あべっちの思いをこめた雑記帳

薔薇の季節に

 薔薇の季節になった。近所や町内に出ると、あちこちできれいな色と姿と香りで人々を楽しませてくれる。女性なら大方の人がその花は好きだろうし、むしろ好きでない人をさがすのがむずかしいくらい、世界中どこの国でも愛されている薔薇。  

 私の知人にも薔薇の好きなご婦人がいる。その方を含め五人で、近くのオープンガーデンと称する七軒ばかりの庭を観賞に廻ったのが一昨年のちょうど今頃だった。本格的な庭に見事な薔薇の数々が今でも目に焼き付いている。その七軒のうち一つはお花屋さんの庭園、もう一つは薔薇の公園であった。、

 私は薔薇に限らず花は何でも興味を示す、きわめて卑しい方なのだが、今縁あって「夜中の薔薇」という本を読んでいる。305ページもある故向田邦子さんの随筆集。流暢な言葉だが、美文ではなく飾り気のない文章で、その数62編は何とも読みごたえがある。
 言葉の端々にさすがと思わせる日本語の良さが出て、新緑の季節の中、じっくりゆったり読書を楽しませてもらっている。

 彼女は昭和56年8月に52歳の若さで、台湾旅行中に航空機事故で亡くなられたが、人気テレビの「だいこんの花」「寺内貫太郎一家」などの脚本で知られた兼小説家だ。先日亡くなられた橋田壽賀子さんと人気を二分した脚本家として名高く、その急逝が惜しまれる。

 この随筆本のタイトル「夜中の薔薇」とは、シューベルト作曲の「野中の薔薇」の歌詞の勘違いだと書いてある。読書はまだ62編の途中ではあるが、女性ならではの観点から細かく鋭く書き綴っているとしみじみ思う。これが最後の随筆となったが、彼女には長生きしてもらって、たくさんの脚本や小説や随筆を書いてもらいたかった。
 奇しくもこの8月には、彼女が亡くなって40回目の命日を迎える。

 わが庭に目を向けると、昨年まできれいに咲いていた薔薇が、今年はダメだ。春先に都合で移植したのがきっと原因なのかもしれない。
 人の命も、花の命も、思うようにはなかなかいかない。


              「つれづれ(16)薔薇の季節に」写真は昨年撮影

                 


    花
三度結婚をしたと云って自慢にもならぬ
花は一度咲いて散つてしまふが
人間のやうに長い一生ではない。

女で 平民で まだクンシヤウを胸にした事がない
たつたいちど
薔薇の一輪を胸にして
クンシヤウがはりにしたいと思つたのだが
  ~ 以下略 ~
               林芙美子

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