今回は主体そのものである「自我」の働きについて説明します。自我の働きは精神分析では「内界(欲求・感情・思考/サブパーソナリティ他)」、「超自我(must・must not)」そして「外界(環境)」の3つの調整役とされています。まさに下図のようなトロイカ(3頭立ての馬車)の御者にあたるのが自我です。
(注)フロイトは内界をイド(情動)で説明
上図はWikipediaより引用
自我心理学のべラックは自我の働きについて12提唱しています。その中でも現代の社会人やビジネスパーソンにとって重要な働きが次の7つになります。
そして、現在のコロナ感染拡大の中で各自が求められる自我の働きの一つ目が「現実検討」です。
「現実検討」とは、自分の置かれた状況を判断して、あるべき方向性を見つけていく働きのことです。特に内面に生じていることと外界に存在していることの区別、そして主観と事実の区別ができる働きや力のことです。
主な内界の動きとして身体や経済活動の安全が脅かされるため次のような感情や思考が生じています。
1、不安感情:日本人は元々不安に弱いといわれています。また誰もが経験していない状況にあるため、不安からネガティブな思考パターンになったり、根拠がないのに楽観的になったりします。
2、思考(認知):自分だけはウィルスにかからないとか人に感染させないであろうといった認知の歪みである正常性バイアスがあります。
【参考】4月12日 朝日新聞朝刊 「天声人語」欄でも紹介
上記のような不安感情や思考パターンそして認知バイアスを俯瞰、自覚し、(脱同一化)これらに支配されないための現実検討としては「客観的な事実やデータそして専門家の意見を参考にして自らの行動を決める」ことです。毎日のように入ってくるメールやSNS、口コミなどからの情報(日用品や食料の品薄?、効果的な薬品?、感染源等々)はいくら親しい人からの情報であっても、そのままうのみにするのではなく元々の情報源が信頼できるか検討する。これは人を疑うことを意味しているのではありません。多くの場合こちらを心配したありがたい情報ですが、そのまままた誰かに転送するのではなく元々の情報源が確かかどうか各自が検討する必要があります。
二つ目が「対象他者関係」です。これは他者との適切な距離を保ち対象他者へ柔軟的な対応できる働きや力のことです
他者との関係における内界の動きとして相手や周囲の人が気になる、人に会えないので寂しい、人に会って話をしたい等々の気持ちがわいています。
上記のような分離不安の感情を克服して(脱同一化)大切なのが「ステイホーム(家にいてる)」や「ソーシャル・ディスタンシング(他者と1.8mの距離をとる)」といった他者対応関係です。
三つ目が「心の統合」です。これは内界の矛盾した思考、価値観、感情、役割葛藤等の整理や統合になります。これは「仕事に行くか休むか」「家にいるか外出するか」「経済活動をするか自粛するか」など相反する考えや価値観が心の中で綱引きをしています。
しかし現在地球人が経験していることは多くの人たちの「生命」存続の危機です。この観点に立ち心の中の矛盾を整理するのが「心の統合」の働きになります。この機会に「人生とは何か」「ウイルスも含め人間は自然と今後どのように付き合えばいいのか」そば(家)にいる「家族とは自分にとって何か」等を考え直す機会にするのもいいかもしれません。前述のベラックは自我の働きの中で一番重要なのが「現実検討」であり二番目が「心の統合」であると提唱しています。
SPトランプを活用した他者理解や他者対応は自我の働きの二つ目の「対象他者関係」の他者との適切な距離や他者への柔軟的な対応を知り、この自我の働きを強めるための方法になります。対象他者に「何のSPを行動化(カードを切る)するか」「何のSPを非行動化(カードを切るのを抑制)するか」といった善い意志の活用になります。