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田舎ぐらし(207)

 ー U ターン ー 

 

  「人生100年」は既に耳にタコである。
ひょっとしたら自分もと、皆がその気になり出したところへ無粋にも水を差す輩が現れた。
 「今世紀中に100歳まで生きる人の割合は女で15%、男で5%を超えることはない」。米国イリノイ大などのチームが同国の科学雑誌ネイチャーエイジングで発表した(産經 令6.10.8)

 それじゃー、と当てにならない100歳に三下り半を投げ、待てよ、自分の一生の価値は時間の長さで決まるのか。それとも中身の濃さで決まるのかと今更ながら自分の頭で考え始める。

 長さだという人は結婚して子をつくり、孫が出来、できればひ孫の顔を見るまで生きれば万々歳だろう。ただ、人の考えは十人十色、口の悪い人間はこれを酔生夢死、中身の濃さとはおよそ縁のない生き方であると嗤う。

 いずれにしても40歳を過ぎれば中身の方はあらかた決まっている。あとは長さしかない。人間というのは欲深で、80歳まで生きれば90歳まで、90歳まで生きれば100歳までと次々と命のろうそくをつなげる。
 
 女は特に欲が深い。
小春日和、縁側でばあさんが日向ぼっこをしていた。そこへ隣の憎まれっ子がやって来て例によって悪態をついた。
“ ばあちゃん、プールへ行ってるんだって?。がんばれよ。こっち側から向こう側まで泳げるようになったら三途の川安心して渡れるからな ”
するとばあちゃん、
“ うん、今Uターンの練習をしている ”

 大筋であるが、昔、東京駅の地下、立ち見の寄席で通りがかりに聞いた噺し。聴衆は大笑い。小気味がいい。秀作である。噺し家の名をご紹介すべきところ、失念してここに記すことはできない。

 




 
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