透明人間たちのひとりごと

雑考 『桃太郎』

 「『桃太郎』 ってホントのところ、どうなんすかねぇ~」

 「どうって、何が …」

 「いやぁ、本当にヒーローかどうか … question2 なんですけどね」

 予期せぬ 4号 からの問い掛けに、タイトルを変更して、
「雑考 『桃太郎』」 を記事にすることに決めました。

 … と言うのも、幼少より一貫してずっと 「桃太郎」 が私の
中でのヒーローの一人であったことは否定できない事実です
が、あるとき、についてより深く考える機会があってからと
いうものは、単純に 「桃太郎」 を英雄視することが出来ない
のかも … という思いに苛(さいな)まれていたからです。

 昨年来の 「ハーバード白熱教室」に見るような
マイケル・サンデル教授の超人気講義 「JUSTICE(正義)
がもとの 『これからの「正義」の話をしよう』
にしても … 

 日本のアンデルセンと称された濱田廣介(浜田広介)の
童話 「泣いた赤鬼」 を基にした現在公開(上映)中の
CGアニメfriends-フレンズ-もののけ島のナキ』 
のような優しい鬼たちの登場する映画や物語にしても然り … 

 我が 「桃太郎」 を貶(おとし)めていくだけなのです。

 そして、決定的だったのが芥川龍之介の 『桃太郎』
出合ったことでした。

 子供時代の私にとって敬愛すべき ヒーロー のひとりは、
紛れもなく 「桃太郎」 であったことは確かです。

 悪い鬼どもを退治する主人公にして勧善懲悪の物語の中
の絶対的な英雄だと思っていました。

 大抵の昔話は、悪い奴らを懲らしめるストーリーです。

 子供心にも悪いことをすると罰(ばち)が当たり、常に正義
が勝つのだと信じ込んでいました。

 ところが、近年では子供向けの戦隊ヒーローものでも …

 誰が、或いは、何が悪で、誰や、いったい何が善なのか
が、わかり難くなってきているようです。

 悪とされる者にも悪なりの言い分(正義)があり、善とされる
側にもそれが本当に正義なのかquestion2と問われそうなストーリー
の構成も珍しくありません。

 それだけ世の中が複雑怪奇なものとなっていて、単純には
白か黒かで割り切ることができないような迷宮的な時代背景
がそこにあるからなのでしょうか。

 だから今も変わらずにヒーローなのかと問われると疑問符
が付かないこともないのですase2。 … question2

 それもこれも芥川龍之介の 『桃太郎』 の所為です。

 exclamation http://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/100_15253.html (参照)

 芥川龍之介の話では鬼ヶ島の鬼たちよりも、桃太郎の方
が極悪非道な人物として描かれています。

 平和に暮らしている鬼ヶ島に突如として桃太郎たちが侵攻
し、宝物を略奪して来るという内容だからです。

 鬼たちを殺し、鬼の娘たちを凌辱し、宝物をひとつ残らず
献上させるのです。

 以来、桃太郎がチンギスハンやアメリカに見えなくもない。

 かつてのローマ帝国や大航海時代のスペイン・ポルトガル
そして大英帝国やナポレオン率いるフランス軍のようにも …

 ささくれて逆向けた幾ばくかの皮膚の痛みにも似たような
それはそれでなんともやっかいな悩みになっていたのです。 

 咽喉もとで、奇妙な違和感と不快感を繰り返し誘発させる
突き刺さった魚の小骨のように、どこかに引っ掛かったまま
でいたからなのかもしれません。

 そんな折も折の 4号 からの問い掛けでした。

 「ホントのところ 『桃太郎』 ってどうなんだろうeq

 そう言えば 『桃太郎の家来たち』 の記事のなか
で、5号 の咽喉か食道の途中に引っかかったままでいると
いう溜飲物が無事に腑の中に落ちたかどうかは不明ですが

 <桃太郎の家来たち>に関して芥川龍之介は
次のように書いています。

             ― (前略) ―

  桃太郎は ―― 犬のほかにも、やはり黍(きび)団子
  の半分を餌食に、猿や雉を家来にした。

  しかし彼等は残念ながら、あまり仲の好い間がらでは
  ない。 丈夫な牙を持った犬は意気地のない猿を莫迦
  (ばか)にする。 黍団子の勘定に素早い猿はもっとも
  らしい雉を莫迦にする。  地震学などにも通じた雉は
  頭の鈍い犬を莫迦にする。

  ―― こういういがみ合いを続けていたから、桃太郎は
  彼等を家来にした後も、ひと通り骨の折れることでは
  なかった。

 (衝突を繰り返す彼等を何とかまとめあげた桃太郎は …)

  もう一度彼等を伴に鬼が島征伐の途(みち)を急いだ。

  鬼が島は絶海の孤島だった。 が、世間の思っている
  ように岩ばかりだった訣(わけ)ではない。

  実は椰子の聳(そび)えたり、極楽鳥の囀(さえず)った
  りする、美しい天然の楽土だった。

  こういう楽土に生を享(う)けた鬼は勿論(もちろん)平和
  を愛していた。

             ― (中略) ―

  桃太郎はこういう罪のない鬼に建国以来の恐ろしさを
  与えた。 鬼は金棒を忘れたなり、「人間が来たぞ」と
  叫びながら、亭々(ていてい)と聳(そび)えた椰子の間
  を右往左往に逃げ惑った。

  「進め!進め!鬼という鬼は見つけ次第、一匹も残らず
  殺してしまえ!」

  桃太郎は桃の旗を片手に、日の丸の扇を打ち振り打ち
  振り、犬猿雉の三匹に号令した。

  犬猿雉の三匹は仲の好い家来ではなかったかも知れ
  ない。 が、饑(う)えた動物ほど、忠勇無双の兵卒の
  資格を具(そな)えているものはないはずである。

  彼等は皆あらしのように、逃げまわる鬼を追いまわした。

  犬はただ一噛みに鬼の若者を噛み殺した。
  猿も ―― 猿は我々人間と親類同士の間がらだけに、
  鬼の娘を絞殺す前に必ず凌辱を恣(ほしいまま)にした。

  ……

  あらゆる罪悪の行われた後、とうとう鬼の酋長は、命を
  とりとめた数人の鬼と桃太郎の前に降参した。

  桃太郎の得意は思うべしである。 鬼が島はもう昨日の
  ように、極楽鳥の囀(さえず)る楽土ではない。 椰子の
  林は至るところに鬼の死骸を撒(ま)き散らしている。

  桃太郎はやはり旗を片手に、三匹の家来を従えたまま、
  平蜘蛛のようになった鬼の酋長へ厳(おごそ)かに こう
  いい渡した。

  「では格別の憐愍(れんびん)により、貴様たちの命は
  赦(ゆる)してやる。  その代わりに鬼が島の宝物は
  一つも残らず献上するのだぞ。」

             ― (中略) ―

  日本一の桃太郎は犬猿雉の三匹と、人質に取った
  鬼の子供に宝物の車を引かせながら、得々と故郷
  へ凱旋した。   ―― これだけはもう ――

    日本中の子供のとうに知っている話である。

 Wikipedia - 桃太郎 によると、自分の子供に
日々渡した家訓 『ひゞのをしへ』 のなかで、福沢諭吉
「桃太郎が鬼ヶ島にいったのは宝物を獲りに行くためだ。 
けしからんことではないか」 と非難しているそうです。

 また、現代でも 「本当は鬼が島に押しかけた桃太郎らが
悪者ではないか」 と思う者もおり、裁判所などで行われる
模擬裁判の事例やディベートの議題としても取り上げられる
ことがあるそうです。

 そして、芥川龍之介をはじめとして、尾崎紅葉、正岡子規、
北原白秋、菊池寛などの作家たちも競って桃太郎を小説の
題材にしているようで、桃太郎は「日本人」の深層の何かを
伝えていたといえる。 … としています。

 「勝てば官軍、負ければ賊軍」 とは、よくも言ったもので
振り返って見るまでもないことに 「正義」「不義」
とは、いつでも入れ代わります。

 真実や道理がどうあれ、強い者、勝った者が正義者として
歴史に名を刻みどどめるからです。

 さて、芥川龍之介の 『桃太郎』 では …

 件(くだん)の人質となっていた鬼の子供は一人前になると
番人の を噛み殺した上、たちまち鬼が島へ逐電した。

 のみならず鬼が島に生き残った鬼は時々海を渡って来て
は、桃太郎の屋形へ火をつけたり、桃太郎の寝首をかこう
とした。

 何でも の殺されたのは人違いだったらしいという噂で
ある。 桃太郎はこういう重ね重ねの不幸に嘆息(たんそく)
を洩らさずにはいられなかった。

 桃太郎の渋面(じゅうめん)を見ると、口惜しそう
にいつも唸ったものである。

 その間も寂しい鬼が島の磯には、美しい熱帯の月明かりを
浴びた鬼の若者たちが五六人、鬼が島の独立を計画する
ため、椰子の実に爆弾を仕込んでいた。

 優しい鬼の娘たちに恋することさえ忘れたのか、黙々と、
しかし嬉しそうに茶碗ほどの目の玉(かがや)かせ
ながら ……


 なっ何だ! 芥川龍之介は 予言者eq 

 これじゃ、桃太郎 じゃなくて、もう テロ だよ

 るる  何だか、いまも世界のどこかで
見かけるような怖い風景ですよね

 忘れ掛けていた 9.11 の記憶と衝撃が甦ってきます。

 ところで、 

 ホントのところ 「桃太郎」 ってどうなのよ !? 

コメント一覧

出力系人間アウトプット
なんだか桃太郎がロシアで、真面目で平和主義の鬼たちの姿がウクライナの人々ように見えなくもないな!?
スノーホワイト
やんちゃで元気な金太郎に対し優等生のイメージだった桃太郎
だけど、なんだか見方が変わった感じ…

それにしても、「桃太郎」 → 「もうテロ」は 苦しいですね。
桃太郎のなかま
桃太郎を英雄視できないのなら「3年待ったぜ栗太郎」とか、
「8年我慢の柿太郎」ってのは、どう?

どっちも英雄じゃないけど、桃栗3年柿8年って言うし …
茶山竜之介
へえ、芥川龍之介も「桃太郎」を書いてたんだ!
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