ゆらぎつつゆく

添島揺之歌集。ツイッター感覚で毎日つぶやきます。色調主義とコラボ。

初恋

2018-08-17 03:34:27 | 資料


まだあげ初めし前髪の
林檎のもとに見えしとき
前にさしたる花櫛の
花ある君と思ひけり

やさしく白き手をのべて
林檎をわれにあたへしは
薄紅の秋の実に
人こひ初めしはじめなり



有名な藤村の初恋である。全文を出すまでもあるまい。
これは暗記している人も多いはずである。
甘酸い恋のたかなりが聞えてくるようだ。
美しい詩文である。



花櫛のかたぶく影に色さして君におぼるるきざしにゆれぬ    揺之





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空に真赤な

2018-08-16 03:32:11 | 資料


空に真赤な雲のいろ。
玻璃に真赤な酒のいろ。
なんでこの身が悲しかろ。
空に真赤な雲のいろ。


北原白秋である。
夕焼け空を見ながらものうげに酒を飲んでいる人物の絵が浮かぶ。
酒はワインか。それともブランデーか。
どちらにしろ憂いを薄れさせる液体だ。
酒を飲んだとて憂いは減りはしない。だが。
それが必要だとしか言えない人間が悲しいのだ。



ゆふぐれてあまきぶだうの酒を飲みうれひうするるうれひにしづむ    揺之





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この残酷は何処から来る

2018-08-15 03:34:38 | 資料


どこで見たのか知らない、
わたしは遠い旅でそれを見た。
寒ざらしの風が地をドツと吹いて行く。
低い雲は野天を覆つてゐる。
その時火のつく様な赤ん坊の泣き声が聞え、
ざんばら髪の女が窓から顔を出した。
ああ眼を真赤に泣きはらしたその形相、
手にぶらさげたその赤児、
赤児は寒い風に吹きつけられて、
ひいひい泣く。
女は金切り声をふりあげて、ぴしゃぴしゃ尻をひつ叩く。
死んでしまへとひつ叩く。
風に露かれて裸の赤児は、
身も世も消えよとよよと泣く。



福士幸次郎の詩である。二連あるが前半のみ掲載した。
貧しさが人間の骨を洗うような時代があった。
貧家での子育てにはむごいものがあったろう。
寒い国で見た、人間の地獄のひとこまを、作者は心を叩きつけるように書いている。



生れ来しことは罪かと親にとふ子のまなこにぞ否とこたふる    揺之






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世わたりの

2018-08-10 03:26:52 | 資料

世わたりの拙きことを
ひそかにも
誇りとしたる我にやはあらぬ



今日は啄木である。
啄木は世渡りが下手だったのではない。
世間の方が間違っていたのだ。

若くして死んだ詩人の内部にも、
それくらいの認識はあっただろう。



空蝉の世をわたるにはからからとうそもほんとといひて悔いなく    揺之





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星みる人

2018-08-09 03:21:31 | 資料

ひるもなほ星みる人の目にも似むさびしきつかれ早春の旅    宮沢賢治



今日は賢治である。美しい一筋だ。

何のための旅かはわからない。

昼もなお星を見るというのは、探しても無駄なものを探しているというような意味だろう。

嘘ばかりの世界において、真実を求める求道者の魂は疲れを負うばかりだった。



早春の鳥の声をぞききとめて生き疲れにしわれと語りぬ    揺之






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恋といふ色

2018-08-08 03:24:58 | 資料

世の中に恋といふ色はなけれどもふかく身にしむものにぞありける    和泉式部



後拾遺集からなので資料に入れた。

和泉にとっては恋は深く身に染みて苦しきものだったのだろう。

あついほどに男を思うことができる。

それをかなりの歌にして表現できる才能は見るべきものがある。

男としては怖い気がするが、無謀な挑戦をしてみたい気もする。



恋の色べにかあをかととふきみのあはきゑまひにしばしこたへず



うかつだった。





コメント (6)
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砂浜を

2018-08-05 03:26:16 | 資料

砂浜を歩める人の遠ければ来るごとくまた行くごとく見ゆ    香川美人



これも本物の歌人であるらしい。

不毛の荒野を思わせる現代短歌の中で、わずかに水の気を感じるものである。

すぐれているとは言い難いが、確実に自分の歩を進めている人の作である。



浜を行くわれに気付きてとほつひとかすかにまよふ気配の見えぬ    揺之






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夏の日の歌

2018-08-04 03:26:23 | 資料


青い空は動かない、
雲片一つあるでない。
  夏の真昼の静かには
  タールの光も清くなる。

夏の空には何かがある、
いじらしく思わせる何かがある、
  焦げて図太い向日葵が
  田舎の駅には咲いている。

上手に子供を育てゆく、
母親に似て汽車の汽笛は鳴る。
  山の近くを走る時。

山の近くを走りながら、
母親に似て汽車の汽笛は鳴る。
  夏の真昼の暑い時。



今日は中也をとりあげた。
何かを浄めているような夏の光と、夏服の母の幻影がしじまのなかで結ぶ。
母親は上手に子供を育てられるのか。その声は汽笛に似ている。
何を言っているのか。

人間を育てるのはだれだろう。

真実との間に一瞬ひらめく傷が痛い。

詩人は親に上手に育てられたのだろうか。



かぞいろの夢となりたき子は病みてかなしかりけるゆがみゆく骨    揺之





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若しあらば

2018-08-03 03:25:17 | 資料

若しあらば煙草恵めと
寄りて来る
あとなし人と深夜に語る


今日は啄木である。
あとなし人とは、宿無しの放浪者という意味である。
いまでいうホームレスのことだ。
昔からそういう人間はいた。
啄木は煙草をめぐみ、何らかの話をしたのだろう。
その姿に、自分の何かを重ねでもしたろうか。
それとも、落ちた人間の卑しさをみたろうか。



はかなきといひてやすくは死なぬ身に老いてまた住むあとなし人よ    揺之





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青うみの

2018-08-02 03:25:10 | 資料

青うみのひかりはとはに明滅しふねはまひるの知多をはなるゝ    宮沢賢治



明滅ということばがでるとき、賢治の後ろに別の何かがたつ。
これは賢治自身の作とは厳密に言えぬ。賢治はこのような思索をする人ではない。
たれかほかの存在が、彼によって何かを表現しようとしている。

永遠の明滅とは何か。現れては消えてゆく生命の習いか。

その中で何かの繰り返しのごとく、船が動いてゆく。



まひるまのひかりまなこにあふれきてみさきにかかるあはき白雲    揺之





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