小学生の頃、
年に一度の家庭訪問が、
とても楽しみだった。
学校の先生が、家に来て、
僕のことについて、
話しをすることには、
まったく興味はなかった。
最大の関心事は、お菓子だった。
母は、その時だけは、
特別に美味しいお菓子を用意して、
先生を待っていた。
そして、先生が帰った後、
そのお菓子を食べるのが、
大きな喜びだった。
なぜなら、先生は、いつも、
お茶だけをほんの一口すすって
帰るのが常だったから。
早く来い来い、学校の先生!
とても待ち遠しかった。
その日、その時が来た。
僕は、外で、
先生と母の話しが終わるのを待っていた。
しかし、気が気ではない。
先生の話しではなく、
テーブルの上のお菓子である。
どうしても気になるので、
中をのぞくことにした。
障子に穴を開けて、中を見た。
お菓子は、テーブルの上にある。
いいぞ。
ところが、ところが、
予想外のことが起きた。
先生が、手を伸ばして、
お菓子を食べたのだ。
何ということだ!
僕は、思わず、
「あっ、食べた!」と叫んだ。
先生も母もこっちを見た。
先生が帰った後、
厳しく怒られた。
しかし、お菓子は、残っていた。
先生が食べたのは、
一つだけだった。
ああよかったと思いながら、
残りを食べた。