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 テインセインの「善政」 (ミャンマー)

2022-07-17 14:10:16 | ☆メディア(本・映画・Web・音楽など)
ミャンマー国軍が、アウンサンスーチー氏の国民民主連盟(NLD)から実権を奪ったクーデターからまもなく一年半。二千人超の市民が殺害され、世界の耳目がウクライナ情勢に集中する今も、苛烈な弾圧は続きます。

 国軍の暴挙であることは当然ですが、今こそ、あえて振り返ってみようと思うのです。今は悪名高き国軍の出身者が、十年ほど前に実現した「善政」の時代を−。
 時計の針を二〇一〇年に戻します。

 

◆矢継ぎ早の民主化政策

 その人物とは、当時、タンシュエ大将をトップとする軍政の序列四位で、首相だったテインセイン中将です。



 
 その年、中将は国軍の方針で軍籍を離脱し、総選挙に出馬、当選します。NLDは不参加で、自ら率いた国軍系の政党が圧勝、翌一一年には国会議員らの投票で大統領に選ばれました。形の上では、軍政から民政への転換を体現したわけです。

 ミャンマーはそれまで、半世紀に及ぶ軍政が国民を弾圧し、米欧からの経済制裁が続いて国際的に孤立。外貨も底をついて、アジア最貧国といわれていました。



 
 国軍は一〇年、延べ十五年間自宅軟禁していたスーチー氏を釈放。さらに、民政移管によって海外からの投資を呼び込もうと考えました。無論、国軍の影響力は温存したまま、という思惑です。

 その意を体して大統領になったのがテインセイン氏でしたが、タンシュエ大将の「忠実な部下」との評がもっぱらでした。でも、「民政の顔をした軍政になるだろう」という内外の予想はすぐに裏切られます。矢継ぎ早に民主化政策を打ち出したのです。

 拘束していた五百人以上の民主派を釈放した際には、国連の潘基文事務総長(当時)が「ミャンマー指導部を称賛する」と評価しました。また、新聞の事前検閲を撤廃。一定の表現の自由を実現しました。為替制度を改革して外資を呼び込みやすくもしました。少数民族の一部とは停戦協定を結び、治安の安定も図りました。


 

 一連の改革で米欧をはじめ国際社会は軟化。ミャンマーは「アジア最後のフロンティア」との称号を得て、経済は活況を呈します。

 国民一人当たりの名目国内総生産(GDP)は、今世紀初めには二百ドル以下だったのに、テインセイン政権の一四年度には千二百ドルを超すまでに成長したのです。

 テインセイン氏は、軍政当時は首相として弾圧の先頭に立っていました。大統領になってからの“転向”ともいえる変身ぶりの理由はなお判然としません。「タンシュエ大将に命じられた人権侵害に抵抗を感じていた」「経済再生には民主化しかないと考えた」など、諸説が語られていますが、名古屋学院大の鈴木隆教授(国際政治学)は、こう大胆に推測します。

 「もし一一年に、(今回のクーデターの首謀者)ミンアウンフライン現国軍総司令官が大統領になっていたとしても、同じような民主化を進めたのではないか」。それほど、当時の国内経済は疲弊していたというのです。

 スーチー氏とも協力して民主化政策を遂行したテインセイン氏でしたが、「民主化を進めたのは私。政権は渡さない」という思いは強かったようです。
 一五年の総選挙でも、国軍系政党が勝てると信じ込んでいた節があります。しかし、結果はNLDの大勝。テインセイン氏は政権を失い、政界を去りました。もっとも、この“退場”は、スーチー政権が国軍との懸け橋を失った瞬間だったのかもしれません。それが、今回のクーデターの遠因だと指摘する向きもあるのです。

 クーデター後のミャンマー経済は目を覆いたくなる低迷ぶりです。世界銀行によると、二一年度の経済成長率はマイナス18%で、二二年度も回復は難しいとみられています。「アジア最貧国」への逆戻りもあり得る状況です。

 


◆政変で国力は再び低下

 民主派との戦闘でも、一部で国軍の苦戦が伝えられています。国際的な孤立が深まる中、国軍総司令官は今月、ウクライナへの理不尽な侵攻でやはり孤立するロシアへ飛び、高官らに経済協力の強化を懇請しています。こんな体制が長続きするとは思えません。


 

 今の国軍は、十年少し前、国軍の強権支配が国際的な孤立を招いて、経済がにっちもさっちも行かなくなった時、国軍の「先達」がどんな決断をしたのか、落ち着いて思い出してみるべきです。そう。結局は、民主化を進める以外に道はありません。さっさとNLDに政権を返すことです。現下の泥沼のような状態から国軍自身が脱する道も、それしかないのです。


 
中日新聞より
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