妄想と戯言2

完全自己満足なテキストblogです。更新不定期。
はじめに!を読んでください。

すきないろ。 (消耗品軍団)

2017-01-13 15:02:57 | 映画
エクスペにはまってます。ガン→←ヤン風味。








「好きな色は?」

特に意味もなくメンバーが集まったドッグの片隅に、シーザーの声はやけに静かに響いた。暇潰し程度に他愛のない、当たり障りのない会話を繰り広げている最中の、これたま素朴な疑問。その質問を投げ掛けた男は、だから、と続きを繰り返す。

「好きな色だよ。聞こえたろ?」
「ああ。聞こえた」
「俺は赤だな!燃え盛る情熱…イカすだろ?おまえは?」
「…そうだな、」

赤が好きだと言った彼の瞳は、俺の答えに興味があるわけでも無さそうに手元の武器を眺めている。手入れを止めるつもりもないらしい。それもそうか、と少しだけ眉間に力が入った。仲間とはいえ「好きな色」なんて質問はナンセンスすぎる。ましてや、たまたま近くに居たから雑談していただけの相手だ。だらだらと続いていた暇潰しの延長線のような会話の終着点が「それ」だなんて。

「なんだよ、まさか無いってんじゃないだろ?」

余程、俺との会話に堪えているのか、シーザーは欠伸をひとつ溢してからそう続けた。少し大げさに驚いた表情を作られて、流石に即答できないのはおかしいかと首を横に振って答える。

「何色だ?」
「…強いて言えば、金かな」
「アッハハ!そいつはおまえらしい!」
「ああ、よく言われる」

おどけたような仕草で返す。その返答に満足したのか一通り笑った後、俺と会話をする気が完全に失せたらしいシーザーは鼻歌混じりに愛しの‘彼女’たちの手入れへと専念し出した。それを横目に、腰掛けていたソファーへ更に体重をかける。
実につまらん。ギシリ、とスプリングが軋み深い皺を作った。さてまた暇になったと、既に充電の少なくなった携帯電話を手に取る。もちろんだが、特に何かを調べるでも、誰かと連絡を取りたい訳でもない。ふと、携帯を弄るフリをしながら辺りを見渡した。
夕方に差し掛かっているせいか外から影が伸び、ドッグ内の半分が影に支配されている。
バラけた場所で各々、好きな事をして時間を潰す仲間たち。愛車をメンテナンスする者や、談笑混じりに自分の武勇伝を語る者。その中で一際目を惹く金色が、薄暗いドッグ内でもキラキラと輝いているのが分かる。

ガンナー・ヤンセンだ。

気配を殺し目を細めて、普段は気にも留めないはずのその男を凝視してみた。
俺の座るソファーから少し離れた古い椅子に腰掛け、愛用らしい大振りのナイフを何度も何度も研いでいる。ゆっくりと、しかし力強く。伏せられた瞼にかかる影は深い。いまいち表情までは分からなかったが、その影が落ちる睫毛の金でさえも輝いているように見えるのは何故だろうか。

不意にガンナーの視線が上がる。見ていた事がバレたかと少し警戒するが、彼方から見れば俺は携帯を弄っているだけのように見えているはずだ。
落ち着いて、気づかれないようにゆっくりと視線を手元の携帯へ落とした。どうやら上手く誤魔化せたようで、一呼吸も待たないうちに彼の視線は此方から外れ、首を傾げながらも再びナイフの手入れに勤しみ始めている。
誰も気にかけていないような、そんな雰囲気を纏い、人知れず溜め息を吐いた。
ガンナーにだけは、此方が不利になる状況を作りたくないのだ。犬猿の仲であった、彼にだけは。


生まれてこの方、好きな色は?そう問われる度に、即答できた試しがなかった。特に何かに執着するような性格でもなく、強いて言えば戦闘時に身につけるものは黒一色を好んでいる、その程度だ。しかしそれは「性能」を重視した上での選択であって、普段から好きで身に付けているかと問われれば、答えは否だった。現に今だって、白いインナーに紺のジャケットを羽織っている。派手なものは好まないが、拘りがある程でもない。

だから、即答出来ないでいた。この手の「当たり障りのない質問」は、嘘にまみれた世界で生きていくために俺が張った防衛戦のような役割を果たしているからだ。そんな事にまで嘘を重ねたくはない。実に頑固で面倒な性格という事は自覚しているが、生憎この下らない本心をさらけ出すような親しい人間も少ない。先ほどのシーザーの問に「金」と答えた理由も単純だった。仲間内での俺のイメージに沿った、ただそれだけの事。深い意味が有るわけもなく、あの男の金色に惹かれる理由としても、似たようなものなのだ。

暫く携帯を見つめていた視線を、もう一度ガンナーに向けた。やはり真剣にナイフの手入れをしていて、これは好都合だとばかりに再びその金色を眺める。綺麗だとか、透けるように美しいだとか、そんな甘ったるい感情が湧いた訳じゃない。ただ純粋に、不思議なほど輝いて見える。年のせいで霞み始めているはずなのに、ただ、キラキラと。
あれを眺めていれば、多少なりともこの守銭奴と言われる性格がマシになるような気さえ起きてきていた。もしも、見ていた事が誰かにバレてしまった時の言い訳にでもしようか。きっと皆は、現金なやつだと笑ってくれるだろう。

「ヤン、ちょっといいか」

そこまで考えて、突然呼ばれた己の名前に顔を上げた。バーニーと、そしてその隣にはクリスマスもいる。

「ああ、何だ?」
「仕事のことでちょっと…来てくれ」

いつもの相談事だとクリスマスが続ける。仕事を請け負うか否かの判断は大抵、俺を入れたこの三人で最終的に判断する事が多い。わかった、と素直に携帯を仕舞い込んだ、その瞬間だった。

「ッ、」

バチリッ。火花でも舞ったんじゃないかと思うような眩さに一瞬、ソファーから立ち上がろうとしていた動きが止まる。俺を射殺さんばかりの眼力で此方を見ていたのは、先程まで輝いていたはずの、影のせいか少し淀んだ金髪を垂らすガンナーだった。その瞳は間違いなく俺を捕らえている。

見ていた事がバレたか。いや、それならもっと早く絡みにくるはずだ。何故、俺を見ている。

コバルトブルーを想わせる澄んだ瞳に、少し前までは当然のように含まれていた殺意は感じられない。ただ力強く、此方を見ているだけだった。俺と目が合おうとも其れが外れる事は無い。

「どうしたヤン、早く来いよ!」

先にドッグの入口へ向かったクリスマスが叫ぶ。ハッとしてバーニーを見れば、ジェスチャーだけで、どうした?と繰り返していた。それにはお得意のおどけた顔で返して初めて、数秒の間ガンナーと見つめ合っていたと自覚し、我に返る。

「……何でもない。いま行くさ」

ポーカーフェイスは得意だ。どんな状況でも己を偽れる自身はある。だが、自分は今どんな顔で、どんな瞳で奴を見ていた?何かイケナイ事をしでかしたような感覚が足元から這い上がってくる。何だ、これは。

ガンナーから視線を外した俺は、そそくさと無表情を作り、バーニーたちを追いかけた。内心は全てを見透かされたように浮き足立っていたが、誤魔化す事に精一杯だ。立ち上がったソファーから鳴ったスプリングの軋みでさえも、今は耳に入らない。
唯一、シーザーの鼻歌と自分の心臓の音だけが一際大きく、まるで耳鳴りのように響いてる。あの質問から始まった先ほどまでの光景が、脳内をグルグルと掻き回していた。



───すきないろは?



バーニーたちと仕事の話をしている最中でさえ、あの霞んだ金髪と澄んだコバルトブルーが頭から離れない。どうやらこれからは、この質問に言葉を濁らせる必要も無さそうだ。





おわり。



エクスペ1~2の間に、どちらかともなく意識し始めるガンヤンがあってもいいじゃない。殺意→愛情への変化を認めたくないヤンとかだったら萌える。

お粗末様でした!