心を縛りつけた鎖がほどけない。
もう会うことのない君をいつだって思い出す。春の風のなかに、夏の煌めきのなかに、
秋の落ち葉のなかに、冬のひだまりのなかに、君との記憶を見つけて一人、懐かしいような、悲しいような気持ちになる。
君を「君」だと認識してから8年目。知らないうちに恋に落ちていた。いつのまにか一番特別な人になっていた。
片思いはいつか終わると思っていたけど、あまりにも長い永い片思いだったから終わらせ方が分からなかった。
最後に会ってからもう2年。それでも未だに思い出せるんだ、君の全てを。
笑ったときに細くなる目も、私の名前を呼ぶ声も、無条件にくれる優しさも。
笑った顔が好きだった。
名前を呼んでくれるときの声が好きだった。
誰にでも優しいところが好きだった。
今だって好きなんだ。
今日は君のこと覚えていて、明日も覚えている。1か月後も、1年後もきっと覚えているんだろう。
それでも人間はいつしか忘れてしまう生き物だから、きっと君の声や顔を忘れるときが来るんだろう。
いつか、いつか君という存在が輪郭だけになってしまったとしても、私は「君」のことは忘れないよ。顔も声も思い出せなくなったとしても、いつだって君の輪郭をなぞって風景のなかに君を探すよ。
毎日死にたくて、人生の目標も、やり遂げたいことも何もなくて、生きている理由が見つからなかった。生きていく勇気も死ぬ勇気もなくて、八方塞がりの日々。
君は私の特別な人、ではなかった。同じ学科で同じサークル、それだけ。他の誰かとよりかは少し近くて、でも特に何も感情はなくて。特別たくさん話すわけでもなく、どこかに一緒に遊びに行ったりもない。他人以上で、友達未満だった。
「大学の桜並木が綺麗で好きなんだ」
そう言った私に
君が
「来年の桜が楽しみだな」って言ったんだ。
あの時君はどんな表情をしていたんだっけ。私はそれに何と返したんだっけ。もう何も思い出せない。
恋じゃなかった。愛でもなかった。
何気ない会話だった。特別じゃなかったんだ。
だけどね、他の誰でもない君が「来年の桜が楽しみだな」って言ったから、私はいつか君とまた桜が見たくて、あと1年、あと1年だけ生きていようと思うようになったんだ。そうして、今日もまた私、ここで生きています。
あの日君にかけられた呪いに縛られながら。