秋の野の草の袂か花薄穂に出でて招く袖と見ゆらむ 在原棟梁
薄の穂というのは、秋の野の草の袂だろうか。
だから、恋するあまり、わたしを招く女性の袖のように見えるのだろう。
秋草に結びて秘めしわがおもひゆめなひろひそ千歳をはぢむ 揺之
ヘンリー・ウォード・レンジャー(1858-1916)、アメリカ。
人の町を少し離れれば、静かな世界がある。
人間はいつしか、そんなところばかりを求めるようになった。
人間以外の声を、聞きたくなってきたのだろうか。
風は吹きもみぢをゆするその声にうれひを聞くや秋のおほぞら 揺之
トマス・ウィルマー・デューイング(1851-1938)、アメリカ。
女性が闇に塗りこめられている。
白い肌だけが空蝉のように浮かび上がっている。
幻になっていく人間の姿を予感しているようだ。
墨染のたそかれにあふまぼろしの白きおもてに忘るる月夜 揺之
アーサー・フランク・マシューズ(1860-1945)、アメリカ。
動きのある風景だが、押さえた色調と人々の硬い表情に、何らかの恐れを感じる。
時代は暗い方向に流れていても、春は来る。踊る人はいる。
だがそうしながら、人は何かの予感を感じているのだ。
かぎろひの春にとけゆくあはゆきのとけぬがごときおもひにうずく 揺之
ドゥワイト・W・トリオン(1849-1925)、アメリカ。
光が美しい。
希望はいつもこういう形でやってくる。
だがそれも深海の底に溶けていく一筋の糸のようだ。
人間はこれから、あまりにも大きな闇に入っていかねばならないのだ。
つはもののなさむ心を夏草のしげくためして世をとはむとす 揺之
秋ならで逢ふこと難き女郎花天の川原に生ひぬものゆゑ 藤原定方
秋でなくては会うのは難しい。女郎花のようひとには。
天の川の岸辺には、生えないものですから。
をみなへしをらずに見てはため息をつみておもひぬ人はうとしと 揺之