遭難していた。
正確にいうと遭難しかけていた。
標高約500メートルの小さな山だ。
一日のスケジュールを終え、
山の上で解散して、
一人で山路を下り始めた。
山路を登るのなら、
夏目漱石の草枕。
山路を登りながら、こう考えた。
智に働けば角が立つ。
情に棹させば流される。
意地を通せば窮屈だ。
兎角に人の世は住みにくい。
私は、山路を下りながら、こう考えた。
下っている途中、
小さな小道があった。
いつものように帰らないで、
この小さな道を下ってみよう。
どうせ、下っていけば、
ふもとに着くはずだ。
どんな山でも、
道を下ればふもとに着くと
簡単に考えていた。
この思いつきは、
困難への入り口だった。
着いたのは、ふもとではなく、
谷だった。
小川が流れている谷だった。
あれっ、谷だ。
せっかく下ったのに、
また、山を登らないといけない。
登って下ったら、
また谷なのだ。
あたりは暗くなり始めていた。
少し疲れた。
少しパニックにもなった。
いったい
どうすればいいのだろう。
私は、はじめて知った。
山には、谷がいくつもあるということ。
どんな山でも、そうなのだろう。
焦りながらも、
一つのことを思いついた。
来た道を帰ろう。
そうだ、
もと来た道に帰ろう。
やっとの思いで、
最初の登山道に
戻ることができた。
この思いつきは、
正解だった。
良かった!
心の中でバンザイした。
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