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新たな規制も企業の腰重く「国の指導強化必要」
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20141222&ng=DGKKASDG21H33_R21C14A2CC1000
2014年12月22日 日本経済新聞
印刷会社の元従業員が胆管がんを発症した問題を受け、国は工場などで扱われる化学物質への規制を強化している。危険性が指摘される物質については、従業員に健康被害が生じないかの調査が企業に義務付けられる。ただ、新たな規制に対応する企業側の動きは鈍く、専門家は「企業が対策を取るよう国はより強く指導すべきだ」と指摘している。
企業担当者向けに開かれた、化学物質の有害情報などを記した「安全データシート」の講習会(11月、大阪市)
「職場の安全のためには化学物質の特徴を理解することが不可欠」。11月中旬、特別民間法人「中央労働災害防止協会」(東京) http://www.jisha.or.jp/ が大阪市内で開いたセミナーで講師が危険な化学物質の表示方法などを解説すると、受講した企業の担当者約30名はメモを走らせた。
■640種類が対象
6月に成立した改正労働安全衛生法により、危険性が指摘されている640種類の化学物質を工場などで扱う際、健康被害が起きないかの調査が企業に義務付けられることになった。
実際の対策は「努力義務」にとどまるが、講師は「規制対象外の物質を含めて、対策をせずに労災が発生した場合、刑事・民事上の責任を問われると」と警告した。
法改正のきっかけは、大阪市の印刷会社「サンヨー・シーワィピー( http://www.cypnet.co.jp/ )」の元・現従業員らが2013年3月以降、胆管がんの発症について労災申請したことだった。
同社は換気が不十分な状態で印刷機のインクを落とす作業をさせており、厚生労働省の有識者会議は「洗浄剤に含む化学物質が原因だった可能性が極めて高い※1 ※2」と判断した。
※1 厚生労働省 平成25年10月の特定化学物質障害予防規則等の改正 http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei53/index.html
※2 旭川印刷製本協同組合 1,2-ジクロロプロパン http://apbia.org/jikurorometan.html
産業医などの選任を怠り、従業員の健康被害を防ぐ対策を検討する衛生委員会を開いていなかったとして、大阪区検は10月、同社と社長を同法違反の罪で略式起訴した。
元従業員で労災認定された本田真吾さん(33)は「経営者は従業員の命を預かっている自覚を持ち、リスク管理をしてほしい」と憤る。
大阪以外でも北海道、東京、愛知、福岡など10都道府県で印刷業に従事していた人が胆管がんを発症していたことが判明。今月までに計35人が労災認定されている。
■関心高まらず
だが、化学物質のリスクについて企業の関心が高まっているとはいえず、大阪府東大阪市が今月に企画した講習会は希望者が集まらず中止となってしまった。市担当者は「売り上げに直結しないから安全管理は二の次なのだろうか」と首を振る。
化学物質の安全管理に詳しい中地 重晴・熊本学園大学※3教授(環境化学)は「企業が適切な調査を実施し、管理体制を敷いているか、労働基準監督署などが現場でチェックしないと、取り組みが看板倒れになる」と強調。「個別規制の強化も含め国の努力も欠かせない」と指摘している。
※3 熊本学園大学 http://www.kumagaku.ac.jp/
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調査義務化は全体の1%
安全性の情報足りぬ物質「有害」見越し企業は先手を
2014年12月22日 日本経済新聞
厚生労働省が存在を確認して名称を公表している化学物質は10月時点で約6万4千種類。厚生省によると、新たに製造・輸入される化学物質は年1千種類以上あり、事前規制には限界も浮かぶ。
重度の健康被害があると製造が禁止されているのはアスベスト(石綿)など8種類。ポリ塩化ビフェニール(PCB) など116種類は防護措置の義務付けなど個別の規制が設けられている。
労働安全衛生法改正で、この116種類を含む計640種類を扱う場合は危険性の調査が義務付けられる※4 ※5 ことがなかったが、化学物質全体で見れば1%にすぎず、規制対象外の化学物質が安全というわけではない。
厚労省は「安全性の情報不足する化学物質をやむを得ず使う場合、危険・有害性が高いとみなす」とし、印刷業界に防護マスクなどの着用を求める通達を出すなど、企業側により積極的な安全対策を求めている。
※4 厚生労働省 化学物質の安全対策サイト http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/seikatu/kagaku/
※5 厚生労働省 安衛法における表示・文書交付制度 http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/anzen/dl/130813-01-02.pdf