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迷い鳥

2020-07-25 18:09:25 | 日記

「迷い鳥」  ラビンドラナート・タゴール



1

夏の迷い鳥が、わたしの窓にきて、うたをうたい、飛び立つ。そして、秋の黄ばんだ木の葉が、うたうでもなく、吐息まじりに舞い散る。




世界は、愛するものに、途方もなく大きな仮面をはずしてみせる。それは永遠の一つの歌のように、ひとつの口づけのようにささやかなものとなる。





もしもあなたが太陽を見失ったときに涙するなら、あなたは星を見逃すことになる。





かの女の物思いに沈んだ顔は、夜の雨のように、わたしの夢にたえずあらわれる。



10

悲しみはなだめられて、わたしの心をやすらかにする、ひっそりとした林のなかの夕暮れのように。



13

聴け、わたしの心よ、ささやきを、世界はささやいて、おまえと愛を交わすから。



14

創造の神秘は夜の闇に似ている―それは大いなるものだ。知識のまやかしは朝の靄に似ている。



15

そこが高いところだからといって、あなたの愛を崖っぷちにおいてはいけない。



16

わたしが今朝、窓辺に座っていると、世界は通りすがりのように、ちょっと立ち止まってわたしに会釈していく。



17

これらのささやかな想いは、かさかさと木の葉の擦れ合う音。それは、わたしの心のなかで、よろこびのささやきとなっている。



18

あなたが何者なのか、あなたには見えていない、あなたに見えているのは、あなたの影。



19

私の願いは愚か者、あなたのうたを大声で妨げています、師よ。ただ聴くだけに、わたしをさせてください。



20

わたしは、いちばんよいものを選ぶことができない。 いちばんよいものが、わたしを選んでくれる。



22

わたしは存在することは、ひとつの果てしない驚き、それがいのち。



26

神は答えを待っている、わたしたちに届ける花のために、太陽と地球のためにではなく。



27

はだかのこどものようい青葉のあいだで遊んでいる光は、幸せなことに、人間が嘘をついたりするなんて知らない。



28

うつくしさよ、ほんとうのあなたは愛のなかにいることに気づきなさい、 あなたにへつらう鏡のなかにではなく。



33

人生は、世界が求めるから富を見出し、愛が求めるから価値を見出す。



37

わたしにはわからないう、この心がどうして黙ったまま苦しんでいるのか。それは、欲しがったり知っていたり思い出したりすることのない、ささやかな欲求のせいだ。



44

世界が押しよせてくる、いつまでも哀しみの調べを奏でつづける心の弦をとおして。



45

かれは考えた、武器は神であると。武器が勝つとき、かれ自身は敗れている。



46

神は創造によって能力を自覚する。



49

わたしはあなたに感謝している、わたしが権力の車輪ではなく、 それに踏みつぶされる生きとし生けるものとひとつになっていることを。



50

心のはたらきは、頭は切れてもおおらかでないと、細かいところにこだわるばかりではかどらない。



51

あなたの偶像が打ち砕かれて塵にまみれて証明している、神の塵はあなたの偶像よりも大いなるものであると。



56

いのちはわたしたちにあたえられる、わたしたちはいのちをあたえることによっていのちをものにする。



57

わたしたちが大いに謙遜するとき、大いなるものにいちばん近づく。



59

決して瞬間を怖れるな―そのように永遠の声はうたいつづける。



62

完璧なものは、完璧でないことを愛しているから着飾る。



68

悪には敗北する余裕がないけれど、正義にはある。



73

貞操とは、豊かな愛情がもたらす宝。



75

わたしたちは世界の意味を取り違えて、世界がわたしたちを騙すという。



77

こどもは誰でも、ことづてをたずさえて生まれてくる、神はまだ人間に失望していないということづてを。



79

人間はおのれに対して壁をめぐらす。



82

いのちは夏の花のように、死は秋のもみじのように、うつくしいいものでありますように。



83

善意ある者は、門をたたく。愛する者は、門が開いていることを悟る。



84

死ぬとき、たくさんのものがひとつになる。生きているとき、ひとつのものがたくさんになる。宗教はひとつになるだろう、神が死んだときに。



87

わたしがいまあこがれているのは、暗闇のなかで感じられるけど昼の光のなかでは見えないもの。



90

闇のなかで、ただひとつであるものはひとつに見える。光のなかで、ただひとつであるものがさまざまに見える



93

権力が世界にいった、「おまえはおれのもの。」世界は権力を王座に縛りつけた。愛が世界にいった、「わたしはあなたのもの。」世界は愛に家庭の自由をあたえた。



95

静粛に、わたしの心よ、この大いなる樹々は祈りをささげているから。



96

一瞬の雑音は、永遠なるものの音楽をあざける。



105

あなたの財布から手柄を貸して友を侮辱してはいけない。



106

名もない日々の触覚が、わたしの心にまとわりついている、老木のあちこちに生えた苔のように。



108

神ははずかしがる、成功した人たちが神の恩寵を鼻にかけるときに。



110

人間は沈黙の巷に分け入って、みずからの沈黙の叫びをまぎらわす。



111

消耗して終わることが死である、だが、完璧な終わりは永遠のなかにある。



115

いたずらを自慢する力は、散りゆくもみじと、流れゆく雲から笑いものにされる。



117

草の葉は大いなる世界に値するから生えている。



128

はっきりと物を言うことはたやすい、あなたが遅らせないで真相を話すときには。



130

もしあなたがすべての過失に対して扉を閉ざすなら、真実は締め出されるだろう。



131

わたしの心の悲しみの裏側で、なにかざわついている物音が聞こえる、―わたしはそれを見ることができない。



134

地中の根は、枝がたわわに実ったからといって報酬をもとめたりしない。



140

真実は衣装を着ると、事実があまりにも窮屈だと気づく。虚構のなかで、真実は手足を伸ばす。



142

わたしに思わせてください、あれらの星のなかに、未知の闇をつらぬいてわたしの人生をみちびく星があると。



140

真実は衣装を着ると、事実があまりにも窮屈だと気づく。虚構のなかで、真実は手足を伸ばす。



145

燃えさかる火は、真っ赤に輝いていて、わたしに近づくなと警告する。わたしを助けて下さい、灰の下に隠された、消えかけの燃えさしから。



147

死んだことばの塵が、あなたにくっついている。あなたのたましいを洗いなさい、沈黙で。



148

いのちには隙間が残されていて、そこから死の悲しそうな音楽が流れてくる。



149

朝になると、世界は光でできたその心を開け放った。出ておいで、わたしの心よ、愛をこめてお迎えに。



150

わたしの想いは、これらのきらきら光る木の葉とともにきらめき、わたしの心は、この太陽の光にふれて、うたをうたう。そして、わたしのいのちは、空間の青のなかを、時間の闇のなかを、万物とともに浮遊していられて、ありがたいと思う。



151

神の大いなるちからは、そよ吹く風のなかにあって、あらしのなかにはない。



152

これはひとつの夢、そこではすべてのものがばらばらになって重くのしかかっている。わたしが目を覚ましたとき、あなたのなかでそれらがひとつになっていると知って、わたしは自由になるだろう。



154

あなたがいくら花びらを毟り取ったところで、花のうつくしさを掻き集めたことにはならない。



155

沈黙はあなたの声を支えるだろう、眠りについた鳥を抱いている巣のように。



156

大いなるものは小人物と一緒に歩くことを怖れない。凡人はよそよそしくしている。



157

夜はこっそり花を咲かせて、昼が感謝してもらえるようにする。



158

権力は犠牲者たちの身もだえを見て、かれらが感謝していないとおもう。



159

わたしたちは満ち足りてよろこんでいるときに、わたしたちの果実をよろこんで手放すことがきでる。



167

世界はその痛みをこめて、わたしのたましいにくちづけした、おかえしにうたをうたって欲しいbかりに。



168

わたしを虐げるもの、それは、開かれた世界に出ていこうとするわたしのたましいか、それとも、わたしの心の扉をたたいて入ろうとする世界のたましいか。



170

わたしは心のうつわをひたした、この静謐のひとときのなかに。すると、それは愛であふれそうになった。



171

あなたは、仕事をもっているか仕事をもっていないかのどちらかだ。「おれたちになにかやらせてくれ」といわずにいられないとき、災厄がはじまる。



176

うつわの水は輝いている。海の水は暗い。ささやかな真実には明らかなことばがある。大いなる真実に大いなる沈黙がある。



177

あなたの笑顔は、あなたの野に咲く花だった、あなたのお話しは、あなたの山に吹く松風だった、でも、あなたの心は、わたしたちみんなが知っている女性だった。



178

わたしが家族に遺すのはささやかなもの、―大いなるものはみんなのためにあるもの。



182

わたしは夜の道のように、思い出のそれぞれの足音に黙って耳を傾けている。



184

善いことをするのに忙しすぎると、善いひとになるひまがない。



186

かれらは憎んで殺して、人びとはそれを称えた。しかし、神は愧じて、そそくさと記憶を隠す、青草のかげに。



188

暗黒は光をめざして旅をするが、無知の闇は死をめざしている。



189

飼い犬は、世界が自分に取って代わろうとしているのではないかとおもう。



190

じっと坐っているんだ、わたしの心よ、埃を立たせてはならない。世界にたどり着かせなさい、おまえの居場所まで。



193

頭でっかちは、刃先しかないナイフのようなもの。手がそれを使うと出血してしまう。



195

この世界は、美の音楽で手なずけられた獰猛なあらしの世界。



203

昼は、このちっぽけな地球の雑音で、ありとあらゆる世界の静けさを台無しにしている。



204

うたは果てしないものを空中に感じる、絵は地上に感じる、詩は空中と地上とに感じる。なぜなら、詩のことばには、歩き回る意味と、舞い上がる音楽とが備わっているからだ。



206

わたしが誤ってわたしの世界にのめりこむことがありませんように、そして、わたしの世界をわたしに背かせることがありませんように。



208

手持ちぶさたでなにもしていないわたしを、波音の消えた海辺のたそがれのような平和の深みでのんびりとさせてください。



210

いちばんよいものはひとりで来ない。それはすべてのものを仲間に引きつれて来る。



213

夜の闇は、あかつきの黄金ではちきれそうな袋。



214

わたしたちの欲望は、人生の単なる霧や靄でしかないものを虹の七色で彩る。



216

わたしのかわいそうな思いつきが、自分たちに名前をつけてほしいとせがむ。



217

果実のはたらきは貴い、花のはたらきはうっとりさせる、でも、わたしのはたらきは、そのかげにかくれて謙虚な愛をささげる木の葉のようでありますように。



219

人々は残酷だが、人は優しい。



220

わたしをあなたの杯にしいて、わたしの豊かさを、

あなたのために、あなたの豊かさのために役立ててください。



223

人生は失恋によっていちだんと豊かになった。



227

いのちの動きは、みずから奏でる音楽のなかで休む。



228

大地を蹴っても埃がたつだけ、作物は得られない。



229

わたしたちの名前は、夜の海の波間に輝いて、

それから署名を残さずに消えていく光。



230

薔薇の花が見える眼の持ち主にだけ棘を見せて下さい。







231

鳥のつばさを黄金で飾れば、空に舞うことは二度とないだろう。



234

月はもっている、空をあまねく照らす光と、わが身の暗いまだらを。



238

臆病な思想よ、怖がることはない。わたしは詩人だ。



241

あなたはわたしをみちびいた、わたしの昼のにぎやかな旅路をへて、わたしのたそがれの孤独へと。わたしはその真意がわかるのを待っている、夜の静けさのなかで。



243

真実の小川は、思い違いの水路を経由して流れる。



250

刀身に刀の柄を揶揄させてはならぬ、それが斬れないからといって。



254

現実のものが、意味を取り違えて根拠のない強調をされて、非現実的なものとなる。



255

おまえのうつくしさを見つけなさい、わたしの心よ、世界の移ろいのなかから、風と水の恩恵に浴しているボートのように。



257

わたしは、このちいさなわたしの世界に生きていて、それをずっとずっとちいさなものにしているのではないかと怖れるあなたの世界の高みへとわたしをみちびいてください、

そしてすべてのものをよろこんで手放す自由をわたしにあたえてください。



258

正しくないものが勢力を伸ばしても真実に変わることはない。



259

わたしの心は、うたの波をひたひたと寄せて、
この晴れた日の青々とした世界を撫でてあげたくてたまらない。



260

道辺の草よ、星を愛しなさい、そうすれば、おまえの夢は花を咲かせるだろう。



261

あなたの音楽には、ひと振りの剣のように市場の騒音を刺しつらぬかせよ、その心臓に達するまで。



263

わたしのたましいの、このかなしみは花嫁のヴェール。それは夜更けに取り去られるのを待つ。



265

わたしは路上の世界にいる。夜が来る。あなたの門を開けてください、あなたの世界はわが家だから。



266

わたしはあなたの昼のうたをうたってきた。夕べには、あなたのランプを運ばせてください、あらしの道を通り抜けて。



271

万物のかなしみをとおして、永遠の母なるものがささやくようにうたって聞かせる。



272

わたしはよそ者としてあなたの岸にやって来た、わたしはお客としてあなたの家で暮らした、

わたしは友としてあなたの戸口をあとにする、わたしの大地よ。



273

わたしがいなくなったとき、どうかわたしの想いがあなたのところに届いていますように、あたかも星空の静けさの余白に映える夕陽の残照のように。



274

わたしの心のなかに安らぎ宵の明星をともして、それから夜の愛のささやきをわたしにあたえてください。



277

出会いのランプは永いあいだ燃えているけれど、別れが来ると一瞬にして消える。



278

ひとつのことばを、あたなの沈黙のなかに、わたしのために秘めていてください、世界よ、わたしが死んだときに、「愛していた」のひとことを。



279

わたしたちは世界に生きている、この世界を愛するときに。



280

死者には不滅の誉れをあたえてください、だが、生きている者には不滅の愛を。



282

わたしはいくたびも死んで、いのちが儘きることはないと知るだろう。



284

愛とは、酒を注がれた杯のように満ちあふれるいのち。



286

あなたの沈黙の深みへとわたしをみちびいて、

わたしの心をうたであふれさせてください



288

恋のかなしみは、わたしの人生のまわりで、底の知れない海のようにうたい、恋のよろこびは、花ざかりの森に棲む鳥のようにうたっていた。



290

日の果てに、わたしがあなたのまえに立つとき、あなたはわたしの傷痕を見て、わたしが怪我をしてすでに癒えていることを知るだろう。



293

真実はみずからに向かってあらしを起こして真実の種子をまき散らす。 



294

昨日の晩の嵐は、今日の朝の黄金の平和の冠をさずけて輝かせた。



296

評判がそのひとの真実よりも光っていない者は幸いである。



297

あなたの名前のやさしさは、わたしが自分の名前をわすれたとき、わたしの心に満ちあふれる―まるで霧が晴れたときのあなたの朝の太陽の光のように。



299

世界は人間を愛した、人間が微笑したときに。世界は人間を怖がるようになった、人間が哄笑したときに。



301

わたしに感じさせてください、この世界はあなたの愛がかたちとなってあらわれるものだと、そうであれば、わたしの愛はそれをお手伝いするだろう。



302

あなたの太陽の光は、わたしの心が過ごしている冬の時代に微笑みかける、花咲く春の訪れをいささかも疑わないで。



303

神は限りあるものを愛してくちづけする、そして、人間は限りないものを愛してくちづけをする。



305

神の沈黙は、人間の想いを豊かなことばに変える。



306

あなたは見つけるだろう、永遠の旅人よ、あなたの足跡がわたしのうたの向こう側へとつづいているのを。



308

わたしは知っている、わたしが大切な友と出会うために旅をしていることを。



310

わたしは夢みる、ひとつの星を、ひとつの光の島を、わたしはそこに生まれるだろう、そして、活き活きとした安逸のなかで、わたしは一生の仕事を豊かに稔らせるだろう、秋の陽に照らされている稲田のように。



311

雨にぬれた大地のにおいは昇っていく、ごく平凡な無言の群衆から湧き上がる大いなる讃歌のように。



312

およそ恋が破れることがあるなんて、わたしたちには真実として受け入れがたい事実だ。



313

わたしたちはやがて知るだろう、わたしたちのたましいが得たものを、死は決して奪うことができないと、なぜなら、たましいが得たものは、たましいとひとつになるから。



314

神はわたしのところにあらわれる、わたしに夕闇がせまるときに、神の手かごのなかで色あざやかに保たれていたわたしの過去の花々をたずさえて。



315

わたしのいのちの弦がすべてきちんと張られたら、師よ、あなたが触れるたびに愛のしらべを奏でるだろう。



316

わたしを真実のままに生きさせてください、主よ、死がわたしにとって真実となりますように。



317

人類の歴史は、侮辱された人間の勝利を辛抱強く待っている。



318

わたしは感じる、あなたがたったいま、わたしの心をじっと見つめているのを、まるで刈入れがすんでさびれた野辺に降りそそぐ朝の陽の静けさのように。



321

わたしは山のいただきをきわめて、名声の荒涼として不毛な高みが終のつみかではないことを悟った。わたしを導いてください、先達よ、とっぷりと日が暮れないうちに、人生の収穫からまろやかな黄金の智慧がもたらされる平和の谷へと。



323

わたしは苦しんだ、絶望した、死を知った、そして、わたしはうれしい、この大いなる世界に生きていることが。



324

わたしの人生のなかには、がらんどうでしんとした場所がある。それは、わたしのいそがしい日々が光と風をはらんでいた空間。



325

わたしを自由にしてください、背中にしがみついて死を困難にしているわたしの満たされなかった過去から。



326

これをわたしのお別れのことばにさせてください、

わたしは主の愛を信じていますと。


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