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信長燃ゆ(上・下)~安部龍太郎

2008-05-05 22:55:32 | 

 信長といえば、数限りなく小説に描かれ、そのドラマティックな最期である本能寺の変についても同じく、無数の作品で、「真相」が語られています。

 本書もその1つなのですが、かなり斬新な切り口で、信長の人間性・思想を骨太に描き、本能寺の変についても、その陰謀の深層が新しい視点でダイナミックに描かれているのです。

 まず、信長ですが、「狂気を孕む孤高の天才」という従来の描かれ方もされていますが、あまりに並外れた洞察力を持ち、日本と日本国民の行く末を深く憂う優れた為政者であった、とされています。イスパニアなどの西洋列強の侵略からいかにこの国を守るか、その為に古来から国を支えた神道と帝をどう位置づければよいか・・・この難問に、気が狂うほど悩み苦しみ、激しく立ち向かう信長・・・

 そんな彼にとっては、帝の権威を狡猾に利用し、自らの地位を守ろうとする公家や庶民の幸せより私利私欲に走る仏教勢力などは、たいへんなストレスの種だったことが痛いほど分かります。

 次に、本能寺の変の深層は、稀代の謀略家であった近衛前久を中心とする宮廷・公家勢力が、明智光秀などを巻き込んで起死回生の博打を打った結果とされているのです。このあたりの描かれ方も、さもありなん、と思わず納得してしまうような、説得力です。

 もう一つ、本書の魅力は、当時親王の后だった観修寺晴子と信長の道ならぬ恋が秘めやかに、かつ官能的に描かれているところでしょう。自立した精神の権化である信長に接し、今までの生き方に疑問を感じ、大きく自分の運命を荒波に投げ出す晴子・・・ふたりの精神と肉体の邂逅が時に悲しいほど美しい情景をバックに描かれているのです。

 新聞(日経)連載という制約からでしょうか、全体の構成に少し難があるような気がしますがそれをカバーして余りある力作だと思いました

 



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