「迷い鳥」 ラビンドラナート・タゴール
1
夏の迷い鳥が、わたしの窓にきて、うたをうたい、飛び立つ。そして、秋の黄ばんだ木の葉が、うたうでもなく、吐息まじりに舞い散る。
3
世界は、愛するものに、途方もなく大きな仮面をはずしてみせる。それは永遠の一つの歌のように、ひとつの口づけのようにささやかなものとなる。
6
もしもあなたが太陽を見失ったときに涙するなら、あなたは星を見逃すことになる。
8
かの女の物思いに沈んだ顔は、夜の雨のように、わたしの夢にたえずあらわれる。
10
悲しみはなだめられて、わたしの心をやすらかにする、ひっそりとした林のなかの夕暮れのように。
13
聴け、わたしの心よ、ささやきを、世界はささやいて、おまえと愛を交わすから。
14
創造の神秘は夜の闇に似ている―それは大いなるものだ。知識のまやかしは朝の靄に似ている。
15
そこが高いところだからといって、あなたの愛を崖っぷちにおいてはいけない。
16
わたしが今朝、窓辺に座っていると、世界は通りすがりのように、ちょっと立ち止まってわたしに会釈していく。
17
これらのささやかな想いは、かさかさと木の葉の擦れ合う音。それは、わたしの心のなかで、よろこびのささやきとなっている。
18
あなたが何者なのか、あなたには見えていない、あなたに見えているのは、あなたの影。
19
私の願いは愚か者、あなたのうたを大声で妨げています、師よ。ただ聴くだけに、わたしをさせてください。
20
わたしは、いちばんよいものを選ぶことができない。 いちばんよいものが、わたしを選んでくれる。
22
わたしは存在することは、ひとつの果てしない驚き、それがいのち。
26
神は答えを待っている、わたしたちに届ける花のために、太陽と地球のためにではなく。
27
はだかのこどものようい青葉のあいだで遊んでいる光は、幸せなことに、人間が嘘をついたりするなんて知らない。
28
うつくしさよ、ほんとうのあなたは愛のなかにいることに気づきなさい、 あなたにへつらう鏡のなかにではなく。
33
人生は、世界が求めるから富を見出し、愛が求めるから価値を見出す。
37
わたしにはわからないう、この心がどうして黙ったまま苦しんでいるのか。それは、欲しがったり知っていたり思い出したりすることのない、ささやかな欲求のせいだ。
44
世界が押しよせてくる、いつまでも哀しみの調べを奏でつづける心の弦をとおして。
45
かれは考えた、武器は神であると。武器が勝つとき、かれ自身は敗れている。
46
神は創造によって能力を自覚する。
49
わたしはあなたに感謝している、わたしが権力の車輪ではなく、 それに踏みつぶされる生きとし生けるものとひとつになっていることを。
50
心のはたらきは、頭は切れてもおおらかでないと、細かいところにこだわるばかりではかどらない。
51
あなたの偶像が打ち砕かれて塵にまみれて証明している、神の塵はあなたの偶像よりも大いなるものであると。
56
いのちはわたしたちにあたえられる、わたしたちはいのちをあたえることによっていのちをものにする。
57
わたしたちが大いに謙遜するとき、大いなるものにいちばん近づく。
59
決して瞬間を怖れるな―そのように永遠の声はうたいつづける。
62
完璧なものは、完璧でないことを愛しているから着飾る。
68
悪には敗北する余裕がないけれど、正義にはある。
73
貞操とは、豊かな愛情がもたらす宝。
75
わたしたちは世界の意味を取り違えて、世界がわたしたちを騙すという。
77
こどもは誰でも、ことづてをたずさえて生まれてくる、神はまだ人間に失望していないということづてを。
79
人間はおのれに対して壁をめぐらす。
82
いのちは夏の花のように、死は秋のもみじのように、うつくしいいものでありますように。
83
善意ある者は、門をたたく。愛する者は、門が開いていることを悟る。
84
死ぬとき、たくさんのものがひとつになる。生きているとき、ひとつのものがたくさんになる。宗教はひとつになるだろう、神が死んだときに。
87
わたしがいまあこがれているのは、暗闇のなかで感じられるけど昼の光のなかでは見えないもの。
90
闇のなかで、ただひとつであるものはひとつに見える。光のなかで、ただひとつであるものがさまざまに見える
93
権力が世界にいった、「おまえはおれのもの。」世界は権力を王座に縛りつけた。愛が世界にいった、「わたしはあなたのもの。」世界は愛に家庭の自由をあたえた。
95
静粛に、わたしの心よ、この大いなる樹々は祈りをささげているから。
96
一瞬の雑音は、永遠なるものの音楽をあざける。
105
あなたの財布から手柄を貸して友を侮辱してはいけない。
106
名もない日々の触覚が、わたしの心にまとわりついている、老木のあちこちに生えた苔のように。
108
神ははずかしがる、成功した人たちが神の恩寵を鼻にかけるときに。
110
人間は沈黙の巷に分け入って、みずからの沈黙の叫びをまぎらわす。
111
消耗して終わることが死である、だが、完璧な終わりは永遠のなかにある。
115
いたずらを自慢する力は、散りゆくもみじと、流れゆく雲から笑いものにされる。
117
草の葉は大いなる世界に値するから生えている。
128
はっきりと物を言うことはたやすい、あなたが遅らせないで真相を話すときには。
130
もしあなたがすべての過失に対して扉を閉ざすなら、真実は締め出されるだろう。
131
わたしの心の悲しみの裏側で、なにかざわついている物音が聞こえる、―わたしはそれを見ることができない。
134
地中の根は、枝がたわわに実ったからといって報酬をもとめたりしない。
140
真実は衣装を着ると、事実があまりにも窮屈だと気づく。虚構のなかで、真実は手足を伸ばす。
142
わたしに思わせてください、あれらの星のなかに、未知の闇をつらぬいてわたしの人生をみちびく星があると。
140
真実は衣装を着ると、事実があまりにも窮屈だと気づく。虚構のなかで、真実は手足を伸ばす。
145
燃えさかる火は、真っ赤に輝いていて、わたしに近づくなと警告する。わたしを助けて下さい、灰の下に隠された、消えかけの燃えさしから。
147
死んだことばの塵が、あなたにくっついている。あなたのたましいを洗いなさい、沈黙で。
148
いのちには隙間が残されていて、そこから死の悲しそうな音楽が流れてくる。
149
朝になると、世界は光でできたその心を開け放った。出ておいで、わたしの心よ、愛をこめてお迎えに。
150
わたしの想いは、これらのきらきら光る木の葉とともにきらめき、わたしの心は、この太陽の光にふれて、うたをうたう。そして、わたしのいのちは、空間の青のなかを、時間の闇のなかを、万物とともに浮遊していられて、ありがたいと思う。
151
神の大いなるちからは、そよ吹く風のなかにあって、あらしのなかにはない。
152
これはひとつの夢、そこではすべてのものがばらばらになって重くのしかかっている。わたしが目を覚ましたとき、あなたのなかでそれらがひとつになっていると知って、わたしは自由になるだろう。
154
あなたがいくら花びらを毟り取ったところで、花のうつくしさを掻き集めたことにはならない。
155
沈黙はあなたの声を支えるだろう、眠りについた鳥を抱いている巣のように。
156
大いなるものは小人物と一緒に歩くことを怖れない。凡人はよそよそしくしている。
157
夜はこっそり花を咲かせて、昼が感謝してもらえるようにする。
158
権力は犠牲者たちの身もだえを見て、かれらが感謝していないとおもう。
159
わたしたちは満ち足りてよろこんでいるときに、わたしたちの果実をよろこんで手放すことがきでる。
167
世界はその痛みをこめて、わたしのたましいにくちづけした、おかえしにうたをうたって欲しいbかりに。
168
わたしを虐げるもの、それは、開かれた世界に出ていこうとするわたしのたましいか、それとも、わたしの心の扉をたたいて入ろうとする世界のたましいか。
170
わたしは心のうつわをひたした、この静謐のひとときのなかに。すると、それは愛であふれそうになった。
171
あなたは、仕事をもっているか仕事をもっていないかのどちらかだ。「おれたちになにかやらせてくれ」といわずにいられないとき、災厄がはじまる。
176
うつわの水は輝いている。海の水は暗い。ささやかな真実には明らかなことばがある。大いなる真実に大いなる沈黙がある。
177
あなたの笑顔は、あなたの野に咲く花だった、あなたのお話しは、あなたの山に吹く松風だった、でも、あなたの心は、わたしたちみんなが知っている女性だった。
178
わたしが家族に遺すのはささやかなもの、―大いなるものはみんなのためにあるもの。
182
わたしは夜の道のように、思い出のそれぞれの足音に黙って耳を傾けている。
184
善いことをするのに忙しすぎると、善いひとになるひまがない。
186
かれらは憎んで殺して、人びとはそれを称えた。しかし、神は愧じて、そそくさと記憶を隠す、青草のかげに。
188
暗黒は光をめざして旅をするが、無知の闇は死をめざしている。
189
飼い犬は、世界が自分に取って代わろうとしているのではないかとおもう。
190
じっと坐っているんだ、わたしの心よ、埃を立たせてはならない。世界にたどり着かせなさい、おまえの居場所まで。
193
頭でっかちは、刃先しかないナイフのようなもの。手がそれを使うと出血してしまう。
195
この世界は、美の音楽で手なずけられた獰猛なあらしの世界。
203
昼は、このちっぽけな地球の雑音で、ありとあらゆる世界の静けさを台無しにしている。
204
うたは果てしないものを空中に感じる、絵は地上に感じる、詩は空中と地上とに感じる。なぜなら、詩のことばには、歩き回る意味と、舞い上がる音楽とが備わっているからだ。
206
わたしが誤ってわたしの世界にのめりこむことがありませんように、そして、わたしの世界をわたしに背かせることがありませんように。
208
手持ちぶさたでなにもしていないわたしを、波音の消えた海辺のたそがれのような平和の深みでのんびりとさせてください。
210
いちばんよいものはひとりで来ない。それはすべてのものを仲間に引きつれて来る。
213
夜の闇は、あかつきの黄金ではちきれそうな袋。
214
わたしたちの欲望は、人生の単なる霧や靄でしかないものを虹の七色で彩る。
216
わたしのかわいそうな思いつきが、自分たちに名前をつけてほしいとせがむ。
217
果実のはたらきは貴い、花のはたらきはうっとりさせる、でも、わたしのはたらきは、そのかげにかくれて謙虚な愛をささげる木の葉のようでありますように。
219
人々は残酷だが、人は優しい。
220
わたしをあなたの杯にしいて、わたしの豊かさを、
あなたのために、あなたの豊かさのために役立ててください。
223
人生は失恋によっていちだんと豊かになった。
227
いのちの動きは、みずから奏でる音楽のなかで休む。
228
大地を蹴っても埃がたつだけ、作物は得られない。
229
わたしたちの名前は、夜の海の波間に輝いて、
それから署名を残さずに消えていく光。
230
薔薇の花が見える眼の持ち主にだけ棘を見せて下さい。
231
鳥のつばさを黄金で飾れば、空に舞うことは二度とないだろう。
234
月はもっている、空をあまねく照らす光と、わが身の暗いまだらを。
238
臆病な思想よ、怖がることはない。わたしは詩人だ。
241
あなたはわたしをみちびいた、わたしの昼のにぎやかな旅路をへて、わたしのたそがれの孤独へと。わたしはその真意がわかるのを待っている、夜の静けさのなかで。
243
真実の小川は、思い違いの水路を経由して流れる。
250
刀身に刀の柄を揶揄させてはならぬ、それが斬れないからといって。
254
現実のものが、意味を取り違えて根拠のない強調をされて、非現実的なものとなる。
255
おまえのうつくしさを見つけなさい、わたしの心よ、世界の移ろいのなかから、風と水の恩恵に浴しているボートのように。
257
わたしは、このちいさなわたしの世界に生きていて、それをずっとずっとちいさなものにしているのではないかと怖れるあなたの世界の高みへとわたしをみちびいてください、
そしてすべてのものをよろこんで手放す自由をわたしにあたえてください。
258
正しくないものが勢力を伸ばしても真実に変わることはない。
259
わたしの心は、うたの波をひたひたと寄せて、
この晴れた日の青々とした世界を撫でてあげたくてたまらない。
260
道辺の草よ、星を愛しなさい、そうすれば、おまえの夢は花を咲かせるだろう。
261
あなたの音楽には、ひと振りの剣のように市場の騒音を刺しつらぬかせよ、その心臓に達するまで。
263
わたしのたましいの、このかなしみは花嫁のヴェール。それは夜更けに取り去られるのを待つ。
265
わたしは路上の世界にいる。夜が来る。あなたの門を開けてください、あなたの世界はわが家だから。
266
わたしはあなたの昼のうたをうたってきた。夕べには、あなたのランプを運ばせてください、あらしの道を通り抜けて。
271
万物のかなしみをとおして、永遠の母なるものがささやくようにうたって聞かせる。
272
わたしはよそ者としてあなたの岸にやって来た、わたしはお客としてあなたの家で暮らした、
わたしは友としてあなたの戸口をあとにする、わたしの大地よ。
273
わたしがいなくなったとき、どうかわたしの想いがあなたのところに届いていますように、あたかも星空の静けさの余白に映える夕陽の残照のように。
274
わたしの心のなかに安らぎ宵の明星をともして、それから夜の愛のささやきをわたしにあたえてください。
277
出会いのランプは永いあいだ燃えているけれど、別れが来ると一瞬にして消える。
278
ひとつのことばを、あたなの沈黙のなかに、わたしのために秘めていてください、世界よ、わたしが死んだときに、「愛していた」のひとことを。
279
わたしたちは世界に生きている、この世界を愛するときに。
280
死者には不滅の誉れをあたえてください、だが、生きている者には不滅の愛を。
282
わたしはいくたびも死んで、いのちが儘きることはないと知るだろう。
284
愛とは、酒を注がれた杯のように満ちあふれるいのち。
286
あなたの沈黙の深みへとわたしをみちびいて、
わたしの心をうたであふれさせてください
288
恋のかなしみは、わたしの人生のまわりで、底の知れない海のようにうたい、恋のよろこびは、花ざかりの森に棲む鳥のようにうたっていた。
290
日の果てに、わたしがあなたのまえに立つとき、あなたはわたしの傷痕を見て、わたしが怪我をしてすでに癒えていることを知るだろう。
293
真実はみずからに向かってあらしを起こして真実の種子をまき散らす。
294
昨日の晩の嵐は、今日の朝の黄金の平和の冠をさずけて輝かせた。
296
評判がそのひとの真実よりも光っていない者は幸いである。
297
あなたの名前のやさしさは、わたしが自分の名前をわすれたとき、わたしの心に満ちあふれる―まるで霧が晴れたときのあなたの朝の太陽の光のように。
299
世界は人間を愛した、人間が微笑したときに。世界は人間を怖がるようになった、人間が哄笑したときに。
301
わたしに感じさせてください、この世界はあなたの愛がかたちとなってあらわれるものだと、そうであれば、わたしの愛はそれをお手伝いするだろう。
302
あなたの太陽の光は、わたしの心が過ごしている冬の時代に微笑みかける、花咲く春の訪れをいささかも疑わないで。
303
神は限りあるものを愛してくちづけする、そして、人間は限りないものを愛してくちづけをする。
305
神の沈黙は、人間の想いを豊かなことばに変える。
306
あなたは見つけるだろう、永遠の旅人よ、あなたの足跡がわたしのうたの向こう側へとつづいているのを。
308
わたしは知っている、わたしが大切な友と出会うために旅をしていることを。
310
わたしは夢みる、ひとつの星を、ひとつの光の島を、わたしはそこに生まれるだろう、そして、活き活きとした安逸のなかで、わたしは一生の仕事を豊かに稔らせるだろう、秋の陽に照らされている稲田のように。
311
雨にぬれた大地のにおいは昇っていく、ごく平凡な無言の群衆から湧き上がる大いなる讃歌のように。
312
およそ恋が破れることがあるなんて、わたしたちには真実として受け入れがたい事実だ。
313
わたしたちはやがて知るだろう、わたしたちのたましいが得たものを、死は決して奪うことができないと、なぜなら、たましいが得たものは、たましいとひとつになるから。
314
神はわたしのところにあらわれる、わたしに夕闇がせまるときに、神の手かごのなかで色あざやかに保たれていたわたしの過去の花々をたずさえて。
315
わたしのいのちの弦がすべてきちんと張られたら、師よ、あなたが触れるたびに愛のしらべを奏でるだろう。
316
わたしを真実のままに生きさせてください、主よ、死がわたしにとって真実となりますように。
317
人類の歴史は、侮辱された人間の勝利を辛抱強く待っている。
318
わたしは感じる、あなたがたったいま、わたしの心をじっと見つめているのを、まるで刈入れがすんでさびれた野辺に降りそそぐ朝の陽の静けさのように。
321
わたしは山のいただきをきわめて、名声の荒涼として不毛な高みが終のつみかではないことを悟った。わたしを導いてください、先達よ、とっぷりと日が暮れないうちに、人生の収穫からまろやかな黄金の智慧がもたらされる平和の谷へと。
323
わたしは苦しんだ、絶望した、死を知った、そして、わたしはうれしい、この大いなる世界に生きていることが。
324
わたしの人生のなかには、がらんどうでしんとした場所がある。それは、わたしのいそがしい日々が光と風をはらんでいた空間。
325
わたしを自由にしてください、背中にしがみついて死を困難にしているわたしの満たされなかった過去から。
326
これをわたしのお別れのことばにさせてください、
わたしは主の愛を信じていますと。
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