SPTメソッドはイタリアの精神科医であったロベルト・アサジョーリの自己実現へのプロセスが主な理論背景となっている。ここでは彼の自己実現の考え方とユング、マズロー、ロジャーズの自己実現についての考え方も合わせて紹介し比較した。
1、アサジョーリ R・Assagioli
イタリアの精神科医・心理学者であったロベルト・アサジョーリは自己実現という言葉は多くの場合心理的成長や成熟を意味する表現として、また倫理的、審美的、あるいは宗教的な体験や活動等人類に備わっている潜在的可能性の覚醒や現れなどを表現するために用いられてきた。そこには2つの種類の成長がある。ひとつはパーソナル・セルフ(意識の中心)による「気づき」すなわち意識領域の拡大であり、もうひとつは、トランスパーソナル・セルフの自己実現である。すべてを統合するスピリチュアル・センターを実際に体験することとその存在への気づきである。これらはマズローの自己実現という言葉で表している特性に相応しいものである。「サイコシンセシス」 R・アサジョーリ著 国谷誠朗・平松園枝共訳 P49誠信書房
アサジョーリは、イタリアの精神科医で、フロイト派の精神分析かとして出発しましたが、人間の負の部分のみにスポットを当てた治療重視の理論に限界を感じ、人間性を重視した自らの理論(サイコ・シンセシス=精神統合)を構築した。彼は、人間を病理的な側面だけではなく、自己実現などの健全な側面からも探求して捕らえ、東西の思想を融合して、宇宙的な世界観・人間へのアプローチを試みました。その活動が、イタリアに限られたため、当初はあまり注目を浴びませんでしたが、60年代になって、アメリカのエサレン研究所の創始者マイケル・マーフィーや、スチュアート・ミラーがトランスパーソナル心理学、実験心理学を統合する包括的な理論として紹介し、脚光を浴び始めました。その後、彼の理論は、人間性心理学やヒューマンポテンシャルムーブメントと影響しあいながら、トランスパーソナル心理学の代表的な理論、技法として発展した。
サイコシンセシスにおける自己実現へのプロセス
①気づき 自分のパーソナリティについての知識を得る
②理解・受容 自分の様々な面を脱同一化することによって冷静に観察し、その意味を理解し、そ
の存在を抑制否定せず受け入れる
③調整 否定的なエネルギーも創造的・建設的に活用
未発達・弱いところを発達させて、調和の取れた人格へ
④統合 実現されるべき目標(新に作り上げられるべきパーソナリティ)を明確にし、その為に
必要な意志を備えたセルフの働きにより調和のとれたパーソナリテイが実現される
引用文献 『意志のはたらき』 ロベルト・アサジオリ 誠信書房
『喜びの教育』 ダイアナ・ホイットモア 春秋社
『人間力を高める セルフ・エンパワーメント』(東京図書出版会) 八尾芳樹、角本ナナ子
2、ユングJung.C.G.
自己実現という最初に用いたのはユングであろう。ユングは自己実現より個性化の方を用語として好んで用いている。これらの概念は「本当の自分になる」ということだ。本当の自分になるということは社会に適応するために身につけた自分すなわちペルソナでもなければ、自分を感情的に圧倒し、魅惑し、呪縛する元型的なイメージでもない。彼の自伝の冒頭に「私の一生は、無意識の自己実現の物語である」と書いている。意識が一面的に発達している場合、心には平衡を無意識に回復させる補償という自律的な調整機能がある。
観念論学者が云々するような抽象的な自己ではない。植物的・動物的な機能を備えた有機体としての自己に他ならない。ユングのいう自己実現とはこれら自律的な有機体という概念に基づいている。「心理臨床大辞典」(培風館)P128 村本詔司著より引用)
3、マズロー Maslow.A.
自己実現を、概念として最も明確に取り出して、みずからの心理学の中心概念として展開したのは、アメリカ人間性心理学の中心人物の一人であるエイブラハム・マズローである。彼によれば人間行動の動機に大別して欠乏欲求と成長欲求の2種類がある。前者は、食、性、排泄、睡眠、休息などへの生理的欲求、および安全、所属、愛情、尊敬などのへの社会的欲求で、有機体において欠如として経験され、健康のためには主体以外の人間によって外部から満たされなければならない。成長欲求は欠乏欲求に還元されないが、これが満たされて初めて活性化する。自己実現はとくに成長欲求に関連付けられ、可能性に絶えざる実現、使命の達成、個人みずからの本性の完全な認識や受容、人格内の一致、統合、共同動作などへと定義される。「心理臨床大辞典」P130(培風館)村本詔司著より引用)
4、ロジャーズ Rogers.C.
アメリカの人間性心理学のもう一人の代表者であるカール・ロジャーズは当初、自己実現をマズローと違って,ヒェラルキー的なモデルに従って生理的および社会的欲求から区別をすることをせず、有機体に固有の傾向、つまり自己自身を維持し。成長を目指して動き、より大きい自治と自己規制自律を目指す完全に無意識的な有機的過程として理解した。
彼は有機体が成長へと向かう傾向を実現傾向とよび、一方、有機体の経験のうち自己というものに象徴される部分を自己実現傾向とよび、自己と有機体の経験が不一致になり、両者の実現傾向が互いに対立しあう傾向を示唆した。この考え方に基づいて自己と経験の不一致度を心理的適応の指標とした。「心理臨床大辞典」P131(培風館)村本詔司著
以上、主だった自己実現の心理学の理論や思想には共通して、心の中のレベルや視点は違うものの「意識」と「無意識」、「成長欲求」と「欠乏欲求」、「自己」と「有機体」、「意識領域」と「トランスパーソナル領域」など2つの視点でとらえ、それらの関係について論じられていることがわかる。
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