道
「まっすぐ帰ってみよう。
道があるかぎり大丈夫。」
という僕の提案に、
妻はとても懐疑的だった。
「本当に大丈夫?」
「大丈夫。大丈夫。
安心して乗っていたらいいよ。」
午後2時出発。
今から帰れば遅くても
午後6時には着くだろう。
宮崎から高速に乗らないで、
まっすぐ、
直線的に自宅を目指すことにした。
椎葉を通過している時、野生の鹿を見た。
「あっ 鹿だ。写真を撮ろう。」
その時までは
心に余裕があった。
ところが、道がだんだん細くなり、
あたりも暗くなると、
妻がしゃべらなくなった。
アレ、国道なのに、
こんなに道が狭くなるなんて、
どういうことだろう。
早く、次の五ヶ瀬町に着きたいと思うが、
なかなか着かない。
やっと、国見トンネルを越えて、
五ヶ瀬町の灯りが見えた時、
心にほんの少し
安らぎがやってきた。
翼よあれがパリの灯だ。
車よあれが五ヶ瀬町の灯だ。
高速道路で帰れば3時間、
5時には着いている。
この後悔が、疲れを増幅させた。
家に到着したのは、
午後9時に近かった。
確かに、道はあった。
静かな夜だった。
あ〜あ 疲れた。