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札幌・円山生活日記

現代を代表する洋画家・遠藤彰子氏の半世紀の軌跡~「遠藤彰子展 生生流転」@「札幌芸術の森美術館」

札幌芸術の森美術館で開催中の「遠藤彰子展 生生流転(せいせいるてん)」。現代を代表する洋画家で「人間の存在」など普遍的なテーマを描き続ける遠藤彰子氏の半世紀にわたる活動の軌跡を紹介しています。会場には身の回りの出来事を題材にした初期の作品から畳6畳ほどの巨大キャンバスに人々の生活や自然の凄まじさを描いた大作など約80点が展示されています。圧倒的な迫力です。

本日は「札幌芸術の森美術館」で開催中の「遠藤彰子展 生生流転(せいせいるてん)」鑑賞です。先般訪問した円山のギャラリー・カフェ「CAFE ESQUISSE(エスキス)」でマスターが一人の客と「すごい迫力だそうですよ!」と話題にしていた評判の展覧会です。アクセスはいつもの通り地下鉄東西線「大通駅」で南北線に乗り換え終着駅「真駒内駅」で下車、そこから北海道中央バス「空沼線・滝野線」15分弱で「芸術の森入口」に到着です。
「札幌芸術の森」入口付近。シンボルアートの伊藤隆道氏・作《空と地の軌跡》。
会場の「札幌芸術の森美術館」。

「遠藤彰子展 生生流転(せいせいるてん)」フライヤー。
“神奈川県を拠点に活動する画家・遠藤彰子(1947‐)は、「人間の存在」や「今生きている実感」といった普遍的なテーマを描き続けています。
 寄り集まる人々、ひしめき合う建造物、芽吹き広がる植物や大樹など、多くのモチーフが画面いっぱいに描かれ、エネルギーに満ちた作品世界を構築しています。500号(約2.5m×3.3m)を超える大作は、人々の営みや自然の驚異が細部まで丹念に描き込まれており、観る者を躍動的な物語の中へ引き込みます。
 本展では、約80点の作品を通して半世紀にわたる画業を辿ります。身の回りの環境や出来事を題材にした初期の「楽園シリーズ」、画家として飛躍のきっかけとなった「街シリーズ」、そして最大で3.3m×7.5mにも達する「大作シリーズ」を中心に、立体作品や新聞連載小説の挿絵など、これまでの広範な活動の軌跡を一挙にご紹介します。
 めくるめく物語が繰り広げられる遠藤彰子の作品をこの機会にぜひご覧ください。”

会場内は写真・動画撮影可能です。

会場内に掲示されていた制作中の遠藤彰子氏の写真。作品は初期の「楽園シリーズ」、氏が画家として飛躍のきっかけとなった「街シリーズ」、そして最大で333.3×745.5cm(にも達する「大作シリーズ」の順番で展示されています。

【楽園シリーズ】
 “1947(昭和22)年、東京に生まれ、幼少の頃から絵を描くことが大好きだった遠藤彰子。学校から帰ると毎日のようにローセキで道路に絵を描いていたといいます。19歳で武蔵野美術短期大学に入学、卒業後から本格的に画家を志すようになりました。
 結婚と同時に神奈川県相模原市へ移住。当時は深い森が広がり、野生の兎や猪などが行き交う自然豊かな環境でした。東京で生まれ育った遠藤にとってそれはまさに「楽園」。日中スケッチブックを片手に森へでかけ、夜になるとキャンバスに油絵を描く日々から生まれたのが 「楽園シリーズ」です。「絵を描くこと自体が楽しい幸せな時期だった」 と振り返ります。
 一方、1970年代の日本の美術界は、抽象的な絵画表現、さらには既存の絵画という枠組み自体を脱した作品が台頭していました。具象絵画の可能性を追求する事自体が、時代に逆行するような流れでした。しかし遠藤は、敢えて「ゴチャゴチャに描こう」と、信念を持って過剰な描き込みによる作風を追求していきました。
 サーカスの象、ライオン、キリン、猫などの動物たち、道化師、妖精、 子どもとも大人ともわからない人物たちが、混然と戯れ、踊る、幻想的 でファンタジックな世界が描きだされています。暗さを帯びた深みの ある色合い、時に強く時に冷たい目線などは、楽しげでありながらも 儚さや哀愁を感じさせます。”
《楽園》1970年 90.0×162.0cm。
《楽園の住人たち》1974年 130.3×194.0cm。
《部屋》1976年 162.0×130.0cm。
 “妊娠中、広い空間を描くことに抵抗を感じていたので、 一日一部屋ずつ日記風に描くことを思いついた。その日の 出来事を幻想的に描いたり、昔の記憶を描いたり、さまざ まなことをアパートの中の部屋に入れていった。
 人々は、同じ箱の中に居ながら、互いの結び付きを失っている。自分の殻に閉じこもることによってしか心を開放で きず、その現実から常に抜け出したいと願いながら、踏み出 すことができないでいる。そんな矛盾した心境を描いた。い つもアトリエの中で過ごしていたこの頃の私自身と重なり合う。”

《音楽》1975年 130.0×162.0cm。

【街シリーズ】
 “1970年代後半にさしかかると、遠藤の絵に大きな変化が現れます。妊娠、出産、育児の問も絵筆を握り描き続けていたある日、事件が起きました。生後8か月の長男が生死をさまよう病にかかったのです。 「幸せそうに暮らしている日々が、何の前触れもなく暗転してしまう 恐ろしさを思い知らされた」と遠藤はいいます。
 また当時の日本は、高度経済成長の時代。高層ビルや高速道路が次々と建設される一方で、人々の心には大きな重みが生じていました。そうした時代の空気や社会の様相も作品に投影し、恐ろしさと楽しさ、不安と希望といった、相反する要素を同居させ「街」を舞台に描くようになりました。
 30代から制作が始まった「街シリーズ」では、試行錯誤を繰り返しな がら、次第に複雑で重層的な世界を構築していきました。林武賞(昭和会展)や同人優賞(二紀展)などを次々と受賞。39歳の時には画壇の芥川賞とも言われた安井賞を受賞し、画家・遠藤彰子の名は広く世に知られていきました。”
《私の街》1981年 194.0×259.0cm。

《みつめる空》1989 年 248.5×333.3cm。

【大作シリーズ】
 “遠藤は、1989年《みつめる空)で約2.5m×3.3mという500号に挑み、 それは現在までも続く「大作のシリーズ」の起点となりました。大作においては、大画面であることが構成上の必然であることを追求していきました。
 以降毎年大作に挑み続ける中で、1995年《死なしむな夢》では、キャンバスを縦長に配置しました。高さが3.3mになると「作品の前に立った時、すべてを視界に収めることができないため、構成にはより苦心した」といいます。しかしこれにより、縦長の画面を横に連結し、さらなる大画面に描く術を得ました。2002年から2004年の《遠い静けさ》で、遠藤作品は最大の1500号に達しました。
 作品の舞台は、街の情景が徐々に遠のき、空や雲、焔や海などが構図 の重要な要素となっていきました。植物がまるで生き物のように生い 茂り、画面を覆っていきます。大きな自然の中で、人間も動物も植物も 魂の塊となり、果ては塵となって地に帰りまた生まれてくる、生命の 循環が根源的な主題として表出していきます。”
《死なしなむ夢》1995年 333.3×218.2cm。

《遠い静けさ》左:草の音 2002年/中央:遠き日がかえらしむ 2003年/右:冬の音 2004年 333.3×745.5cm(各333.3×248.5cm)。
 “千五百号は、季節のように循環する生の姿を描きたいと想った。緑の草木、焔の赤、雪の白と色彩の持つ象徴性を道標に、意欲的で不思議で、いとおしい人間の肖像画を目指した。

 左側は「春・夏」のイメージで芽吹く頃、やがてうっそうと繁茂する草々の間から生きものたちが置き成長し、むせるような植物たちの吐息が感じられ、茎や葉はゆるゆると広がってゆく。幻想の少女は現われては消え、植物の曲線だけ が揺れている。そんな息吹を表わしたいと想った。

 中央の画面左は白昼の人の営みで、それぞれの一回性の人生を身いっぱいに生きて、果てしなく動き廻っている。焔をはさんで右は夜の部屋。灯の下の様々な家族たち。河の上に燃えさかる焔は異形の鳥に姿を変え、かつて私の絵に登場した人物たちの何干の生に対する祝祭なのだ。大きな魚が物憂げに横たわり、遠くを見ている。

 生のエネルギーを放出しきった人々は、右側の「秋・冬」 へと向かう。焔の赤から白い風景へと移り、雪と骨の街 へ帰ってゆく。雪の中の月は青白くひかり、深い静寂の 内にあり続け、再生へと巡ってゆく。-「MUSABISM』(2003年)より”。
 
《遠い静けさ》 333.3×745.5cm

《我、大いなる舟に乗りてゆく》2012年 333.3×248.5cm

(四季)
“私が四季を描こうと思ったのは、春・夏・秋・冬の四季の循環を、人間の人生に置き換えることによって、自然と生き物の生命同士が絡み合うような東洋的な死生観を表したいと思ったからである。2008年から2011年までに描いた1000号4点 で、それぞれが独立した絵でありながら、4作で一つの作品になっている。”
《 いくとせの春 春》2009年 333.3×497.0cm。
《織られし白き糸 夏》2011年 333.3×497.0cm。
《在り過ぐす 秋》2010年 333.3×497.0cm。
《白馬の峡谷 冬》2008年 333.3×497.0cm。


《ことば響くあたり》2019年 333.3×497.0cm。

《炎樹》2017年 333.3×497.0cm。

《その時ゆくりなき雲》2015年 333.3×497.0cm 。

《黒峠の陽光》2021年 333.3×497.0cm 。

【挿絵・立体作品】
朝日新聞連載小説・篠田節子「賛歌」より2005年。
毎日新聞夕刊連載小説・黒井千次「古い土地 新しい場所」より2010年。

《花信》1994年。
《刺青猫》1995年。
《刻》2009年。

《獅子》1992年。
以上で鑑賞終了。今まで見たことのないような大迫力で深い美術展でした。時間があればもう一度来たいと思います。ありがとうございます。

「遠藤彰子展 生生流転」
会期:2024年4月6日(土)~6月16日(日)
休館日:4月8日(月)、4月15日(月)、4月22日(月)
開館時間:[4月・5月]午前9時45分~午後5時/[6月]午前9時45分~午後5時30分 ※入館は閉館の30分前まで
会場:札幌芸術の森美術館
〒005-0864 札幌市南区芸術の森2丁目75番地(【TEL】011-591-0090)
(2024.4.19)


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