新古今和歌集の部屋

歌論 正徹物語 上 105



哥詠まぬ時、妙物共を見渡して、晴の哥詠まんとては、妙物共をさはと取り置きて、何も無くして案じたるがよき也。哥讀む時、古抄物を見てちとづつ書き付け置きて讀みたるは、何としても同類もあり、よき哥も無き也。さやうに讀付けぬれば、くせに成りて、晴の哥の詠まれぬ也。昔は女房などは或ひは臥して詠み、或ひは燈をかすかにかゝげて心細くして案じたる人もあり。西行は一期行脚にて、哥を讀みしかば、緣行道して案じ、或ひは北向の戸細めに明けて、月の影を見て案じ、定家は南向を取りはらひて、眞中に居て、南を遙かに見はらして衣文正しく居て案じ給ひき。是が内裏仙洞などの晴の御會にて讀む樣に違はずしてよき也。俊成はいつもすゝけたる浄衣の上計りを打懸けて、桐火桶に打ちかゝりて案じ給ひける也。かりそめにも自由に臥したりなどして案じたる事はなかりき。我/\も自然寝覺めなどに讀みたる哥を置きてみれば、必ず能くもなかりし也。
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