棺の傍に用意されたお盆の中から、私は大きなカサブランカの花を一輪選んだ。思いがけない病いと闘い、痩せ細ったお嫁さんのお母さまの顔の周りを白い華やかな花で飾りたかった。ちょっと匂いがきついわと苦情がでるかもしれないな・・・と思いながら。さばさばと快活な女性だった。いつの日か、秋の月でも愛でながら、酒を酌み交わしたいと夢みていた。夢無惨。
遺体はカトレア、リシアンサス、カーネーションなどなど、おびただしい花で飾られた。ご主人は話しかけるように、妻の頬に触れた。彼女が育てた息子も娘も必死に涙をぬぐって、顔面を紅潮させていた。涙は流れて、こらえて、喪主のご挨拶があり。棺は親戚の男たちの手で運ばれて、霊柩車にのせられた。
車やバスが用意され、斎場へと向かう。斎場ではお別れの宴があるという。こうした宴は辛い。宴のあとには炎で焼かれた遺骨を拾う儀式がある。なのに、家族も親戚の人々もさりげない笑顔で宴をとりつくろう。しかし、彼女は59歳だったという。あまりに若い。弔いの宴は辛すぎる。車に乗り込むのを辞退して、寺を去った。
