The Alan Smithy Band

The band is on a mission.

こうして私は出会いました

2018年12月30日 | ASB活動日誌
最初は軽いLINEのやりとりだった。

「こんなんあんねんな」

そう言ってあるイベントのフライヤーを送ってきたのはヒゲ氏だった。

それは、ある楽器屋が開催するギターフェアだった。関西最大級のギター展示イベントと銘打たれたポスターにはありとあらゆるギターが所狭しと並べられている写真が多数。

すかさずヨウジ氏も「先週これに行ったがかなり良かった」とコメント。

そして気が付けば「今度の日曜日、行ける人で集合しよう」という流れになっていた。

私ひで氏はこの時点で非常に危ない何かを感じていた。

これはわりとよく知られた事実だが、私ひで氏がライブで長年使用しているギターであるフェンダーのテレキャスターはヨウジ氏のものである。そしてタカミネのアコースティックギターもヨウジ氏のものだ。

ただ単にヨウジ氏の懐が広いと言えばそれまでだが、私ひで氏にももちろん申し訳ないという気持ちもあり心の中ではずっと「いいギターがあれば欲しい」という気持があった。一度、すんでのところで運命を取り逃がしたことがある。参考までについ先日も紹介したハナシはこちらだ。

怨念アルペジオ

この事件以来11年、特にGibsonのCountry & Westernには大きなコンプレックスを持っていた。

そう、恐ろしかったのだ。もし良いGibsonに出会ってしまったら絶対に危ない…

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日曜日。都合のつかなかったもとひろ氏以外の3人が会場に集まった。


広いショッピングモールのいたるところに並べられた様々なギター。私ひで氏は少し遅れて着いたのだが、着いた途端 ヒゲ氏もヨウジ氏も「かなり面白いのがいっぱいある」と迫ってくる。私ひで氏はやはりアコースティックギターのセクションにくぎ付けになった。



バンドマンというのは、自分以外のバンドマンにやたら楽器の購入を勧める。


これはおそらく全世界的なトレンドだ。
そして同一バンド内のメンバー間では、これがさらに顕著になる。

普段から「良いギターがあれば欲しい」と公言してきた私ひで氏の事情を知っているバンドメンバーと一緒に居る事の危険性を私は完全に理解できていなかった。無数のギターに囲まれて冷静な判断を失っていたのかもしれない。

気が付けば私は数本のギターを手にとり、試奏をお願いしていた。


流れからして意外に思われるかもしれないかもしれないが、私ひで氏がこの時手に取っていたのはテイラーやマーチンというギターで、
Gibsonではなかった。この10年で趣味嗜好に多少の変化もあり、色々なことを考えると「もし」ギターを買うとなれば、マーチンではないか、という結論にうっすらと達しつつあったのだ。もし、の話だが。

「もっと静かなところで試奏したほうがいい」と言ったのがヨウジ氏だったかヒゲ氏だったか覚えていないが、楽器店の試奏室での演奏をアレンジされた。そして自分で弾いてみたり、逆にヨウジ氏に弾いてもらったりした。自分が弾いている時の鳴りと人が弾いている時の鳴りは違うからだ。


やたら良い音がするように思えるし、ヨウジ氏も

「や、これはいいギターだ」

などとわざとらしく何度も繰り返しながら弾く。


何本か試奏したギターのうち、気になる一本があった。それは、ボディにちょっとだけ「欠け」があるいわば「キズあり」のマーチンのギターだ。
しかしそのキズがあるからこそ、大幅な値下げがなされている。そして店員は言う。「この傷は実は自分が出した時につけてしまった傷で、始末書を書いたぐらいのものです。正直、わけありなので気にする人には売れにくいが、自分としてはもちろん売れれば良いなとは思っている」

「ふぅ…ん」 


私がこの手の「運命の出会い」を大切にするタイプと熟知しているメンバー達はここで一気にたたみかけてくる。

「こんなんライブ2回やったら付くキズやね」

「逆に愛着わくよね」

「さっきあそこで試奏してた女の人もこのギター見てたわ」

「こんだけの傷でこれほどの値引きはすごい」


考え得るすべての殺し文句を営業マンに代わって囁いてくるこのエネルギーは一体何なのか。

そのあと、数本のマーチンやテイラーを試奏した私ひで氏は、店員に言った。


「さっきの傷あるヤツありますよね…あれ、やっぱり値段的にはあれくらいが限界ですか」

店員は「少しならいけます。逆にどのくらいまでなら?」


俺は、値段交渉に入っている。


これで値段が落ち着いてしまったらどうするのだ。

おれはギターを、マーチンを買うのか。

最後の最後に私ひで氏が迷っていた要因は、ボディの形状だ。このギターは、これまで使ってきたアコギに比べると一回り小さく、少しくびれたいわゆるフォークタイプ。これがもし、である、ライブで使うときなどに出音の迫力的に、また見た目的にもどうか、というところだ。もし買ったとして、の話である。

このことを伝えるとヨウジ氏とヒゲ氏は恐ろしくクリエイティブな数々の名言を連発した。

「このぐらいの大きさの方がちょうどいい。ドレッドノート(大きいサイズのもの)は一般的な体型のアジア人には大きすぎるというのは社会の定説」

「ライブで使うからこそ箱鳴り(ギターそのものの音量)よりもこういう粒がそろった出音が良い」

そして私の心を大きく動かしたのは、ヨウジ氏の次の一言だった。

「ドレッドノートが弾きたくなったらカッシーのタカミネをいつでも弾けばいい」

最初に書いたが、タカミネはヨウジ氏のギターなのだ。そのギターを「カッシーのタカミネ」と呼ぶ懐の深さ。そして両方を持っておくべきとでも言うこの説得力のあるロジックは何だ…

ややうつむき加減で思案していた私ひで氏は、耳元でこれを言われた後、目の前に立つ店員の方に顔を上げうつろな目で言った。

「ここってATMありますか」


そこからの事はあまり覚えていない。
気が付くと私は、マーチンの付属ギグケースを手に提げていたのだ。



そう、2018年が終わるギリギリのタイミングで、俺はギターを買ったのだ…!

徐々に興奮に包まれる。なぜかプリクラのコーナーで身だしなみを整えたりしてみる。



家に帰って、エクスプローラの横に掛けてみる。美しい。



2019の最初の目標が出来た。ライブでこのマーチンを使う。だ。


余談だが私がギターを買った帰り道、まだまだ通り道にたくさんの楽器が並んでいた。その中にはベースも数は少ないがあった。
大きなミッションを終えリラックスし切った私と、常に一定のテンションのヨウジ氏がバンドメンバーとして取った行動は写真のみで充分、説明するまでもないだろう。







バンドメンバーと楽器を見に行ってはいけない。


ダメ。絶対。






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