人影も疎らな22時、電車を待つ。君とふたり、ベンチに座っていろいろなことを話す。将来の夢、模試の成績、部活のレギュラー争い。学校が違うのに数学の先生の話を面白いって聞いてくれる君、とても優しいのね。
触れそうで触れない手が擽ったい。君までの距離は3センチメートル。恋人だったら手を握ることができるのにね。
都会じゃないこの街の夜は静かで、電車は1時間に1本くらい。この時間に電車を待つのは私と君くらいで、暇な時間を埋めるために話すようになったんだっけ。
君のことたくさん知って、優しい声も笑顔も全部好きになるには時間はかからなかった。学校が違うから君に会えるのは毎日この時間だけで、朝からも会えるようになればいいのになんて思う私。だけど、だからこの時間は大切な時間だとも思う。
ポーン
となる音、あれは何のためになっているんだろうとふたり議論しあったこともあった。(結局答えはわからなかったけど。)
静かなふたりだけの時間が過ぎていく。
ライトがふたりを照らし出して、ドラマチックを演出する。
22時31分、1番ホームに電車がやってくる。この瞬間が一番嫌い。君を私とは反対方向に連れて行くから。「また月曜な。」なんていって君は立ち上がる。休みの日も会える関係ならいいのに。
「おやすみ」そう言って私は君の乗る電車を見送る。今日も好きだと言えなかったから心の中で何回も好きを繰り返す。君の姿を心に焼きつけながら2番ホームに向き直った、22時32分。