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田舎ぐらし(188)

 ー 無 宿 人ー

 
 「無宿人別帳」 松本清張 春秋文庫

 カタカナ語ばかりがはびこる世間にうんざりして江戸の昔に逃げ込んでいる。先日も50歳くらいのテレビの出演者が “ ファクトチェック ” と言った。一瞬、昭和の脳が「なにっ?」っと眉間に皺を寄せた。
 ややあって、ファクトは事実、チェックは調査。つまり事実調査か。それならなんで端っから事実調査と言わないんだ、と皺がふたつになった。

 さて、江戸である。
先週は年収1000万円を超す収入の奉公人がいたことを雑誌で知った。三井越後屋で呉服を扱う日本橋本店の番頭である(「江戸の暮らしと商い」 菅野俊輔監修 宝島社)

 ところが世の中、表もあれば裏もある。
裏のひとつは無宿人の世界である。無宿人というのは多くは食えなくなって村を飛び出し、宗門人別改帳から名前を外された者をいう。宗門人別改帳とは今の戸籍と大体同じである。村を出て江戸に逃げ込む者も多かった。

 江戸へ来ても保証人がないと職はもとより住まいも定まらない。おまけに点数稼ぎの岡っ引きの恰好の食い物になった。

 松本清張が「無宿人別帳」(上掲写真)という短編集でいくつかその様子を描いている。

 “ 能州無宿の新太が強い陽ざしをよけて 本所松坂町の長い塀の陰を歩いていると、後ろからに不意に肩を小突かれた。見ると岡っ引きである。「住まいはどこだ?」と訊く。答えられないでいると番屋に引っ張られた。翌日には伝馬町の仮牢へ入れられ、人足寄せ場に放り込まれた。
 新太はなにも悪いことをしたわけではない。夫婦約束をしたおえんと逢ってきたばかりだった。おえんは身を売って世帯を持つ資金を稼いでいる(大筋「無宿人別帳 」海嘯より)。

  それでも運のいい方だった。悪くすれば佐渡の金山送りになるところだった。金山の仕事は水の汲み上げである。水替え人足と呼ばれた。坑道に湧き出る水を鉄桶で汲み上げ手繰りで外へ流す。昼夜交替、飯の時も交替で水を汲む。刑期はない。島を出るには死ぬか脱走する以外に道はなかった ” (大筋 「同」 逃亡より)

 この時代、日本に今のように整備された刑法や手続法はなかった。公事方御定書という刑法もどきの規則があったが、民に公開されていたわけではない。つまりなにが罪になるか、どういう罰を受けるかはお上だけが知っていればよいという考えだった(ウィキペディア)

 

 
 
 

 
 
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