北海道新聞 2023年11月14日付記事
「<「鉄路の行方」を考える>7 線路使用料問題 貨物維持に構造的な欠陥」
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/940296/
JR北海道の経営を苦しめてきた最大の要因は経営安定基金の運用益減少にあり、
それを放置してきた国の責任を、この連載で何度か指摘した。
加えてもう一つ、同社は理不尽な重荷を背負わされている。
JR貨物から受け取る線路使用料を極端に安く抑える
「アボイダブルコスト(回避可能経費、通称アボコスト)」ルールだ。
全国の鉄道物流を担うJR貨物は自らの路線をほとんど持たず、
JR北海道などJR旅客各社が管理する線路を借りて貨物列車を走らせている。
その使用料は、摩耗した線路や架線の修繕費などのうち、
貨物列車が走った分だけ追加的に発生する変動費、
すなわち貨物列車が走らなければ回避(avoid)できる(able)経費(cost)に限定されている。
レールの分岐器、トンネル、橋梁(きょうりょう)、
防音壁の修繕や除草・除雪などの固定費はすべてJR北海道持ち。
保線区の人件費もそうだ。
枕木を木製からより安全なコンクリート製に更新する設備投資など資本費も、
すべて同社が負担している。
在来線から青函トンネルに進入する際に通過する分岐施設を使用するのは貨物列車だけだが、
「固定費」に含まれるためJR北海道が全額負担する。
通常ではあり得ない不平等契約だ。
例えるなら、食事や飲み物が用意された立食パーティーに飛び入り参加した客が、
会費を払わずに食べまくったあげく、
自分で追加注文した酒の代金だけ払って帰ってしまうようなものだ。
主催者や会費を払った他の参加者は、損をしたようなモヤモヤした気分になるだろう。
アボコストルールは1987年の国鉄改革の際に導入された。
国鉄末期に極端な赤字となっていた貨物事業を引き継ぐJR貨物の経営を軌道に乗せるために考案された、
旅客の利益を貨物へ回す利益調整の仕組みだ。
JR北海道の経営安定基金は、JR貨物への実質的な支援分を折り込んで算出されていた。
しかしその後、金利低下で基金の運用益は激減しても、
負担を減らされることはなかった。
JR北海道の“モヤモヤ”は、30年以上続いてきたのだ。
JR貨物がずるいわけでも、不当に値切っているわけでも無い。
アボコストルールはJR貨物を設立する際の前提条件として国が定めた仕組みだからだ。
問題は、このルールがJR北海道の経営を圧迫するようになっても、
それに代わる貨物路線維持の方策を整備しなかった国の不作為にある。
東北新幹線が開通し、IGR岩手銀河鉄道や、青森県の青い森鉄道など
第三セクターの鉄道会社が並行在来線の管理と運行を担うことになると、
青森県などの地元自治体は当然、アボコストルールを拒否した。
そこで国は、鉄路にかかるより広範囲の費用を貨物列車の線路使用実態に応じてJR貨物に分担させ、
アボコストとの差額分を鉄道建設・運輸施設整備支援機構から
JR貨物に支給する「貨物調整金」制度を導入した。
JR貨物が並行在来線会社に支払っている線路使用料(アボコスト+貨物調整金)は、
貨物路線の維持に本来必要な「正当な対価」と考えて良いだろう。
一方、JR貨物がJR北海道に支払う割安な線路使用料は過去36年間の平均で17億円、
近年も毎年20億~24億円にとどまっている。
国は、JR北海道の経営自立に向けて2021年度からの3年間の時限措置として
「支援」する計1,302億円のうち、2021年度実績で107億5千万円、
3年間で300億円以上を貨物調整金に相当する「貨物列車の運行に必要な費用」として盛り込んだ。
これは、JR北海道が貨物路線維持に協力する「正当な対価」だ。
財源となるはずだった経営安定基金が機能していない以上、
「手厚い支援だ」などと感謝する必要はないし、来年度以降も継続されるのが筋だろう。
JR旅客6社とJR貨物との間で結ばれている20年間の線路使用契約は2027年に期限を迎える。
JR貨物を優遇するアボコストルールには、JR本州3社などからも不満が漏れている。
そもそもこのルールは、全国の貨物路線網を維持する国策として設けられたはずだ。
国は、ローカル線の赤字負担を地方に求める前に、
放置してきた貨物路線維持策の構造的な欠陥を、率先して正すべきではないか。
(文章執筆:特別編集委員 鈴木徹 氏)
----------------------------
思えば、NTTのように単純に民営化するならまだ納得がいくが、
JRの分割には初めから問題が多かった。
労働組合潰しが目的とも聞くし、
人口密度や人口の都市集中化が進む中では、北海道・四国が黒字になるわけはないからだ。
「在来線&貨物」 vs 「高速鉄道(新幹線&リニア新幹線) 」にすれば良かったのだ。
また少子高齢化が進む今、旅客と貨物を同時に運ぶことなしに
地方鉄道の維持発展はあり得ないのだろう。
バブルの時代のJR発足から36年。
衰退する日本、国鉄再編を今見直さなければ
3大都市圏とそれ以外の地方との格差は
修復できなくなるほど深くなっている。
2023年12月5日付訪問者数:148名様
お付き合いいただき、ありがとうございました。
「<「鉄路の行方」を考える>7 線路使用料問題 貨物維持に構造的な欠陥」
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/940296/
JR北海道の経営を苦しめてきた最大の要因は経営安定基金の運用益減少にあり、
それを放置してきた国の責任を、この連載で何度か指摘した。
加えてもう一つ、同社は理不尽な重荷を背負わされている。
JR貨物から受け取る線路使用料を極端に安く抑える
「アボイダブルコスト(回避可能経費、通称アボコスト)」ルールだ。
全国の鉄道物流を担うJR貨物は自らの路線をほとんど持たず、
JR北海道などJR旅客各社が管理する線路を借りて貨物列車を走らせている。
その使用料は、摩耗した線路や架線の修繕費などのうち、
貨物列車が走った分だけ追加的に発生する変動費、
すなわち貨物列車が走らなければ回避(avoid)できる(able)経費(cost)に限定されている。
レールの分岐器、トンネル、橋梁(きょうりょう)、
防音壁の修繕や除草・除雪などの固定費はすべてJR北海道持ち。
保線区の人件費もそうだ。
枕木を木製からより安全なコンクリート製に更新する設備投資など資本費も、
すべて同社が負担している。
在来線から青函トンネルに進入する際に通過する分岐施設を使用するのは貨物列車だけだが、
「固定費」に含まれるためJR北海道が全額負担する。
通常ではあり得ない不平等契約だ。
例えるなら、食事や飲み物が用意された立食パーティーに飛び入り参加した客が、
会費を払わずに食べまくったあげく、
自分で追加注文した酒の代金だけ払って帰ってしまうようなものだ。
主催者や会費を払った他の参加者は、損をしたようなモヤモヤした気分になるだろう。
アボコストルールは1987年の国鉄改革の際に導入された。
国鉄末期に極端な赤字となっていた貨物事業を引き継ぐJR貨物の経営を軌道に乗せるために考案された、
旅客の利益を貨物へ回す利益調整の仕組みだ。
JR北海道の経営安定基金は、JR貨物への実質的な支援分を折り込んで算出されていた。
しかしその後、金利低下で基金の運用益は激減しても、
負担を減らされることはなかった。
JR北海道の“モヤモヤ”は、30年以上続いてきたのだ。
JR貨物がずるいわけでも、不当に値切っているわけでも無い。
アボコストルールはJR貨物を設立する際の前提条件として国が定めた仕組みだからだ。
問題は、このルールがJR北海道の経営を圧迫するようになっても、
それに代わる貨物路線維持の方策を整備しなかった国の不作為にある。
東北新幹線が開通し、IGR岩手銀河鉄道や、青森県の青い森鉄道など
第三セクターの鉄道会社が並行在来線の管理と運行を担うことになると、
青森県などの地元自治体は当然、アボコストルールを拒否した。
そこで国は、鉄路にかかるより広範囲の費用を貨物列車の線路使用実態に応じてJR貨物に分担させ、
アボコストとの差額分を鉄道建設・運輸施設整備支援機構から
JR貨物に支給する「貨物調整金」制度を導入した。
JR貨物が並行在来線会社に支払っている線路使用料(アボコスト+貨物調整金)は、
貨物路線の維持に本来必要な「正当な対価」と考えて良いだろう。
一方、JR貨物がJR北海道に支払う割安な線路使用料は過去36年間の平均で17億円、
近年も毎年20億~24億円にとどまっている。
国は、JR北海道の経営自立に向けて2021年度からの3年間の時限措置として
「支援」する計1,302億円のうち、2021年度実績で107億5千万円、
3年間で300億円以上を貨物調整金に相当する「貨物列車の運行に必要な費用」として盛り込んだ。
これは、JR北海道が貨物路線維持に協力する「正当な対価」だ。
財源となるはずだった経営安定基金が機能していない以上、
「手厚い支援だ」などと感謝する必要はないし、来年度以降も継続されるのが筋だろう。
JR旅客6社とJR貨物との間で結ばれている20年間の線路使用契約は2027年に期限を迎える。
JR貨物を優遇するアボコストルールには、JR本州3社などからも不満が漏れている。
そもそもこのルールは、全国の貨物路線網を維持する国策として設けられたはずだ。
国は、ローカル線の赤字負担を地方に求める前に、
放置してきた貨物路線維持策の構造的な欠陥を、率先して正すべきではないか。
(文章執筆:特別編集委員 鈴木徹 氏)
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思えば、NTTのように単純に民営化するならまだ納得がいくが、
JRの分割には初めから問題が多かった。
労働組合潰しが目的とも聞くし、
人口密度や人口の都市集中化が進む中では、北海道・四国が黒字になるわけはないからだ。
「在来線&貨物」 vs 「高速鉄道(新幹線&リニア新幹線) 」にすれば良かったのだ。
また少子高齢化が進む今、旅客と貨物を同時に運ぶことなしに
地方鉄道の維持発展はあり得ないのだろう。
バブルの時代のJR発足から36年。
衰退する日本、国鉄再編を今見直さなければ
3大都市圏とそれ以外の地方との格差は
修復できなくなるほど深くなっている。
2023年12月5日付訪問者数:148名様
お付き合いいただき、ありがとうございました。