エンパワーメントの背景理論であるサイコシンセシスの創始者アサジオリによれば、自己意識はまずセルフを認識することから始まる。あなたがあなたの身体を観察した時、あなたの中に次々に表れる感情に気づいて表現した時、或いはまた、たくさんのサブ・パーソナリティーと向き合った時、常に存在する確かな何かがあったはずです。観察している、気づいている、あなた自身の中心にある何か、観察する対象が変わっても変わらずに存在するもの、それがセルフです。
セルフについて
自分を客観視するもの
セルフの実体を理解することはかなり難しいことです。感覚的にすぐ実感できる人もいれば、さっぱり訳が分からないといらだつ人もあるかもしれません。ここで少しアサジオリの弟子であるピエロ・フェルッチが彼の著書『内なる可能性』の中で書いているものを紹介しましょう。『セルフとは、一般的には、私達を他の人間や宇宙から区別し、『私』という感覚を与える要素として考えられています。多くの心理学者は、意識と無意識の接点として、またはパーソナリティの執行機関として或いは行動を調節するものとして捕らえてきました。サイコシンセシスにおけるセルフは、私達の存在の最も基礎的で核心となるものであり、なおかつ私達のパーソナリティを構成している様々な要素(感情、身体、サブ・パーソナリティー)のどれとも異なった性質を持つものです。それ故に、様々な要素を方向づけ、パーソナリティ全体の統一をもたらす総合センターとして働くことが出来るのです。セルフは、私達の中の“永遠に変わらない唯一の部分”と定義することも出来ます。セルフは、喜びの中でも絶望の中でも、平静な時でも混乱している時でも、快であっても不快であっても、いつも変わらないものとしてあり続けます。私達が自分自身の内面を注意深く観察してみると、身体の状態は刻々と変化し、様々な感情や思考も次々と浮かんでは流れていきます。けれども「誰か」がこの流れをずっと観察し続けているはずです。この観察している「誰か」こそがセルフなのです。私達の内面を見続けている、多くのサブ・パーソナリティーに気づいている、つまり観察者(自己を客観視する)がセルフなのです。』サブ・パーソナリティーに振り回されたり、自分以外の他者に従属している人のセルフは、未だセルフとして育っていない、確認しにくい状態であると言えるのかも知れません。指揮者として楽団員をコントロールするはずの人が、指揮者としての自覚が乏しく、どの様な音楽を奏でるかという決意も無ければ、リードしていく力も持たないとしたら、その楽団はごく簡単な曲ですら演奏することは難しいでしょう。一方、例え弦が弛んだり壊れたりした楽器がいくつかあったとしても、また、楽団員の演奏技術が未熟であったとしても、指揮者が、総責任者としての自覚をきちんと持っているならば、事態は全く変わってきます。この指揮者は、まずいつどんな曲を演奏するかということを楽団員に告げるでしょう。そして、楽器の修理の必要を指示したり、効果的な練習方法を教えたりするかも知れません。或いは、取り敢えず準備の出来ている楽団員だけを集めて、小さな簡単な曲を演奏しようとすることも考えられます。指揮者は楽団員の気持ちを理解しようとはしても、一人の楽団員になりきることはありません。あくまでも全体を客観的に見て必要な指導育成をするのです。この意味でセルフは楽団員のなかの誰かではなく、指揮者であり総責任者であるのです。自己の全体を客観視し、コントロールし、方向性を与える得る、純粋で中立的なものなのです。
主体性の確立の段階
当初セルフ・エンパワーメントの研修を行うと主体性が確立してわがままになったり、自己主張が強くなったりして組織の中で仕事をするには摩擦が大きくなるのではないかと危惧する研修担当者が少なからずおられました。最近でこそ少なくなってきましたがこの研修が始まった1993年頃にはその心配をよく耳にしました。確かに主体性が確立してくると自己主張が強くなり今まで服従をよしとしていたマネージャーやリーダー層からみると反発と感じられ場面も生じます。また今まで自分の意見を主張し続けていた人が研修後、相手の話に耳を傾けるようになることも生じています。
主体性の確立といっても人によって課題も違うし研修後の変化も違うものがあります。これらの変化をまとめてみるといくつかの段階に整理することができます。これらの段階は必ずしも固定したものではありません。新しい職場に配属されると第1段階、慣れると第2段階と上下に移動しています。その段階をまとめると次のようになります。
第1段階 他者に依存・集団に埋没(没個的)
組織や役割に埋没してしまい、自分自身を見失っている段階、絶えず皆と同じでなければ不安なために自分を犠牲にしています。主体性を見失ってるか、確立できていない状態。 他者や組織に対して依存的で、一般的にいわれる組織人間や滅私奉公がこの段階にあたります。他の段階の人であっても会社が変わったり、職場が換わるとこの段階からスタートしようとする人もいます。
第2段階 他者・集団からの独立(個の芽生え)
積極性が芽生え、皆と違う思考・行動パターンをとることによって自分の存在を確認します。「皆と同じじゃなくてもかまわない」「私は皆と違う」ことが大切、自分の考えを主張できる段階です。よく自己中心的な考えを主体的である思い込んでいる若年層の問題がクローズアップされますが、自分さえよければいいというのが、この段階になります。第1段階からこの段階に上がると、いままで依存されていた人たちから見れば生意気にみえたり、出る杭は打たれたりします。しかし、次の第3段階である他者や組織と共存共栄の関係になるためには通過していかなければならない段階でもあります。この段階の成長課題を解決せずに次の段階にいくと、一見他者・集団との共存共栄の関係のように見えますが、単に他者・組織に合わせているに過ぎない場合があります。子供が成長していくときの思春期はこの第3段階にあたります。
第3段階 他者・集団との共存共栄(個の確立)
お互いに違うことを受け入れることができ、他人の考えや行動も尊重でき、行動は目標指向的で自己管理ができ自分の意見・行動に責任を持つことができるようになる段階です。無目的・刹那的な行動ではなく自らが設定・選択した目標に向けた行動ができ自らの行動や仕事の結果に対しても他者や組織のせいにする他責ではなく自己責任をとることがでる段階でもあります。経済的、生活的に自立しながらも精神的にも自律している段階です。自分の気持ちや考え方も大切にしながらも相手の気持ちや考え方も尊重できます。「 Iwin.You win.(自他共に勝つ)」という他者との関係を持つことができる段階です。
第4段階 自分も集団も超越する(超個的)
他人にも自分も超えた所の意識が持てる。お互いを超越した、もっと高い次元にある、集団・組織・顧客・社会・地球的・宇宙的な視野に立った考え方ができる段階です。他のメンバーと話していても職場や会社全体から見たらどうだろうか、顧客の観点でみたらどうだろうか、地球的や宇宙的な視点でみたらどうだろうかなど、全体最適の視点でWIN/WINの関係作りができることです。一般的に企業の顧客の70%位はリピーターであるといわれています。顧客との関係が第1段階や第2段階であるとどちらかに不満がのこります。リピートが続くためには少なくとも第3段階以上でなければなりません。そして現在の企業はグローバルな環境でビジネス活動を行なっているとするなら第4段階の主体性確立の段階が必要になってきます。
また欲求の観点から見たら自分や集団の諸々の欲求が満たされたり、また満たされなくとも少し横において他者とかかわることができる状態がこの4段階になります。A・Hマスローは「人間性の最高の価値」(誠信書房・上田吉一訳)の中で超越とは、人間の意識が最高で、包括的で、全体論的な水準を意味するもの、その行動や関係は、自己、特定の相手、人類一般、他の種族、自然、宇宙に対して、手段として位置づけるのではなくよりむしろ、最終的な目的として取り組むことであるといっています。
下記の主体性確立の段階レベルで説明すると第1段階は強大なSPに振り回されている状態、第2~3段階がパーソナルセルフ、そして第4段階がトランスパーソナルであると考えています。
またセルフは可変的であると考えています。相手と話し合い(交渉する)に当たり今日は第2段階の自己主張使用とか、今日は第3段階のWIN/WINの関係で行くとか意識すればレベルを変化させるkとは可能です。
図表 主体性確立の段階
人間力を高めるセルフ・エンパワーメント(東京図書出版)八尾芳樹 角本ナナ子より引用 一部追加
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