男前は異動先ではなく、私のいる
施設での勤務だった。
嬉しさのあまり、
心でどじょうすくいやら
うさぎのひねりジャンプをしながらも、
表面上は平静を装っていた。
その日までに仕上げないといけない
業務があり、男前は私に
「今日中に終わるか？」と聞いてきた。
アタリキシャリキやんけと思いながらも
「あと1枚なんで。」と余裕綽々に言った。
一瞬、驚きで怯んだ男前は、それを
カムフラージュするかのように
「おー！やるやんけ！出来る女やな！」
と、私の背中をバシコーン！と叩いたのだ。
結構力強くて、古典的な漫画のように
ゴホゴホとしながらも、その光景は
まるでハウスシチューのCMかよ！
と思うくらい牧歌的なワンシーンだったように思う。
私が個人的に仕事で使っている日付スタンプがある。
それを知らない男前は、
「このインク薄くなってきたから補充して」
と言ってきた。
これは補充式ではないので、カートリッジを
買うまで待ってくれと伝えると、
「これはどこにカートリッジが入ってるんや？」
と、ルービックキューブよろしく
あちこち回していた。
年に1回換えるか否かの交換頻度なので、
私もすぐにはハウツー（←昭和の言い方。
現代ではハウトゥー）を思い出せず、
小さなスタンプ相手に二人がかりで探った。
お互い、どちらからともなく、
この時ばかりはと偶然を装って指先に触れ合った。
（と、言うと何かイヤラシイけど、
ものが小さいので、スタンプを私に
委ねてくれないと、そりゃ偶然を装わんでも
触れ合うわ。）
そんなに複雑じゃなかったんだけどな、と
独り言を言いながら探っていると、
また背中をバシコーンと叩きながら
「自分が買ったんちゃうんか」と
冗談混じりに言ってきた。
私は、この短い時間で何回背中叩くねんと
思いつつも、薬師丸ひろ子主演
セーラー服と機関銃の名セリフ
「カ・イ・カ・ン」だった。
…えっ！？
ちゃうちゃう、このキャストは
「セーラー服通り」やがな。
いちいち古い、いちいち芸が細かい。
これな、これ。
まぁね。
男前は、私にとっては仕事が楽しくなる
要素のひとつなので、この人と
今日は渋谷で5時 二人でサボタージュ
なんて望んではいないよ。
手が触れ合おうが背中叩かれようが、
そんなことで仕事がはかどるんだから、
いいじゃないか、それくらい。
いやっ！ふしだらな！なんて
思うかもしれないが、いざあなたの目の前に
杉良太郎や沖雅也なんかが側に寄ってきたら、
悪い気はしないはず。
ではでは、またね！
