長文失礼します。
児童虐待と省庁間の軋轢?
札幌でまた痛ましい事件が起きた。2歳児衰弱死。最終段階で警察と児相の意思疎通が取れなかったようだ。
警察に係る警職法3条「保護」と児相に係る児虐法33条「一時保護」は守備範囲が重なるものであり、どちらの法律が適用されるかによって、児童の処遇に大きな差が生じる。現状は児相(厚労省)が圧倒的に優勢。児相と警察の競合関係が今回の事件に影を落としているように思えてならない。
このような痛ましい事件が起きると、「児相はもっとしっかりしろ!」「児相により強い権限を!」という声が強まるだろう。しかし実際には児相は、行政不服審査も差し止めの訴えも提起できない、要するに誰も逆らえない「臨検(=立ち入り検査)」という超強力な手段をもっている。
裁判所の許可状をえた上で、児童虐待が疑われる住戸に入り、必要であれば児童を捜索できるというものだが、手続きが煩雑である事、住戸に入った場合、職員が児童の親と直接対峙することになり、身の危険にさらされる可能性がある事等の理由によって、めったに行われないそうだ。
今回の事件で警察は児相に対して「臨検」を提案したが、児相は応じていない。児相は強大な権限を持っているが、これでは手間がかかり危険な事案には伝家の宝刀は鞘に収めたまま手をこまねき、安易な案件に注力するとみられても仕方がない。私が問題視する虐待冤罪も、ここで言う安易な事案の中に含まれてくるだろう。
児相のスタッフ1人が抱える事案が多すぎる事が、今回の事件に一つの要因であろう。しかし問題の本質はスタッフの数ではなく、児童虐待防止制度そのものにあると考える。
まず日本において虐待の通告は国民の義務とされ、通告者はその結果について免責される。通告は、学校や病院、一般市民によって行われるが、専門性がある(はずの)学校や病院だけでなく、専門性の無い一般市民も免責の対象にしている点は問題である。密告の奨励ともいえ、また不仲な家庭~家庭間で報復的な通告、悪意のある通告が行われる恐れも大きい。虐待冤罪の温床とも言えるだろう。通告全体の数が多くなり、児相スタッフへの負担も増大する。外国ではこうした点を考慮して、一般市民の通告については免責を認めない例もある。
次に、今の日本の制度は被虐待児と虐待親を引き離し、隔離することを前提に作られている。戦後の混乱期に戦争孤児の救援等を目的であった児相に、
①虐待通告の受付と虐待事実の調査(臨検も含む)
②対応検討・決定
③児相内一時保護、児童養護施設への移送手続き(裁判所への28条申し立て)
の3つの機能を集中させることで、児童と親の引き離しについて司法も警察も容易には介入できない強大な権力を与えているのだ。
これとは逆に、児童虐待対策の先進国と言われるオランダでは親子分離は最後の手段であり、極力親子を一緒に生活させ、親子両社に対する指導、カウンセリングに重点を置いている。その組織は、日本の児相が掌握している①~③の機能を別組織としているところに特長がある。
1、安全の家:地方自治体の管轄
虐待通告の受付と虐待事実の調査⇒児相の①に相当
2、児童保護委員会:国家機関
通告された児童について対応を決定⇒児相の②に相当。
3、少年援護所:半官半民
児童保護委員会の決定を裁判所の許可を得た上で執行。
⇒児相の③に相当。
特筆すべきは1⇒3に至る過程で、裁判所の許可なしには児童を拘束できない事である。さらに3つのステップが別組織になっているため、虐待の内容や有無について独立した複数回のチェックが働く。
また虐待通告は義務ではないが、国が定めた「通告規範」に則って行わなければならない。「通告規範」には客観的事実の確認が必須要件として含まれており、虚偽、或いは悪意の通告は違反となる。通告が義務化され免責されているにも関わらず、規範・要件が定められていない日本のように、通告件数がいたずらに増加し真に手当てが必要な事案に注力できない、という状況とは異なる。
このシステムにより虐待事案に対し適切な対応を取ることができるとともに、虐待冤罪が起るのを防いでいる。日本のように何年にも亘り児童が養護施設に拘束されるなどの問題は発生しない。なお命にかかわるような重い虐待の場合、警察あるいは児童保護委員会から検察官に送検されて刑事事件として起訴され、1⇒3とは異なる対応が取られる。
オランダの方式を以下にまとめる。
a、国連・子供の権利条約に則った、児童虐待対応制度
b、親子の自助努力を最大限尊重
c、不正・不要なな虐待通告を減らす
d、児童虐待に対応するための機能を、分散させる
e、いたずらに児童を公的機関に拘束しない
a~eによって真にケアが必要な事案に取り組むことができるため、人員・予算の面でも大きなメリットがあるという。重大事件が発生するたび、場当たり的に増員と予算拡大を行う日本の状況とは雲泥の差である。
現在日本の児童虐待防止制度には、ここで述べたように多くの不備がある。児相、或いは児童養護施設に拉致(!)された児童は、被虐待の有無にかかわらず施設内で人権を蹂躙され、将来の芽を摘まれてしまう。親との面会・通信も不可であり、誰にも助けを求められない。国による人工孤児である。
このような最悪の状態から望ましい方向に舵を切るために、自分なりに情報発信に努めたい。
参考文献:南出喜久治+水岡不二雄「児相利権 「子供虐待防止」の名でなされる児童相談所の人権蹂躙と国民統制」八朔社
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