これから2回に分けて、6冊の本から「働く立場」の異変と問題の端緒を掴みます。
「イーロン・ショック」笹本裕著、文芸春秋、2024年刊。
著者は元Twitterジャパンの社長で、自身が首を切られるまでの実録。
私は前半しか読んでいませんが、彼は経営者の立場から、これをビジネスの新潮流と見做しているようです。
テスラのイーロン・マスクが、自分の流儀(検閲破棄)で、いとも簡単に大量の従業員の首を切っているのは周知の事です。
彼は、産業界の寵児であり、超富豪に加えて、世界の政治を牽引することになる。
皆さんは、不安より期待の方が大きいでしょうか?
私は、「働く人」、ひいては社会経済の劣化に拍車が掛かると見ています。
「JR冥界ドキュメント 国鉄解体の現場・田町電車区運転士の一日」村山良三著、梨の木舎、2024年刊。
著者は元国労に所属した国鉄運転士で、国鉄解体時、自身が受けた壮絶な国鉄と動労側からの嫌がらせを活写している。
人はなぜここまで正義をかざして残酷になれるものかと悲しくなる。
「国鉄処分 JRの内幕」鎌田慧著、講談社文庫、1989年刊。
著者は労働問題を主に扱うフリーのジャーナリストで、広く国鉄沿線を足で尋ね、親身になって人々の悲哀と歴史を追っている。
国鉄数十万の労働者と廃止の憂き目に遭うローカル線に暮らす人々の無念さがよく分かる。
著者は、長期にわたる政府、与党議員、国鉄の身勝手さが、最後に国民と弱者に尻拭いさせる暴挙になったと怒り心頭です。
残念ながら、労組の悪態には触れず、国鉄腐敗の結果を語るに過ぎない。
「国鉄に何を学ぶか 巨大組織腐敗の法則」屋山太郎著、文藝春秋、1987刊、
著者は時事通信社の記者で、国鉄民営化では土光臨調に参画し活躍した人物です。
桜井よしこのシンクタンクの理事に就任しており、保守系と思われる。
彼は当然、民営化必然と見ているが、本の前段に興味深い既述がある。
国鉄の崩壊の理由に、無能な経営者、社内の権力闘争、労働組合の堕落、監督官庁の無責任を挙げる。しかし膨大な赤字を生んだ最大の理由は、全国に張り巡らした新線建設の巨大な利権であり、群がった与党議員(主に田中角栄)だとする。
そのことが詳細に暴露されているが、これはいまだに止まない日本の公共投資の悪事です。
「国鉄を売った官僚たち」大野 光基著、善本社、1986年刊、
著者は1970年、国鉄が初めて展開した生産性向上運動の旗手だった。
これは直ぐに大きな勢いを得たが、告発により組合潰しとみなされ、2年後に国鉄は陳謝し、すべてを撤回することになった。
著者は、生産性向上運動の必要性と成功の過程、さらには身内(上層部)から梯子を外された恨みを記している。
私自身、民間で生産性向上に関わったので、彼の悔しさが理解出来る半面、彼の「働く人」と労働組合攻撃への無神経さが悔やまれる。
無節操な生産性向上への信仰にも似た組織風土は、日本の「働く立場」の劣化を如実に物語っている。
私自身、今頃になって現役時代の生産性向上の後味の悪さが、やはり異常な行為だったと気付かさせられた、遅きに失するが。
以上5冊の本から、見えて来たものは何か?
1.「働く人」にとってより悲惨な状況が、しかも国民が望む形で訪れるだろう。
新自由主義がさらに進み、経済格差は一段と高みに至るだろう。
2.国鉄民営化は、利用する国民にとって有益だったが、それは大きな膿出しと同時に「働く人」の犠牲を伴い、組合の弱体化が全国的に広がることになった。
そこには私達が知るべき事実が多々あり、今後明らかにして行きます。
日本政府の腐敗の構造、中枢の人々の利権が国鉄に巨大な赤字を背負わせ、最後に、国民がつけを払わさせられ、これが繰り返されている。
国鉄労組が、なぜ堕落し、スケープゴートにされたのか。そこには日本の遅れた権利意識と労働組合法があり、さらに当時、国際的な逆風が吹き始めていた。
これは次回、語ることになります。
次回は1冊のベストセラーから、問題点を読み解きます。