新古今和歌集の部屋

湖月抄 藤袴 源氏の考え

              はじめ遠慮なかりし事のかろ/"\しきやうなると也
みおふ。かへりてはかる/"\しきわざなりけ
      夕がほの事と也
り。かのはゝ君゙の、哀にいひ置しことの
わすれざりしかば、心ぼそき山里゙になん
                  内大臣の事也
ときゝしを、かのおとゞはた、聞入給べくもあ
                             玉かづらを六
らずとうれへしに、いとほしくて、かくわた
条院へ也
しはじめたるなり。爰にかく物めかすと
て、かのおとゞもひとめかい給なめりと、つ
                    其実は兵部卿宮の
き/"\しくの給なす。人がらはみやの
室家にて可然と也           玉かづらの躰を源のほめ
御人にて、いとよかるべし。いまめかしういと
たまふなり
なまめきたるさまして、さすがにかしこく
あやまちすまじくなどして、あはひはめや
             褒美しての給ふ也
すからん。さて又宮づかへにもいとよくたら
頭注
かゝる事の かやうのくる
しき事をもかけはなれ
てよそに聞べき物を我
子のやうにし給ふて今は
後悔なると也。此玉鬘
のよるべなきさまを見過
しがたくて御子のやうに
かしつきてかく人々のう
らみをおひ給ふと也。
かのはゝぎみの哀に
三光院御説云。夕顔上
の事を源のの給ひ出ず
也。此説はなき事をつ
くり出しての給ふ也。仍て
つき/"\しきといへり。
かのおとゞはた 又ちゝおとゞ
の引取給ふべき樣もな
きとなり。
つき/"\しくの給なす
母君のあはれにいひ
をきしと宣ふより
みなそらごとなれば
かくいへり。
ひたらんかし。かたちよくらう/\じき物の、
おほやけごとなどにもおぼめかしからず。
はか/"\しくて、うへのつねにねがはせ給御
                         夕霧の源の心
心には、たがふまじきなど、の給けしきの
を見んとて被申也    夕霧の詞也
みまほしければ、年ごろかくてはぐゝみ
                    源の心などかけ給ふよし
きこえ給ける御心ざしを、ひがざまにこそ
人のいへる也      √内大臣也
人は申すなれ。かのおとゞも、さやうになんを
        ひげ黒也 内府へ玉かづらの事を申入られしにもと也
もむけて、大将のあなたざまのたよりに、
                    内大臣の大将へ也
氣色ばみたりけるにも、いらへ給けると
            源のさま也      源の詞
聞え給へば、うちわらひて、かた/"\いとに
げなきことかな。猶みやづかへをも、なにご
     実父の許諾にこそしたふべけれと也
とをも、御心ゆるしてかくなんとおぼされん
 
頭注
としごごろよくてはぐゝみ
師 源氏の玉鬘をやしな
ひ給をけさうじ給やうに
人の申と夕霧の申給也
 
 
大将のあなたざま
細大将の内々申さるゝ
をも父おとゞは此をも
むきの返答をし給へ
ると也
 
 

み負ふ。かへりては軽々しきわざなりけり。かの母君の、哀に言ひ
置し事の忘ざりしかば、心細き山里になんと聞きしを、かの大臣、
はた、聞き入れ給ふべくも非ずと愁へしに、いとほしくて、かく渡
し始めたるなり。ここにかく物めかすとて、かの大臣も人めかい給
ふなめり」と、つきづきしく宣ひなす。
「人柄は、宮の御人にて、いとよかるべし。今めかしう、いとなま
めきたる樣して、流石に賢く、過ちすまじくなどして、あはひはめ
やすからん。さて又、宮仕へにもいとよく足らひたらんかし。容姿
(かたち)よく、らうらうじき物の、公事などにもおぼめかしから
ず、はかばかしくて、主上(うへ)の常に願はせ給ふ御心には、違
ふまじき」など、宣ふ気色のみまほしければ、
「年比、かくて育み聞こえ給ひける御志を、僻樣にこそ人は申すな
れ。彼の大臣も、左樣になんをもむけて、大将の彼方樣の便りに、
気色ばみたりけるにも、いらへ給ける」と聞え給へば、打笑ひて、
「方々、いと似げなき事な。猶、宮仕へをも、何事をも、御心許し
て、かくなんとおぼされん
 
略語
※奥入 源氏奥入 藤原伊行
※孟 孟律抄  九条禅閣植通
※河 河海抄  四辻左大臣善成
※細 細流抄  西三条右大臣公条
※花 花鳥余情 一条禅閣兼良
※哢 哢花抄  牡丹花肖柏
※和 和秘抄  一条禅閣兼良
※明 明星抄  西三条右大臣公条
※珉 珉江入楚の一説 西三条実澄の説
※師 師(簑形如庵)の説
※拾 源注拾遺
 
 
 
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