緑のカーテンとゴルわんこ

愛犬ラム(ゴールデンレトリバー)との日々のあれこれと自然や植物、
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『「アルプ」の時代』 山口耀久著

2013年11月12日 | 
以前、このブログの北海道旅行のところに書いたのですが、私が初めて働いた学術書の出版社・創文社から「アルプ」という山の月刊誌がでていました。よく知られている「岳人」や「山と渓谷」などとは雰囲気の違った、地味だけどとても品のある山の文芸誌でした。

串田孫一さんを中心に山の紀行文や詩、絵や版画、写真が載せられた雑誌です。1958年に発行されてから25年、300号を数えた1983年にその役目を終え、静かに雑誌としての幕を閉じました。百名山ブームや中高年登山ブーム、ましてや昨今の山ガールなどにはなにも縁のない雑誌でした。

でもその「アルプ」が廃刊されてから、アルプの精神を後世に伝えたいと北海道の斜里に私財をかけて設立された「北のアルプ美術館」ができ、私も一昨年訪問する機会を与えていただけ、また別に山梨県にも「日野春アルプ美術館」という施設ができているそうです。

なんと幸せな雑誌でしょう。アルプを惜しみ愛してくださる方が方々にいてくださるということです。
表題の本『「アルプ」の時代』もそうしたアルプの精神をこよなく愛し、ご自身も編集委員として25年間アルプとともに歩んでこられた山岳執筆家、山口耀久氏が著したご労作です。

私は3年弱しかアルプの仕事に携わらなかったのですが、その時期は山口氏の筆によればアルプの青年期・壮年期に当たるそうで、短いけど充実した仕事に関われ、私自身も幸せな編集者だったような気がします。
なにもわからず名編集長の大洞正典氏に言われるまま原稿を取りに行ったり、字数を数え割付をしたり校正に明け暮れる日々だったのですが、アルプの関係者が来社し編集室で話している様子は仕事を離れ、なんだかとても穏やかな爽やかな空気が流れる思いがしていました。

山口氏のこの著作はアルプの時代を懐かしむだけではなく、日本の山々、自然と向き合う人間の在り方を厳しく問うているものにも思えます。便利な車社会にどっぷりと浸かり、7年後の東京オリンピック招致も決まり、福島第一原発も抱え、私たちはどこに行こうとしているのでしょうか。そのような時に、「アルプ」という雑誌が果たした役割をきちんととらえなおすことは、とても大切なことのように思えます。

改めてそんなことを考えさせてくれた著者の山口耀久氏に大きな感謝を捧げたいと思います。 山口先生、ありがとうございました。86歳というご高齢での力作、どうぞ心ある人々に届きますように祈っております。
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