妄想と戯言2

完全自己満足なテキストblogです。更新不定期。
はじめに!を読んでください。

曇天 (消耗品軍団)

2017-01-20 09:09:40 | 映画
相変わらずのガン→←ヤン。
ヤンデレ気味ガンナーと流されそうになるヤンの話。











その日の俺は、やっとの思いで手に入れた(バーニーからもぎ取った)久しぶりの長期休暇を、故郷で過ごしていた。中国の富豪を無事に送り届けた後、なかなか帰ってくる機会もないからと、昔馴染んだダウンタウンで羽を伸ばし、その居心地の良さを噛み締めていた。

ほんの数時間前までは当たり前だった銃撃音も、染み着いた虚勢も、親しみのある罵倒も、嗅ぎ慣れた硝煙までも、まるで全てが夢だったかのように、今は穏やかな気分でバカンスを満喫している。宿泊するホテルだって、値段の割には行き届いたサービスと従業員の程よい無愛想さに満足しているし、何よりホテルに着いてから命の危機というやつに未だ遭遇していない。実に有意義だ。
普段は守銭奴と揶揄される性格だが、この時ばかりは財布のヒモも弛んでしまっていた。鴉のタトゥーを背負うあの仲間たちの事だ。今の俺の姿に驚愕する事は間違い無いだろう。


部屋に付属された丸テーブルには、愛用の黒いキャップと一丁の銃がおなざりに放られている。用心に越したことはない。
ふと、テレビを眺めていた視線を外に向けてみる。灰色に覆われた空に反射したネオンが鈍く光っている。まだ昼前だというのに、辺りは薄暗く、一雨降りそうだと云わんばかりの曇り空に覆われていた。
腰掛けていた黒い革張りのソファーから、窓際に広がるベッドに移動し横たわる。その曇天色した景色をぼうっと眺めながら、安物だがそのチープな味が気に入っている酒を一気に煽った。酔っているのか、テレビの音がやけに遠くで響いているようだ。

それは、仲間と別れてまだ数日ほどしか経っていない。そんな、やけに濃い色をした曇り空が印象的な、そんな日の事だった。





ピピピッという機械的な音が、アルコールで麻痺した脳内をじんわりと刺激しては、過ぎて行く。電話が鳴っていると頭で理解しても、微睡みは煩わしく、俺の睡眠欲を駆り立てる。
数回、寝返りを打ってみた。音はまだ止まない。そういえば、留守電の設定はどうなっていたか。もう一度だけ寝返りを打つ。

ピピピッピピピッピピピッ…ピピピッピピピッピピピッ…

「……ッ、」

ぼんやりと、だが確実に覚醒した脳内で、鳴り止まないその音に大きな舌打ちを溢した。起き上がり、ゆっくりと数回、瞬きを繰り返す。
部屋の固定電話ではない。仕事用の携帯は電源を切っている。ならば、と壁に掛けてあるジャケットを振り返った。音は左ポケットからその存在を示している。
暫くそれを見つめて、やはり鳴り止まない機械音が疎ましくなった俺は少し乱暴に、そこからプライベート用の携帯電話を取り出した。画面に表示された番号に見覚えはない。そもそも、この携帯の番号を知ってる人間自体、限られているのだ。思い浮かぶ程度に数人の知人や、先日別れたばかりの仲間たちを思い浮かべた。
奴らの中でこの番号を知っているのはバーニーだけだ。何かしらトラブルがあったのかもしれない。助けが必要、なのかもしれない。一瞬嫌な間が空いた。悪寒がする、と言ったほうが正しいのかもしれない。それでもやはり煩く鳴るそれを無視するという選択は、俺にはもう無かったのだ。

少し冷えた、電子機器特有の感触が耳元を掠めた。窓から覗いていたのは相変わらず濃い灰色に包まれた空で、今が夜なのか朝なのか検討もつかない。
はい、と小さく呟いてから一瞬の間の後、この携帯からは決して聞こえるはずのない、それでも嫌というほど聞き慣れた深みのある低音が、アルコールで痺れた脳を刺激しやがる。

「…俺だ、ヤン」

電波を介しているからか、その声は少し掠れているように感じる。名乗りもしないその男はもう一度、俺だ、と小さく続けた。

「…ああ、聞こえてる」
「そうか。俺の事なんて忘れちまったのかと思ったぜ」
「バカを言え。別れて数日しか絶ってない」
「冗談じゃねーか。ツンケンするなよ、ヤン」
「別に怒ってない」

数日ぶりの会話に違和感は無かった。喧嘩するほど、とバーニーたちはからかうだろうが、俺は、この男との関係を‘言葉’なんかで言い表す事は決してしない。

「何の用だ、ガンナー」

思った以上に無愛想な声色だったかもしれない。だが、それも寝起きのせいだと言い訳する。わざわざこの男が、俺に電話を寄越したのだ。そんな小さな事を気にしするような相手でもない。

ああ、ああ、とガンナーが繰り返す。何かを言い淀むその空気が気持ち悪く、少し焦らすようにその名を呼んだ。

「ガンナー」
「…何だよ」
「それはこっちの台詞だ。用がないなら切るぞ。電話代が勿体無い」
「まあ、待てよ、ヤン」
「十分待ったろ」
「ああ、そうか…いや、そうじゃなくて……なぁ、ヤン」
「何だ」
「...ダニーがな、」
「ああ」
「......死んじまった」

さっきまでは掠れて聞こえていたと思った奴の声が、やけにはっきりと脳ミソの中に響き渡った。不安と恐怖と、そしてすがるような懇願が混じった声だった。

「...殺されたのか?」
「ああ...あの野郎、俺がぶっ殺してやる」
「...そうだな」
「なあ、ヤン。アイツ、良いヤツだったよな、ダニー」
「ああ...」
「俺よか、ずっと、ずっと良いヤツだったんだよ...」

そりゃそうだ。当たり前の事を言うな。ダニーとお前を比べるなんて検討違いにもなりゃしない!なんていつもの軽口は、なかなか言葉として出てこない。
それが、明らかにいつもの様子じゃないコイツのせいなのか。それとも、数日前、あの飛行機の中で笑い合った仲間たちの中で、まだ幼さと遠慮が混ざりあったようなその笑顔がちらつくせいなのか。
受話器越しに漏れるため息と、ほんの僅かに鼻を啜るヤツの哀しみが、嫌でも伝わってくる。俺達は、いつだって解りすぎてしまうのだ。
ガンナーは彼の事を自分より良いヤツだと言った。そして、その男が死んだ。こいつの魂胆が分かってしまう己が、一番嫌いだ。

「ヤン。お前は、俺と同じだよな?」

泣いているかのような声色が煩わしい。図体ばかりの木偶の坊が。俺はお前のママじゃないんだ、ガンナー。俺とおまえは。

「なあ、ヤン...!」
「...ああ、同じだ、ガンナー。俺も、お前も。生きていようが、死んでいようが、何処に居たって、何をしていたって......俺は、おまえが...ッ、」

突然、窓を叩いた痛々しい程の雨音と、チカリと網膜に射し込んだ雷が俺達の間に割り込んできたのは、その、決して口には出すまいと決めていた言葉が溢れ出そうになった瞬間の事だった。呑みすぎたのか何なのか、認めたくはないが、やけに心臓が痛む。

「...なあ、ヤン」
「雨だ。雷も鳴ってる」
「...こっちは晴れてるぜ。晴天だ」
「そうか」
「なあ、さっき、何を言いかけた?」
「甘えるなよガンナー」
「......」
「バーニーに伝えてくれ。助けが必要なら呼べ。金は請求するが、俺もおまえたちと同じ気持ちだってな」
「...伝えとく」

我に返るとまではいかないが、己の失態とヤツの考えの甘さに反吐が出る。俺達は、仲間の死でさえも言い訳にしようとしたんだ。くそったれめ。

未だ何かを言いたげなガンナーには聞こえる程度の悪態をいくつか吐いて、そしてダニーを埋葬した場所を聞き出したところで一方的に通話を切ってやった。直後、無機質な電子音だけが響く。用の無くなった携帯をソファーへ投げ、再びベッドへ横たわる。
空を見上げるも、先ほどまでの灰色はすっかりと闇に溶けてしまったらしく、雨と雷と深い黒に覆われていた。


ダニー、戻ったら一番にお前の墓へ上手い酒でも持っていく。約束だ。








おわり



わたしの中のガンナーの精神年齢すごく低いですよ、な話になってるような気がする。
ガンナーはシリーズ通して拗らせてるけど、ヤンは
エクスペ2が一番拗らせてるよね。

お粗末でした!