「次のエヌビディア」と期待されるブロードコム[AVGO]が唯一無二の存在となった理由石原 順様記事抜粋<
米国のシリコンバレーでは、小規模のベンチャー企業が誕生し、最先端の半導体設計に成功した企業が続々と現れたが、小さなベンチャー企業にとって、製造ラインを持つのは不可能だった。そこに手を差し伸べたのがTSMCだった。設計開発だけを行うファブレス半導体企業はこぞってTSMCに製造を委託した。
TSMCの最大の功績はこのファウンドリーと呼ばれるビジネスモデルを確固たるものにしたことである。1980年代から1990年代にかけて半導体業界において大きな変化が2つ起きた。1つは産業政策の旗振り役として国が積極的に関わったこと、2つ目はビジネスモデルの変化だ。半導体業界の構造が垂直統合型から水平分業型へと大きく転換した。この2つ目の要因がTSMCというファウンドリーの雄を生み出すきっかけだった。
チャン氏だけではない。中華圏の国々から米国に移り住んだ人々やその子供たちが半導体とAIの分野において目覚ましい活躍を見せている。半導体メーカーのエヌビディア[NVDA]を創業したジェンスン・フアン氏、AMDのCEO(最高経営責任者)であるリサ・スー氏、AIサーバーを手がけるスーパー・マイクロ・コンピューター[SMCI]のチャールズ・リャンCEOは台湾出身だ。また、ブロードコム[AVGO]のホック・タンCEOはマレーシア生まれの中国系アメリカ人
米民主党元下院議長のペロシ氏、ブロードコム[AVGO]に新たな投資
そのブロードコムに米民主党のナンシー・ペロシ元下院議長が新たな投資を振り向けたことが明らかになった。公開された資料によると、ペロシ氏は6月24日から7月1日にかけて合計4回の取引を行った。6月24日にテスラ[TSLA]を2500株売却する一方、権利行使価格800ドル、有効期限2025年6月20日のブロードコムのコールオプションを20枚購入。その2日後、エヌビディアをさらに購入し、7月1日にビザ[V]を2000株売却した。
ペロシ氏が新たにコールオプションを保有したブロードコムは、半導体とインフラ・ソフトウエア製品の世界的サプライヤーで、そのデバイスはiPhoneなどにも搭載されている。個別顧客向けの特注型ロジック半導体ファブレスメーカーで、生産はTSMCなどのファウンドリーに委託している。
直近の業績は好調だ。ブロードコムが6月13日に発表した2024年2-4月(2024年10月期第2四半期)の決算で、売上高は前年同期比43%増の124億ドル、純利益は21億ドルと1年前から39%減少した。大型買収に伴う費用がかさんだことから減益となったが、売上、収益ともに市場予想を上回った。好調をけん引したのはAI関連の売上
事業セグメントは「セミコンダクター・ソリューションズ」と「インフラ・ソフトウエア」の2つに分けられる。第2四半期のセミコンダクター・ソリューションズは、大規模データセンターに使われる生成AIシステム向けが好調で売上高は72億ドルだった。一方、インフラストラクチャー・ソフトウェアについては、第1四半期より買収したVMwareの売上高が加わったことから前年同期と比較して大きな伸びを示した。
今期(2024年10月期)の見通しについて会社側は、通期の売上高予想を510億ドルと、第1四半期時点に示した見通しから10億ドル引き上げた。買収したVMwareの収益貢献によって全社で大幅な増収が予想されるが、引き続き、買収関連費用と再編・統合費用などの影響で減益となる見通しだ。ただし、来期(2025年10月期)にはこうした費用が減少し、増益に転換することが期待されている。
ブロードコム、買収によるサクセスストーリー
エヌビディア同様、ブロードコムが10対1の株式分割の実施を発表
ブロードコムは7月15日付けで10対1の株式分割を実施すると発表した。10分割を発表したのはエヌビディアも同様だ。ブロードコムはエヌビディアと比較して語られることも多い。フォーブスは6月17日に「『次のNVIDIA』と期待、半導体ブロードコムの時価総額が120兆円突破」と題する記事を掲載した。
それによると、バンク・オブ・アメリカ[BAC]のアナリストは、7月13日の顧客向けメモで、ブロードコムをエヌビディアに次ぐ「第2位」のAI銘柄と呼び、同社の時価総額が将来的に1兆ドル(約157兆円)に届く可能性を示唆した。バンク・オブ・アメリカは、現状で1700ドル台のブロードコムの目標株価を2000ドルに設定しているとのことだ。
ただし、ブロードコムはエヌビディアとは異なり、最先端の汎用GPU(画像処理半導体)を手がけているのではなく、各顧客の特定のユースケースに合わせたカスタムチップを通じてこの業界に参入し
ている。例えば、グーグル[GOOGL]が手がけるオリジナルのTPUチップの設計などを担っている。
ブロードコムは2023年秋に、クラウドコンピューティング企業のVMWareを690億ドルで買収した。この買収は、当時、2020年代で2番目に大きな買収ということで話題となったが、これによりブロードコムはインフラストラクチャー・ソフトウェア事業への参入機会を増やし、今第2四半期には会社全体の売上が大きく伸びる結果となった。
ブロードコムのサクセスストーリーは、戦略的買収と最先端技術への絶え間ない注力の賜物だと言える。2009年、ヒューレット・パッカードの半導体製品グループからスピンオフして設立されたアバゴ・テクノロジーズが株式を公開したのがその旅の始まりだ。
2013年には大手チップメーカーのLSIコーポレーションを66億ドルで買収した。大きく飛躍するきっかけになったのは2016年のアバゴによるブロードコムの買収だ。これにより多様な製品ポートフォリオを持つ半導体の大企業となった。買収時にアバゴは社名をブロードコムに変更したが、ティッカーシンボル[AVGO]は残したまま現在に
2019年8月にはウイルス対策ソフト大手のシマンテックの法人向け事業を買収し、サイバーセキュリティ分野への多角化を図った。そして、2022年5月に仮想化ソフト最大手の「VMware」の買収を発表。この買収が2023年11月に完了し、現在では8000億ドル近い時価総額を誇る世界的な半導体およびインフラストラクチャー・ソフトウェアの巨人となった