第7回は、強豪そろう九州です。
口述しますが、今年の九州代表には二つの面白い傾向があり、
大変に興味深いことになっています。
≪選抜出場校の思い出7≫
九州代表 筑陽学園(福岡) 初出場
夏1度出場 甲子園通算1敗
筑陽学園と言えば、やはり思い浮かぶのはサッカー。東福岡と並ぶ福岡の雄で、常に全国制覇を目標としている強豪です。一方の野球といえば、なかなか甲子園にコマを進めることもかなわず、全国のファンに『これっ』という試合を見せたことはまだありません。唯一の甲子園は03年夏、初戦の相手はこの年準優勝まで駆け上がる、2年生のダルビッシュを擁する東北でした。実はワタシこの試合、現地観戦でしたが、試合開始に間に合わず球場に到着した時にはスコアボードに1回の裏の東北の得点である「7」がすでに入っていたところ。ダルビッシュがエースだったので『あ~あ、もう試合、ほとんど決まっちゃってんじゃん』と思ったところからの観戦でした。しかしほとんどそれまで知ることのなかった筑陽学園、ここから鋭い追い上げを見せてあっという間に6点を挙げてダルビッシュをKO。1点差として「お~やっぱり福岡の代表は違うなあ」と感心させてくれた思い出があります。その後はリリーフした「メガネの真壁くん」に完ぺきに抑え込まれて敗れましたが、なかなか面白い試合だったという感想を抱いた思い出がありますね。あれからもう15年の歳月が流れました。ダルビッシュもすっかりベテランの域に入って、MLBでなかなか日本のファンには手の届かない存在になっていますが、その間県内では強豪であり続けたであろう筑陽学園にとって、甲子園は本当に遠かったんですねそれだけに今回の久しぶりの出場、うれしいことと思います。あの時と比べ、今回は戦力が充実している感じです。秋は桐蔭学園との試合を観戦しましたが、投攻守にレベルの高い試合を見せてくれて完勝。春に期待が持てる内容でした。昨年の創成館同様、春に何かを成し遂げてくれる雰囲気をもっています。期待が高いチームです。
九州代表 明 豊(大分) 3度目(10年ぶり)
夏6度出場 甲子園通算10勝8敗
ダイエー・城島の母校として知る人ぞ知る存在だった別府大付属が明豊と校名を変えて甲子園に初登場したのが01年夏。今は亡き大分の名将・大悟法監督が率いて最初の試合から20-0というまさにセンセーショナルなデビューを飾って、この年いきなり3勝を挙げての8強進出。これで一気に明豊という名前は、全国の高校野球ファンにとどろきわたりました。その後はインパクトを残せませんでしたが、再度明豊の名前を全国に知らしめたのはンと言っても09年のチーム。エースは言わずと知れた今宮(ソフトバンク)。能力がずぬけていた今宮は、もちろんエースで主砲というチームの大黒柱。通算本塁打で度肝を抜き、そしてマウンドでもMax154キロという速球で度肝を抜くというスーパー球児ぶり。春も夏もあの菊池雄星の花巻東と当たって激戦の末に敗れるという【激闘数え歌】を残して甲子園を去りました。今考えても、今宮はすごかったですね。夏は初戦で、翌年に春夏連覇を達成するエース島袋の興南と当たってサヨナラ勝ちを収めると、2回戦では大会屈指のエース秋山(阪神)を擁する西条を完封。3回戦でもエース庄司(広島)の常葉橘と延長12回の激戦を繰り広げる、準々決勝で菊池の花巻東と対戦。まあ何とも、初戦から4試合連続でプロに進むエースと対戦するなんて、くじ運がこれ以上ないぐらい厳しいものでした。楽なくじを引けば優勝をも視野に入るぐらいの実力を持っていたので、8強敗退は残念な結果でしたね。それでも常葉菊川戦、花巻東戦など本当に手に汗握る試合でしたので、『明豊強し』を強く印象付けてくれたものでした。その後は新たな監督になってやや勢いをそがれていましたが、一昨年夏は久しぶりに甲子園で輝きましたね。初戦の坂井戦で追い詰められた8回に逆転2ランが飛び出して勝利をつかむと、3回戦の神村学園戦は球史に残るような激闘が繰り広げられました。3点をリードして9回を迎えるものの、2死から3点を失って同点にされると、延長12回表には満塁からスクイズで3点を一気に勝ち越されるという痛恨のプレーが出て敗色濃厚。しかしそこから驚異の粘りを見せて4点を取り返しての大逆転勝ち。勢いに乗った準々決勝も、完敗の展開から9回一気に6点を返して粘り腰を見せるなど、この大会の【激闘王】にふさわしい散り際で圧倒的なインパクトを聖地に残してくれました。今回はそれ以来の甲子園。今年のチームも過去3度インパクトを残したチームに負けない力を持っているので、楽しみです。
九州代表 大 分(大分) 初出場
夏2度出場 甲子園通算 2敗
2010年代に野球でも存在感を見せ始めた大分。14年に夏の初出場を果たすと、16年にも2度目の出場を果たし、まだ甲子園での勝利はないものの、新たな強豪としての地位を着々と築いています。しかし大分という校名を聞くと、同じ九州代表の筑陽学園と同じく、やはりワタシはサッカーを思い出してしまいますね。野球としては14年のチームのエースであった佐野投手が好投手だったかなあ・・・・という程度。しかしこのチーム、チームの選手の構成を見ると、ほとんどの選手が付属の硬式チームである大分明野シニアの出身。最近新機軸となっている「中高一貫の野球強化」というチームで、これは今年明治神宮大会を制した札幌大谷も同じ。この動き、これからの高校野球の強化の主流をなすかもしれないですね。大分というと、古くは津久見の時代があり、大分商の時代が続いて、そのあとは完全に柳ヶ浦の時代が来ました。そして00年代からは明豊中心の時代となっています。その合間に、たくさんのチームが甲子園の土を踏んでいますが、なかなか一時代を築くというところまではいけないのですが、この大分が新機軸で県内高校野球をリードする存在になるのかどうか。注目されますね。
九州代表 日章学園(宮崎) 初出場
夏1度出場 甲子園通算 1敗
今年の九州代表の傾向は『サッカーの強豪校が野球でも甲子園へ』という感じですね。筑陽学園、大分、そしてこの日章学園。いずれの学校もサッカーでは何度も全国の舞台に顔を見せる強豪校ながら甲子園経験は少ない学校。しかしそれらの学校が大挙して甲子園へという流れは、もしかしたら「様々な部活が強豪になるマルチ強豪校化」が九州では進んでいるのかもしれませんね。東福岡とか神村学園とか鹿児島実とか、様々な競技で存在感を見せる学校、九州には多いですもんね。この日章学園がこれまで唯一甲子園に出場したのは02年夏。今から16年前になります。このチーム、たった一度の出場ながら、いまだに試合のシーンが浮かぶほどインパクトは絶大でした。何しろ、エースの片山マウリシオ(?)と主砲の瀬真仲ロベルト(?)の二人、ブラジルからの留学生だったですからねえ。そして戦いぶりは打て打てのまさにイケイケ野球。その頃は山形の羽黒でもブラジル人留学生選手が出て甲子園でも活躍して、ブラジルから日本へというのがトレンドになったりしていましたね。しかしその後は全くそのルートは遮断されてしまったかのようになって、ワタシは個人的には残念ですけれどね。日章学園は、とにかく甲子園では22安打を放ちながらわずか9安打の興誠に敗れるという、なんとももったいない試合をして敗れていきました。強くワタシの頭に残っているのは、瀬真仲ロベルトが驚愕のホームランを放った後、ホームに戻ってきて十字を切って、天に投げキッスを送ったことですね。「お~やるな~」というのがワタシのその時のつぶやき。打てども打てども相手を突き放せなかったその戦いぶりといい、強く印象に残っています。考えてみれば、その時から日章学園は、一度も甲子園に来ていなかったんですね。夏の大会の展望などを書いていると、いつも日章学園の名前は上がってくるので、その後何度か甲子園に登場しているとばかり思っていましたがね。個々もまたかつてとは選手の構成が一変。現在は付属の中学の軟式チームからの「中高一貫の強化」で成果を出しました。軟式からの中高一貫組としては、何といっても星稜と高知が有名ですが、その流れに乗って日章学園も強化が実を結んだということですね。何か九州勢には、時代に沿って「強化のメソッド」の流れがあって、面白いですね。6年間一緒のチームで気心が知れたナインの活躍は、ただのチーム以上の「何か」をもたらしてくれるのでしょう。その神髄を、甲子園で見てみたい気がします。
(つづく)