都市トルファン(吐魯番)は、周辺にブドウ溝と呼ばれる畑
が広がり、天山からの雪解け水で潤う緑豊かな町です。
砂漠なのに水が豊富なのは、天山山脈からの雪解け水
だけではなく、カレートという地下の灌漑水路が町のいたる
ところに流れているからにほかなりません。
そんなオアシスの町に住むウイグル人の女性があるとき
息子夫婦を伴って東へと旅立つことになったのです。
息子の嫁は身ごもっていました。
星々峡(せいせいきょう)を経て、嘉峪関(かよくかん)を
目指 し、敦煌(とんこう)と西安を通って北京へと入ります。
ここまでで、すでに三千キロに近い道程(みちのり)です。
一行は清朝の皇帝たちの居城であった紫禁城の近くの
ホテルにチェックインを済ませると、やおら天安門広場の
付近を散策し始めたのですが、しばらくするとなにごとか
思い詰めた足取りでホテルに戻ってきたのでした。
ホテルにはイスラム教徒が口にできるようなメニューは
なく、やむなく再び町に出て食事を済ませたか、持参した
ナンで飢えを凌いだのかは定かではありませんが、西域
と呼ばれ中国西端となる新疆ウイグル自治区から訪れた
お登りさんが中華世界を旅するルートとしては、いたって
標準的な観光客と何ら変わるところはありませんでした。
そう、あの事件が起きる時までは …
報道から推察される範囲で事件の前夜までの足取りを
予断も交えて紹介してまいりましたが、
一家は翌日、天安門広場にある毛沢東の肖像画の前
に車を暴走させて突入します。
車は大破炎上して5人が死亡、巻き込まれた40人ほどの
死傷者のなかには、日本人も1人含まれていたのでした。
この事件を中国当局は、新疆ウイグル自治区の活動家
によるテロ事件だと断定しているようですが、その背景に
新疆ウイグル自治区における中国からの独立問題があり
「東トルキスタン・イスラム運動」 という分離独立を企図
する組織の関与があると糾弾しているわけなのです。
トルキスタンとは、この地がトルコ系のウイグル人の土地
であることを示す地名です。
中国語の 「新疆」 とは、「新たに編入された疆域」 を
意味するもので、中国による占領の歴史が浅いという事実
を如実に物語る言葉です。
1949年10月1日、中国共産党は「中華人民共和国」を
樹立し、直後に 「人民解放軍は中国全土を開放しなくては
ならない。 チベット、新疆、海南島、台湾も例外ではない」
との声明を発表しました。
宣言通りに建国直後の1949年にウイグルに侵攻し占領
すると、翌1950年にはチベットへの侵攻を開始します。
そして1951年に首都ラサを占領し併合してしまいます。
さらに、
共産党政府は新疆ウイグル自治区に大量の漢族を移住
させ、人口比を逆転させようと画策をしており、1949年には
29万人しかいなかった漢族は、今や800万人を優に超えて
先住民であるウイグル人をマイノリティーに追いやるかたち
となっているのです。
それでもまだ、約2000万の人口の半数がイスラム教徒の
ウイグル族等で占められていますが、政治や経済といった
重要な分野においては漢人が大きな影響力を持っていて、
政治的には抑圧され、経済的には搾取 され、自らの故郷
において、あとから土足で割り込んで来た漢族にすべてを
奪われる植民地的な現実に、ウイグルなどの少数民族は
絶望感を抱いているわけなのです。
また中国は建前上からも、宗教を否定する社会主義国家
ですので、イスラム教の活動には特に神経を尖らせ、常に
監視下に置いていますので、一部の住民は中国の統治に
反発して、中国からの分離独立を強く主張するわけです。
当然のことに、
中国はチベットでも同様の問題を抱えており、10月には
国連人権理事会が中国に対してチベットや新疆ウイグル
自治区などにおける少数民族の権利保護を求めましたが
、中国側は「国を分断するような行為は受け入れることは
できない」 と主張し、反体制活動を弾圧するのは正当な
行為であるとの立場を崩していません。
それにしてもウイグル人の女性一家に何があったのか
推測の域を出ませんが、決死のメッセージを世界に
向けて発信したかったのだろうということだけは一家心中
のような事件の顚末からも見てとれますが …
少なくともテロ事件というよりも悲嘆に暮れた末の絶望的
な心中事件で自殺行為の延長上に新疆ウイグルの実状を
訴える悲愴な思いの欠片が見え隠れしているようです。
さて、日本版NSCに対抗したわけではないでしょうが、
先頃 開かれた第18期中央委員会第3回総会(3中総会)
で中国共産党は米国の国家安全保障会議(NSC)を意識
した「国家安全委員会」の創設を決めました。
委員会の創設は習主席主導で進められているとの見方
が主流ですが、ウイグル人一家が起こした天安門前への
突入事件と無関係ではないようです。
主な目的は国内の統治レベルの向上で、「党委員会や
政府と並ぶ国家機構」(中国紙)とも指摘され、少数民族
や社会不満を強める庶民を念頭に より一層の統制強化
を宣言したかたちですが、テロ分子や分裂分子や極端な
宗教分子を追い詰めるための精鋭組織で チベット族
やウイグル族を標的対象にしていることは明らかです。
中国メディアなどによると、委員会は、軍、武装警察、
公安省、情報機関の国家安全省などで構成し、要員は
500~600人規模でトップは習近平国家主席となります。
これで、習主席への権力の集中と強権行使による中国
の社会矛盾はさらに拡大の一途が予測されるわけで懸念
材料はひろがる一方です。
ところで、先のウイグル人の女性一家が暮らしていた
中央アジア天山山脈の雪解け水を地下の水路でつなぐ
カナートという灌漑施設を持つトルファンには、「水」 の
ほかにも、「火」 を象徴する山があるのです。
『西遊記』で牛魔王 と孫悟空 が芭焦扇
をめぐって戦った火の山のモデル 火焔山 です。
ウイグルの人々はクズルターダ(赤い山)と呼びトルファン
のシンボルとなっているようなのですが …
もしも現代の中国に、孫悟空 が現れたなら、
一体どんな仙術を使って、ウイグルやチベットの窮状を救い
独立を助けてくれるのだろうか
現代版 『西遊記』 の孫悟空の登場に
乞うご期待のほどを …
とは言ってみたものの新疆ウイグルは軍事的にも重要な
エリアだし、中国人は歴史的に北方と西方の備えには敏感
で完璧を期さないと安心できないとの考えを持っています。
それに一部の民族の独立を承認してしまうと50以上ある
とされる少数民族が一斉に反旗を翻す恐れも十分にあり、
当局はそうした事態が起こることを強く危惧していますので
いかに孫悟空の術をもってしても、余程のこと
がない限り、新疆ウイグルやチベットや内モンゴルなどの
自治区における独立を認めることはないでしょうね
コメント一覧
むらさき納言
皮肉のアッコちゃん
ココナン
透明人間1号
おいら
最新の画像もっと見る
最近の「ひとりごと」カテゴリーもっと見る
最近の記事
カテゴリー
バックナンバー
人気記事