「五月の綿裏包針」(紅城楽弟, 2020/10, 小説家になろう)
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読了しました。
時は未来。エリートたちが集う美嶋高校である事件が起きる。その事件を巡って、やがて事態は意外な方向に……
今回は「#RTした人の小説を読みに行く」企画による読書です。
この作品の文字数は24万字弱です。
今回の「#RTした人の小説を読みに行く」企画では「10万字程度以下で完結済みの小説」を募集しました。
この作品はその規定をオーバーしています。
しかし、募集時に、この作品の文字数をチェックせずに受け付けてしまいました。
ですので、今回は特別にこの企画の対象とします。
*** 作品の概略と所感 ***
時は未来。
高度なVRや、自由に身体を作り変える技術が完成され、その恵みを享受できる時代。
エリートたちが集う美嶋高校で、ある事件が起きる。
通信課の女生徒が性犯罪に巻き込まれたのだ。
しかも加害者は同じ高校の教諭。
その事件を巡って、現実の学園内や、その学園のVR世界を舞台に、生徒会、委員会、部活動それぞれの面々が暗躍する。
謎のメモリーカードには何が隠されているのか。
やがて起きるさらなる事件。
そして意外な真相が明らかになる……
多くの伏線が張り巡らされています。
それらの伏線が、ラストに向かって徐々に回収されて行きます。
よく練られた構成に思えました。
冒頭のお話しが結末で回収される様もお見事でした。
*** ここからはネガティブなことを書きます ***
** 構成について **
登場人物が多いです。
さらに、その多い登場人物それぞれに、多くのエピソードを割り振っているため、お話しがなかなか進展しません。
そして、この物語には、明確な主人公の存在が感じられませんでした。
群像劇であっても、主人公がいて、その主人公を中心にストーリーが進むと、物語の冗長な部分が少なくなり、作品世界に没入しやすくなります。
主人公が設定されていると、話者(物語を語る視点)が安定し、感情移入もしやすいのです。
この作品は、著者の設定したシチュエーションを楽しむように書かれていると感じました。
そのシチュエーションを積み重ねることで、お話しが進みます。
物語り中で展開されるシチュエーションは、わたしにはあいませんでした。
** 文法などについて ***
この作品の文章には推敲の甘さが目立ちました。
助詞の使い方や文の区切り方が適切では無い部分が多くありました。
あげるときりがないのですが、例えば「動き出す五月九日, 古市和樹には高岡正弘の苦しみを理解できない」より以下の文章。
~高岡は腰を下ろして左右の末席を見渡すと、隣にはいつもの面々でもあるアマチュア無線部とボランティア部の部長が力なく会釈してきた~
上記の文章は助詞の使い方や文の区切り方が適切ではなく、違和感を与えます。
この文章は、例えば次のように書き直すとわかりやすくなります。
~高岡は腰を下ろして左右の末席を見渡す。隣にはいつもの面々でもあるアマチュア無線部とボランティア部の部長がいて、力なく会釈してきた~
他にも、例えば「転回の五月十日, 高柳椿は自分の身に危機が迫っていることを知らない」より以下の文章。
~椿はどちらが妹か分からないような注意を受けると、桜は否応なしに椿の腕を掴んで家の中に引っ張り込む~
上記の文章も助詞の使い方や文の区切り方が適切ではなく、違和感を与えます。
この文章は、例えば次のように書き直すとわかりやすくなります。
~椿はどちらが妹か分からないような注意を受けた。その椿を、桜は否応なしに腕を掴んで家の中に引っ張り込む~
また、誤字脱字があまりにも多い。
わたしがアマチュア作家の作品を読む時には、ある程度の誤字脱字には目をつむります。
あって当たり前だからです。
ですが、この作品では、わたしの限度を超えました。
あと、気になったのが字下げのルールです。
縦書きの文章では、行頭に空白を一文字置く場合があります。
通常は段落の先頭で行います。
これを字下げと言います。
縦書きの文章で改行した場合、通常、段落はそこで終わりです。
次の行からは新しい段落が始まります。
ですから、縦書きの文章では改行するたびに次の行頭で字下げをします。
横書きの文章では、この字下げを全く行わない場合と、縦書きの文章と同じように行う場合があります。
この作品は、そのどちらのルールにも従っていません。
新しい作品を書かれる場合は、どちらかのルールに従って書かれるとよいかもしれません。
*** 感想は以上です ***
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