であるように思います。
民主主義の前提条件が満たされた過程を考える前に、世界的に民主主義が機能している国を見ていきたいと思います。中欧を含む西欧(バルカン諸国やスラブ諸国は含みません)、北米、中南米の一部、オセアニア、東アジアの一部、東南アジアの一部、南アジア、イスラエル、トルコなど中近東のごく一部、アフリカの一部ということになるでしょうか。この中で、自力で民主化したのはほぼ西欧、日本および米国に限られます。
欧米の植民地であった国々も独立の過程で民主化に至った国々も多くあります。不十分ではあっても法治を経験したこと、植民地支配下あるいは併合支配下で芽生えた強烈な民族意識がプラスにはたらいて民主化に至ったのでしょう。インドや台湾などがこの範疇にはいるのではないかと思います。
自力で民主化した国々
欧州や日本など自力で民主化した地域は支配者と被支配者の間で、Win-Winが成立するような歴史を経験しています。欧州ではその後絶対王政になりましたが、Win-Winに基づく規範意識の発達があったため、被支配者の権利意識や支配者に対する遵法を求める意識が高まったことが市民革命の基礎となったのではないでしょうか。
一方日本では、明治維新までは欧州のように明文化された法体系を持つには至らなかったかもしれません。ただし、江戸時代には武士と百姓の間は検地という契約に基づく納税や、また農村では百姓による高度な自治が行われており、法治による秩序が維持されていたといってもよいと考えます。明治維新によって封建制が破壊されたというよりも、Win-Winに基づく社会の発展により、封建制では立ちいかなくなっていたのでしょう。当時の日本人がより高度な法治を求めた結果、徳川体制では収まり切れない状態に達していたのではないでしょうか。したがって明治維新後の自由民権運動の高まりに始まる民主化は歴史の必然だったように思います。アメリカの占領政策で日本が民主化したわけでは決してなく、むしろその時点ではアメリカより日本の方がはるかに進んだ民主主義国でした。当時アメリカでは選挙権があったのは白人だけでした。
他国の支配を経て民主化した国
欧州や日本のように外の力を借りずに民主化に進んだ国以外にも民主主義がよく機能している国があります。そのような国々ではどのようにして民主主義の前提条件を得たのでしょうか?台湾を例にとって考えてみたいと思います。
日本による統治前の台湾は清国の領土ではありましたが、マレー・ポリネシア系原住民と漢民族が暮らす島で、マラリアを始め伝染病の蔓延もあり人口はさほど多くありませんでした。また清国は統治には消極的であったそうで、原住民の小王国やChina本土で食いっぱくれた貧民や海賊などの漢民族が入り混じる、西部開拓時代のアメリカのような様子であったのであろうと推察します。China本土より統治程度は低かったこと、また原住民の比率がそこそこあったことから、荒っぽくはあっても人間社会がもともと持つWin-Winの気風はそれほど損なわれていなかったとのではないでしょうか。
台湾民族の誕生を生み出した日本による統治
日本による統治に対しては、何度も暴動をおこしては鎮圧されています。しかし日本は完全な法の支配による統治を目指したようです。法治といっても台湾人から見れば理不尽な占領統治であり、そのような意識が台湾民族としての民族意識を高めたのは間違いないと考えます。一方、総督府はマラリアを始め伝染病の撲滅や、灌漑、鉄道、製糖などによる農産業振興を行い、台湾は急速に文明化し経済発展しました。おそらく当時の台湾人から見て、日本は理不尽な占領者から台湾人にWinをもたらす支配者として変化していったのだと思われます。李登輝元台湾総統の自伝などからも日本人としての意識を強く持っていたそうです。あと数十年日本による支配が続けば台湾人の民族意識も薄まって完全に日本民族化してしまったかもしれません。
日本の敗戦後、台湾を占領したのはChina国民党でした。China国民党というと、結党当初こそそれなりに高い理想を掲げていたようですが、すぐに単なるごろつき集団になりました。Chinaの国共内戦とは共産党組と国民党組という暴力団の抗争とみなせるのではないでしょうか。日本の敗戦後、国民党による支配を受けた台湾は、いわばChinaの暴力団抗争に巻き込まれたとみなすことができます。
暴力団によって国を乗っ取られた台湾人はしかし、すでに民族意識を持ちはじめ、高度な法治の概念を持ち、Win-Winが理解できる人々でした。苛烈を極め、腐敗著しい国民党支配の下で、台湾人の民族意識は急速に高まったのでしょう。それらが台湾人の法治や民主主義への要求を高め、李登輝元総統による民主化の後押しをしたと考えることができます。
話はそれますが、台湾の独立とは共産党Chinaとは何の関係もないものです。China本土の暴力団抗争から自由になることです。国民党が民主主義政党に変革し、民主的な政権交代が行われた現在、台湾はすでに独立しています。ただ、それを声高に宣言しないのはChina共産党への刺激を避けるというよりも国内の外省人(China本土人)の存在によるものではないかと考えます。China国民党とともに多くのChina人が共産党から逃れて台湾に渡ってきました。彼らは台湾民族意識を持たず、大陸とのつながりもあり、おそらく暴力団による支配に対する抵抗もないのでしょう。台湾民族による民主主義より、本土Chinaとの経済的な結びつきの方を重視する人も多いのでしょう。したがって現時点での台湾独立宣言は台湾国内の深刻な分断の原因となる可能性があります。ただ、台湾民族を主体とする完全な法治の下で、少数民族である外省人もいずれ台湾民族化していくと思われます。そうなったときが台湾の真の独立と言えるのかもしれません。
China社会は民主主義の前提条件を満たしているか?
台湾の例で見ると、法治による秩序の経験が権利意識および遵法意識を高め、民主主義が機能する前提条件が満たされるのではないかと考えます。インドなども同様のことが当てはまるように思います。ガンジーに導かれた非暴力による独立も、不平等ではあっても法治下であったからこそ可能であったと考えます。
さて、Chinaの場合においても、民主主義が定着するためには、厳格な法治による秩序の維持が数世代にわたって継続することが必要であると思われます。しかしながら、Chinaは有史以来、法治を経験したことがありません。被支配民は支配者の意のままに収奪され、支配者と被支配者の間のWin-Win関係は成立しようがありませんでした。さらには被支配民同士にもともとあったはずのWin-Win関係すら破壊され、不信社会が出来上がってきたのでしょう。そのような社会環境の中で、健全な権利意識や遵法意識が芽生えるとはとうてい思えません。
外国に統治されることによってもChinaの民主化は可能でしょう。香港がその例です。しかしながら、このご時世でChina全土を統治してあげようなどというお人よしの国はどこにあるでしょうか。戦前の日本くらいでしょうし、私は日本が最も反省すべきは、他国の統治に善意で関わったことではないかと考えています。これについてはまたの機会に考察したいと思います。
話はそれますが、米国がアフガニスタンを民主化するたった一つの方法とは日本による台湾統治をモデルにすることだったと考えます。法治を経験したことのないアフガニスタンで民主主義が成立するとは考えられませんし、またアフガニスタン民族としての民族意識を持たない多数の民族が1つの国にまとまろうと思うこともあり得ないと考えるからです。ただ、現在の国際環境の中、民主制を敷かずに他国を長期間支配することはおそらく許されることではないのでしょう。そう考えるとアフガニスタンが民主化するのは不可能なことだと思えてきます。
Chinaの民主化は考えられない
現在の腐敗しきった共産党政権が倒れたとしても、Chinaに民主主義政権が誕生する見込みはないと考えられます。仮に民主的な指向を持つ政権が樹立されたとしても、人民の側が民主主義の準備ができていないのです。賄賂で法をすり抜けようという人はなくならないでしょうし、投票用紙の偽造や票売買が横行することでしょう。たとえ当初は高い理想を掲げた政権が誕生したとしても、ほどなく民主主義やその前提となる法治は腐食され、無秩序状態となっていくことでしょう。
Chinaという社会土壌では、権威主義による専制でなければ秩序の維持は不可能だと思われます。Chinaという社会土壌では権威主義による専制に収斂していくのでしょう。お隣の国が民主化するかもしれないなどとの幻想を抱くことなく、腐敗した専制国家と冷徹に対峙する覚悟を持つべきだと思います。