朝日新聞 2019年3月12日付社説
「福島の事故から8年 『原発ゼロ』に向かわねば」
https://www.asahi.com/articles/DA3S13929051.html?ref=opinion
先月上旬、東京電力福島第一原発を訪ねると、普通の作業服で立ち入りできるグリーンゾーンが敷地の96%になっていた。
がれきの撤去や樹木の伐採、地表をモルタルなどで覆うことで放射線量が低くなったのだ。
2、3号機の間もグリーンゾーンで、普段着と使い捨てマスクで取材できた。
数年前、全身防護服でも車中からしか取材できなかったのがうそのようだ。
といっても、事故の傷痕が消えたわけではない。
3号機のコンクリート壁は水素爆発で吹き飛んだままだ。
多数の鉄筋が壁から突き出し、ぐにゃりと折れ曲がっている。
事故直後にまかれた放射性物質の飛散防止剤が、外壁を緑色に染めているのも生々しい。
1~3号機の原子炉には、溶け落ちた燃料デブリが残る。
先日、遠隔操作の装置で2号機のデブリに少し触ることができたとはいえ、
全部を取り出せるのかどうか、わからない。
炉心を冷やす注水や地下水の流入で、放射能で汚染された水が生じ続けている。
浄化装置で処理しても放射性物質トリチウムが残っており、貯蔵タンクにためざるをえない。
その数は増え、1千基に迫る。
廃炉への道のりは険しい。
■再稼働が進む日本
原発事故の被害は甚大で、後始末は困難をきわめる。
そのことを身をもって知る日本は、原発に頼らない社会をめざすべきである。
朝日新聞は2011年7月の社説で「原発ゼロ社会」を提言した。
需給から見て必要なものしか稼働させず、危険度の高い原発や古い原発は止め、その後も段階的に廃炉にしていく。
そして、そう遠くない将来、原発をなくすという考え方だ。
福島の事故後、古い原発を中心に21基の廃炉やその方針が決まった。
だが、日本が脱原発に向かっているわけではない。
安倍政権は「可能な限り原発依存度を低減していく」としながら、原発を重要な基幹電源と位置づけ、
2030年に総発電量の20~22%をめざす。
今国会でも安倍首相は「原発ゼロは責任あるエネルギー政策ではない」と述べ、
原子力規制委が新規制基準に適合すると判断した原発は再稼働を進める方針を示した。
破綻(はたん)した核燃料サイクル政策も捨てていない。
経済性のなさから欧米の多くの国々は撤退したが、安倍政権は青森県六ケ所村に2兆9千億円かけて
建設中の再処理工場を動かし、使用済み燃料からプルトニウムを取り出す方針を変えていない。
千葉商科大の田中信一郎・特別客員准教授が政府の新年度予算案を調べたところ、
各省庁のエネルギー関連予算の合計額の4割が原子力だったという。
いかに大きな資源が原子力に投じられているのかがわかる。
■大転換に入った世界
世界的に原発の競争力が失われつつある――。
1月、そんな報告書を公益財団法人・自然エネルギー財団がまとめた。
福島の事故で安全対策費が増えて原発のコストが上がり、
太陽光や風力は技術革新でコストが下がっているという。
ドイツや韓国のように原発からの段階的な撤退を決めた国もあれば、
米英のように再生可能エネルギーの台頭で原発の比重が下がった国もある。
原発大国フランスも原発依存度を大きく下げる方針だ。
国が後押ししてきた中国やインドでも、再エネの伸びが原発をしのぐ。
かつて世界の総発電量の17%を占めた原子力は、現在10%ほど。
対照的に再エネは25%近くになった。
国際エネルギー機関(IEA)は「2040年に再エネは40%になる」と予測する。
原子力から再エネへ、時代は大きく転換しつつある。
■責任ある政治決断を
安倍政権の成長戦略である原発輸出が、英国やトルコでつまずいた。
事故を境に新時代へ転換する海外に、事故当事国が原発を売り込んで袋小路に入る。
なんとも皮肉な事態である。
衰退していく原子力の延命に大きな資源を割き、次代を担う再エネを二の次にする。
そんな姿勢のままでは、時代の大転換に取り残されてしまう。
原発ゼロの実現は容易ではない。
だからこそ政府は、一刻も早く脱原発の方針を決め、段階的に廃炉を進める間に再エネを急ぎ育てるべきだ。
地球温暖化を抑えるためにも、そうすることが欠かせない。
政策転換は早い方がいい。
原発を止めれば、それ以上、使用済み燃料は増えない。
また、核燃料サイクル政策から撤退すれば、六ケ所村の再処理工場の操業や設備投資に巨額の費用をかけなくてすむ。
原発ゼロはけっして無責任ではない。
野党の原発ゼロ基本法案を1年もたなざらしにし、議論もせぬまま、なし崩し的に再稼働を進める。
そんな安倍政権の姿勢こそ無責任ではないか。
段階的な脱原発を決断し、向かうべき方向をはっきり示す。それが政治の責任である。
原子力は要らねえ!電力は余ってる!♪忌野清志郎 サマータイム・ブルース
「福島の事故から8年 『原発ゼロ』に向かわねば」
https://www.asahi.com/articles/DA3S13929051.html?ref=opinion
先月上旬、東京電力福島第一原発を訪ねると、普通の作業服で立ち入りできるグリーンゾーンが敷地の96%になっていた。
がれきの撤去や樹木の伐採、地表をモルタルなどで覆うことで放射線量が低くなったのだ。
2、3号機の間もグリーンゾーンで、普段着と使い捨てマスクで取材できた。
数年前、全身防護服でも車中からしか取材できなかったのがうそのようだ。
といっても、事故の傷痕が消えたわけではない。
3号機のコンクリート壁は水素爆発で吹き飛んだままだ。
多数の鉄筋が壁から突き出し、ぐにゃりと折れ曲がっている。
事故直後にまかれた放射性物質の飛散防止剤が、外壁を緑色に染めているのも生々しい。
1~3号機の原子炉には、溶け落ちた燃料デブリが残る。
先日、遠隔操作の装置で2号機のデブリに少し触ることができたとはいえ、
全部を取り出せるのかどうか、わからない。
炉心を冷やす注水や地下水の流入で、放射能で汚染された水が生じ続けている。
浄化装置で処理しても放射性物質トリチウムが残っており、貯蔵タンクにためざるをえない。
その数は増え、1千基に迫る。
廃炉への道のりは険しい。
■再稼働が進む日本
原発事故の被害は甚大で、後始末は困難をきわめる。
そのことを身をもって知る日本は、原発に頼らない社会をめざすべきである。
朝日新聞は2011年7月の社説で「原発ゼロ社会」を提言した。
需給から見て必要なものしか稼働させず、危険度の高い原発や古い原発は止め、その後も段階的に廃炉にしていく。
そして、そう遠くない将来、原発をなくすという考え方だ。
福島の事故後、古い原発を中心に21基の廃炉やその方針が決まった。
だが、日本が脱原発に向かっているわけではない。
安倍政権は「可能な限り原発依存度を低減していく」としながら、原発を重要な基幹電源と位置づけ、
2030年に総発電量の20~22%をめざす。
今国会でも安倍首相は「原発ゼロは責任あるエネルギー政策ではない」と述べ、
原子力規制委が新規制基準に適合すると判断した原発は再稼働を進める方針を示した。
破綻(はたん)した核燃料サイクル政策も捨てていない。
経済性のなさから欧米の多くの国々は撤退したが、安倍政権は青森県六ケ所村に2兆9千億円かけて
建設中の再処理工場を動かし、使用済み燃料からプルトニウムを取り出す方針を変えていない。
千葉商科大の田中信一郎・特別客員准教授が政府の新年度予算案を調べたところ、
各省庁のエネルギー関連予算の合計額の4割が原子力だったという。
いかに大きな資源が原子力に投じられているのかがわかる。
■大転換に入った世界
世界的に原発の競争力が失われつつある――。
1月、そんな報告書を公益財団法人・自然エネルギー財団がまとめた。
福島の事故で安全対策費が増えて原発のコストが上がり、
太陽光や風力は技術革新でコストが下がっているという。
ドイツや韓国のように原発からの段階的な撤退を決めた国もあれば、
米英のように再生可能エネルギーの台頭で原発の比重が下がった国もある。
原発大国フランスも原発依存度を大きく下げる方針だ。
国が後押ししてきた中国やインドでも、再エネの伸びが原発をしのぐ。
かつて世界の総発電量の17%を占めた原子力は、現在10%ほど。
対照的に再エネは25%近くになった。
国際エネルギー機関(IEA)は「2040年に再エネは40%になる」と予測する。
原子力から再エネへ、時代は大きく転換しつつある。
■責任ある政治決断を
安倍政権の成長戦略である原発輸出が、英国やトルコでつまずいた。
事故を境に新時代へ転換する海外に、事故当事国が原発を売り込んで袋小路に入る。
なんとも皮肉な事態である。
衰退していく原子力の延命に大きな資源を割き、次代を担う再エネを二の次にする。
そんな姿勢のままでは、時代の大転換に取り残されてしまう。
原発ゼロの実現は容易ではない。
だからこそ政府は、一刻も早く脱原発の方針を決め、段階的に廃炉を進める間に再エネを急ぎ育てるべきだ。
地球温暖化を抑えるためにも、そうすることが欠かせない。
政策転換は早い方がいい。
原発を止めれば、それ以上、使用済み燃料は増えない。
また、核燃料サイクル政策から撤退すれば、六ケ所村の再処理工場の操業や設備投資に巨額の費用をかけなくてすむ。
原発ゼロはけっして無責任ではない。
野党の原発ゼロ基本法案を1年もたなざらしにし、議論もせぬまま、なし崩し的に再稼働を進める。
そんな安倍政権の姿勢こそ無責任ではないか。
段階的な脱原発を決断し、向かうべき方向をはっきり示す。それが政治の責任である。
原子力は要らねえ!電力は余ってる!♪忌野清志郎 サマータイム・ブルース