現在8月の上旬。平地では猛暑日が連日続き、週末や連休にもなると避暑地を求めて田舎の原風景を流れる冷涼な清流へ各地から人々が集まる季節となってきました。
世の中とは上手く回らないもので、クーラーの効いた喫茶店にでも入れば一杯500円もする珈琲でも頼まなければいけないし、週末に海なんて行った日には人でごった返している始末。
さて、それじゃあ山奥の人が容易に入れない渓流で涼を取ろうとするとそれを許さない山の門番達に行手を阻まれます。
盛夏の山岳渓流沿いの林道を車で走っていると車体をコツンコツンと小突いてくる無数の虫がいます。
その正体は大小様々なアブの大群。大型のアブだと、スズメバチを模した様な姿の“アカウシアブ”なんかは見た目のインパクトこそ強烈で、刺されればそれは痛いのでしょうが、本当に恐ろしいのはちっこい方のアブなのです。
我が新潟の渓流釣り師の間では“メジロアブ”という愛称で親しまれて?いますが、正式名称を“イヨシロオビアブ”という小型のアブで、こいつがとてつもなく厄介な存在です。
イヨシロオビアブの何が恐ろしいかと言ったら、単純な人海戦術を駆使して襲い掛かってくるところです。10匹や20匹などという生易しさではなく100匹や200匹という大群で周囲をブンブンと飛び回られると、いくら毒性がないとはいえ「殺されてしまうのではないか」と錯覚してしまいます。
更に厄介なことに、蚊取り線香の強化版とも言える“パワー森林香”を焚いても、ディート濃度の濃い虫除けスプレーやハッカスプレーを身体中に振りかけても何の効果もなく変わらずブンブンと飛び回られます。
山への侵入者に襲いかかってくるのはアブだけではありません。これまた特に盛夏の渓流で多く見られる“ブユ”がとにかく厄介。
アブは刺されるとチクッとした痛みはあるものの先程述べた通り毒性はありません。しかし、このブユという虫、見た目は小蝿のようですがアブと同じように吸血昆虫でしかも毒を持っています。
こいつは刺された瞬間は少量出血はあるものの痛みはありませんが、刺されて時間が経過していくとともにとんでもなく激しい痒みに襲われます。酷い時には発熱を伴ったり最悪アナフィラキシーショックを起こしてしまう可能性もあります。
そしてアブやブユに気を取られていると今度は足元からは同じく衛生害虫のヤマビルが這い寄ってきます。こいつもまた厄介で気づかないうちに足元から這い上がり服の中に侵入してやはり吸血してきます。ヤマビルは吸血する際にヒルジンという血液凝固する作用を妨げる成分を注入してきます。知らぬ間に体から出血している箇所を見つければそれはもうびっくり仰天。またウネウネとしながら人に這い寄る姿は単純な気色悪さを感じずにはいられません。
5月6月という渓流釣りの最盛期が終わり真夏の盛りで中々外に出掛けるのも億劫で、家でゴロゴロ過ごす日々が続きます。久々に渓流釣りに出掛けようかと「よし!」と意気込むものの、頭の中を過ぎる吸血害虫の存在を思うとやはり重い腰は上がってくれません。
人間にとっては非常に厄介な存在の害虫も渓流魚にとっては厄介な釣り人を追い払ってくれる山岳渓流の門番なのかもしれません。