数IIBの先生だった。
いつもぼくの名前を間違えた。
授業の中で生徒に問題を解かせる時、
黒板の前に出て、
みんなの前で、解かないといけない。
すこし緊張。
いや、相当緊張。
「A君、解きたまえ」
その度に、「先生、AではなくBです。」
と訂正しなければいけない。
名前の読みかたが違うのである。
その後、数回、
「先生、Bです」と、
言わなければならなかった。
ところが、
ある日を境に、
間違えなくなった。
間違えないというより、
指名されなくなったのだ。
指名されない理由は、明白だった。
三角関数でつまづいて、
数IIBは、意味不明の授業になっていた。
ぼくに指名しても意味がないのだ。
名前の間違いがなくなったのは良かったが、
ちょっぴりさみしかった。
ちょっぴりさみしくて振り返っても
そこにはただ風が吹いているだけ
人は誰も 三角関数につまずいて
人は誰も 夢やぶれ振り返る
(シューベルツの風の替え歌)