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『ジャイアンツ』(1956)

2008-06-09 19:04:46 | 映画・DVDレビュー
ジャイアンツ コレクターズ・エディション

ワーナー・ホーム・ビデオ

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一時のち
今更うちなんぞで取り上げるまでもないクラシック名画。実は、勝手に続けている『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』関連映画特集の一つです。
えっ、いつの間にそんなシリーズが!? ……って、まあ公開待ちの『オーストラリア(Australia)』関連でも度々引き合いに出されているようだし、ちょっとここらで触れておきたいと思った次第。

1956年製作。監督ジョージ・スティーブンス。広大なるテキサスの大地を舞台に、或る一家の約三十年間、三世代にわたる歴史を、彼らに関わる別の男の人生を交錯させながら描いた大河ホームドラマです。

ストーリー:1920年代。東部の裕福な医師の令嬢レズリー(エリザベス・テイラー)は、馬の買い付けに来たテキサスの大牧場主ジョーダン・"ビック"・ベネディクト(ロック・ハドソン)と恋に落ち、テキサスの彼の家に嫁いで行く。
初めて目にするテキサスの広大な土地に驚き、西部と東部の違いに戸惑いながらも、持ち前の勝ち気さで道を切り開いて行くレズリー。一家の中心として采配をふるっていたビックの姉ラズ(マーセデス・マッケンブリッジ)が落馬事故で急死した後、一家の女主人となった彼女は、メキシコ系住民や使用人たちにも偏見なく接し、保守的な土地にも新しい気風が持ち込まれるのだった。
反抗的態度で何かとビックと反目する牧童ジェット・リンク(ジェイムス・ディーン)も、そんな彼女を眩しく見つめていた。ラズの遺言により僅かな土地を与えられた彼は、野望を胸に、たったひとりで開拓に励むことになる。
一方、三人の子に恵まれながら、ベネディクト夫妻には性格や生き方の違いから諍いが絶えなかった。一度は子供たちを連れて実家に帰りながらも、結局夫の許に戻るレズリー。
そして、或る時ついにジェットの土地から石油が噴出する。ベネディクト家に乗り込み、公然とビックに宣戦布告した彼は、石油会社を起こして、次々と油田のある土地を買収開発、事業を発展させ、更に戦争に乗じて石油王と呼ばれるまでにのし上がって行く。
その間、レズリーとビックの子供たちも成長していた。双子のジョーダン三世(デニス・ホッパー)とジュディ(フラン・ベネット)は、それぞれ進路や結婚問題で親と対立。末娘のラズ・ジュニア(キャロル・ベイカー)は、リンクに興味を抱いて接近する始末。戦争の影も色濃くなる中、父母の悩みは絶えない。
やがて戦争も終わり、今やテキサス一の大富豪として、空港にその名を冠するまでになっていたリンクは、テキサス中の名士を招いて自分のホテルのオープニングセレモニーを開く。そこにはベネディクト一家も招待されていた。嵐の夜に行われたそれは、まさにジェット・リンクが名実ともにテキサスの王者となったことを見せつけるパーティとなるはずであったが──

とかく「ジェイムス・ディーンの遺作」ということばかりが喧伝される映画ですが(彼は撮影終了直後の1955年9月に事故死)、大河ロマンとして、それ自体ちゃんと面白い作品です。全部で3時間以上、本編だけでもDVD1枚では収まりきらない大作ながら退屈はしません。

一組の男女(夫婦)とその周辺の人間群像を数十年間にわたって描いたドラマということで、『風と共に去りぬ』が引き合いに出されることもありますが、ヒロインのレズリーは勝ち気ながら、スカーレット・オハラのように道徳的にはちょっとどうか?というような人ではないので、寧ろ共感し易いかも知れません。
東部のお嬢さん育ちと言っても、実はレズリーは開拓者の心を持った女性です。慣れない土地でも思ったことをはっきり口にし、差別や偏見にも立ち向かって行くレズリーを、時に持て余しつつもやっぱり愛している夫のビックは、彼女が決して思い通りにならない人だからこそ好きだったのかも知れません。
「性格や考え方が合わないことくらい初めから判っていたはずよ」とレズリーは言い、「九十年一緒にいても君のことは理解できない」とビックは言います。喧嘩ばかりしているように見える二人だけれど、それは馴れ合っていないというだけで、互いの愛情は確かなものです。でも、周りの人にしてみれば、はた迷惑な夫婦かも。子供たち、特に長男はいろいろ苦労してそうですね。この長男、若き日のデニス・ホッパーが、その後の彼からは想像できないような役柄を演じているのが面白かったです。
もう一つ面白いと思ったのが、双子が将来のことを親に相談する時、男の子は母親に「ママがパパに話して」と頼み、女の子は父親に「パパからママにお願いして」とおねだりすることです。洋の東西問わず、そういうものなんでしょうか?(笑)
とにかく息子は牧場を継ぐことを拒んで医者になり、娘は牧場を経営する意志はあっても、将来の夫と共に独立を考えている──という訳で、子供の人生など親の思い描く設計図通りにはならないというのも、時代や国を問わずよくある話。つまり、他の国の人間にとっても共感し易いエピソードです。

一方、これぞ「アメリカ」ならではと思わせるのが、ジェット・リンクの成り上がり人生です。
この役には実在のモデル、またはヒントとなった石油王が存在するそうですが、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』のダニエル・プレインビューのモデルとなった人物とは別人であるようです。20世紀前半のテキサスに於いては、そういう石油成金こそが新時代のヒーローだったということでしょうか。
牧場の下働きだった青年が一代にして財を築く様は、まさにアメリカ的サクセスストーリーですが、映画は寧ろこの男の負の側面を描き出します。
大牧場主の土地など殆ど先住民やメキシコ人から買い叩いたり簒奪したものだ、と言っていた彼が、同じやり方で土地を買収し油田を開発して行くのは、自分につらく当たった土地への彼なりの復讐だったのかも知れません。
裕福なお嬢さん育ちのレズリーより、そんな彼の方がメキシコ系住民への差別意識が強いのも、プアホワイト(という言葉も現代ではあまり用いないようですが)にはありがちなことのようです。

演じるジェイムス・ディーンは、青春スターと言うよりいかにも「アクターズスタジオの優等生」だと評したのは、有名イラストレーターにして映画監督、映画の名セリフを集めたイラストエッセイ『お楽しみはこれからだ!』シリーズでも知られる和田誠さんですが、確かに達者な演技です。
夭逝した「伝説のスター、ジミー」には思い入れのない私ですが、二十代前半にして、初老にさしかかったリンクをもさほど違和感なく演じているのはやはり大したものだと思います。寧ろその年齢で演じたからこそ、功なり名遂げた男に漂う安っぽさや、消えることない孤独の影が、より痛切に感じられたのではないでしょうか。
もちろん若いジェットの拗ねた雰囲気や、初めてレズリーと顔を合わせた時の、それまで見たこともない美しいものに出逢ってしまったことへ戸惑いも、ちゃんと「演技」として表現されていました。自分としては、青春スター「ジミー」の面影を愛惜するのではなく、これだけ演技力のあった俳優さんが若くして世を去ったことそのものを残念に思います。
ジェット・リンクの有名な「たった一人のスピーチ」の台詞は、ディーンのアドリブだったそうですが、収録してみるとその音声が聴き取れず、更に本人が急死してしまったために、声質が似ていたニック・アダムズ(自分などは東宝怪獣映画に出ていたガイジンさんのイメージが強い人ですが)を代役に、アテレコし直したということです。
「その後のジェット」を知りたいという声も多いようですが、あのパーティの後、財産はともかく名声は相当失われたことだろうし、巨万の富を手に入れても本当に欲しかったただ一人の女性の愛を得ることは叶わなかった彼が、結局孤独なまま人生を送るのだろうということは十分伝わって来るので、もうあれでいいと思います。

さて、さんざんだったパーティからの帰途、ベネディクト一家は街道筋の安食堂に立ち寄ります。長男ジョーダンの妻フアナはメキシコ人ですが(その時ジョーダン自身は同行していない)、そこで彼女や孫までもが差別的待遇を受けたことに怒ったビックは店主と大立ち回りを演じ、逆にのされてしまいます。
しかし、レズリーは「あの時のあなたが今まででいちばんかっこ良かったわ」と言うのです。
実はビックは、リンクのホテルでも、フアナが受けた差別に対してリンクと殴り合いをしていました。が、その時には、喧嘩したのは「息子の嫁が侮辱されたから」に過ぎない、パパもリンクと同じだ、とジョーダン自身に言われてしまいます。
しかし、息子が見ている訳でもない所で彼女や孫のために闘ったことで、彼自身の中にも変化が生じたようです。
子供たちは誰一人として思い通りにならなかったし、テキサスはジェット・リンクの会社に代表されるような巨大資本に牛耳られる。時代も社会も変化して行く。
こうなったら孫たちに期待するしかないな、と苦笑する彼の言葉は、しかし決して諦めではありません。
ラストシーンでビックとレズリーの視線の先にいるのは、互いに異なる肌の色をした孫たちです。より良い未来へと向かう変化もあることを暗示しつつ、この大河ドラマは幕を閉じます。

ジョージ・スティーブンス監督は『偉大な生涯の物語』や『シェーン』同様、雄大な自然の風景と人間たちを対比させるように描いています。風景とは単なる背景ではなく、そこに生きる人たちにとっては歴史そのものです。
タイトルの Giant(原題は単数形)とは、どこまでも広いテキサスを指すようでもあり、そこから産出した石油資源によって勃興し、やがてその大地を蹂躙して行く巨大資本を、ひいてはその後も肥大し続けて行った「アメリカ」自身をも象徴する言葉のようでもあります。

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3 コメント

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Unknown (poopa)
2022-11-18 05:38:06
素晴らしく正鵠を射た映画評。エクセレント!
ありがとうございます (レイチェル)
2022-11-18 22:35:35
長い文章をお読みいただき、更にお褒めの言葉までくだいましてありがとうございました。
「ジャイアンツ」について (オーウェン)
2023-11-12 09:28:36
こんにちは、レイチェルさん。
レイチェルさんの映画レビューを、いつも楽しく拝読しています。
レイチェルさんの本質をついた、深くて、読み応えのあるレビューに魅了されています。

このジョージ・スティーヴンス監督の「ジャイアンツ」は、エリザベス・テイラー扮する主人公の女性レズリーの広大な西部のテキサスでの生活や、牧場主であるロック・ハドソン扮する夫のビックとジェームズ・ディーン扮するジェット・リンクとの確執の狭間に立つレズリーの姿を通して、時代の大きな流れの中で揺れ動く、20世紀初頭のアメリカ西部をダイナミックに描いた一大叙事詩ともいうべき作品でしたね。

東部の名家に育ったレズリーは、長身のテキサス男のビックと結婚し、大牧場へと嫁いで来ます。
進歩的なレズリーは、使用人のメキシコ人の扱いなどで夫のビックと度々衝突します。

やがて、牧童頭のジェットが、地道に発掘調査を行っていた土地から、石油が吹き出し、彼はたちまち大富豪に。
轟音とともに石油が吹き出し、空を仰ぎ、全身でそれを浴びるジェームズ・ディーン。

ロック・ハドソンの大地主に代わって、蔑まれ続けた弱者が勝者になる瞬間が、まさにこのシーンですね。

テキサス一の牧場主、ベネディクト家から冷遇される彼は、エリザベス・テイラー扮する若妻レズリーに、恋慕の情を抱き続け、逆転のチャンスを待っています。

そして、油脈を掘り当て、ロック・ハドソンを殴りつけるジミーほど、心に焼き付いたキャラクターはいません。

それというのも、ただ成り上がってしまうだけではなく、結局はレズリーに思いを告げる事が出来ない、敗北者として惨めったらしい醜態まで晒してしまうからだ。

大金でもステータスでも、決して埋める事が出来ない、"巨大な孤独感"を死ぬまで抱き続けるこの男の姿が、常に理想の存在として私の心の中に存在するのです。

「陽のあたる場所」「シェーン」の名匠ジョージ・スティーヴンス監督は、広大なテキサスの大地を思わせるこの題名に、ロック・ハドソンのビックとジミーのジェットという二大人物を、旧体制と新体制とに象徴させ、アメリカ近代史の再確認をしているのだと思います。

そして、ジョージ・スティーヴンス監督は、どちらが正しいと言っているわけでもなく、どっちも同じテキサス人なのだから、つまるところ、主義主張に変わりはないのだと言っているのだと思います。

それより、人種偏見や人種差別といった根強いアメリカの恥部をきちんと描いており、その問題提起の方がより心に残ります。

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