占いcafe あさがお

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小説・影返し③

2021-03-07 21:59:28 | 日記
人影を見るようになった。

お店の奥、道端の物陰など、暗がりに影が見える。

最初は気のせいだと強がることもできたが、頻度が上がるにつれ、それもできなくなっていった。

夜はもちろんたが、夕暮れに差し掛かると暗がりを見ないようにするため、挙動不審になっている。

一週間もすると、日中ですら暗いところを見ると怯えるようになり、さすがにママに問い詰められた。

「どうしたの、アカリ? なにか変よ?」

「…うん……」

少し躊躇ってしまったのは、自分自身でも恐怖心の正体がハッキリしないからだ。人影は怖いけれど、見える以外になにもない。
それに、人影だと思うだけで、実は正体がわからないのだ。

「その、人影が見えるの…」

それでも話したのは、アカリがそれだけママを信頼していた証拠だし、甘えてしまいたかった。

一言発すると、途端に堰を切ったように話し始め、それほど時間をかけずに状況を話しきってしまった。

「泣かない泣かない」

ポンポンと背中を優しく叩くママの温かさに、アカリは涙が止まらなかった。

「んー、よくわからないんだけどさ。何もされないなら、それはアカリを見守ってると思えば怖くなくならない?」

「…み、見守ってる……?」

「そう、怖いことが起きないように見てくれてると思えば、気にならなくなるかと思ってさ」

「………す、すごい、ママ…そんなふうに考えたことなかった…」

「あたしはそういう不思議なのわからないし、気持ちを切り替えるぐらいしか思い付かないだけだよ」

「ううん、ありがとう! わたし、そうしてみる」

「元気がでたなら嬉しいよ」

涙を拭うアカリの頭をくしゃくしゃに撫でる。

「顔、洗ってきな」

「うん」

まだ、怖くなくなったわけではないけれど、少しだけ元気が出てきた。

スタッフルームに戻り、鏡の前に座る。
電気代節約のために、いちいちちゃんと消していたのを、アカリが怖がることに気付いて消さないでいてくれる。

涙を拭き、くしゃくしゃにされた髪を整える。
メイク直しやヘアメイクに集中しているうちに落ち着いてきた。

落ち着くと、少し気恥ずかしくなってきた。
涙の跡をカバーし終えたとき。

鏡に、暗がりが映り込んだ。部屋の隅にあるカラーボックスの物陰だ。
メイクに集中していたときには気付かなかったのに、気を緩めた瞬間に視界に入ってきたのだ。

「……あ……」

カラーボックスの影など、ほんの小さな暗がりなのに、アカリにはそこに誰かがいるとハッキリわかる。

誰かがいる。立っている。アカリを見ている。

身動きがとれない、怖い、怖いけれど、怖くないのかもしれない。アカリはその正体を確かめようと、恐怖心を押し殺して人影を見る。

不意に、

_お前の望みは_

言葉が頭に入り込む。

まるでアカリの心の中を探るように、望みという言葉がぐるぐるとまわっていく。

_望みを叶えたいか_

叶えたい。

頭が止めるより早く、心が答えてしまっていた。何かマズイ気がする。悪いことが起きるのではないかと身構えた。

だが、『ククッ』という笑い声のような声を残して、影は消えてしまった。

アカリは首を傾げながら、店に戻ると、客が3人入ってきたところだった。

慌てて笑顔をつくり、仕事をする。

それから、続けて客が来て、店は賑やかさを増すとともに忙しくなり、アカリはその出来事を忘れてしまった。

ゆっくり、ゆっくりと、影は濃くなっているというのに。アカリは何も気付いていなかった。

〘続く〙

小説・影返し②

2021-03-07 21:24:31 | 日記
せっかちな人なんだろう、アカリはそう思うことにして思考を止めた。

いなくなった人のことを考えてもしかたない。
もし、また会うことがあったなら、お礼をすればいい。

気を取り直して店の裏口ドアを開ける。
中から、むわっと暖かい空気がこぼれるように飛び出してきた。
知らずしらず強張っていたアカリの身体と心を包みこむ。

「遅くなってごめんなさい、ママ」

接客していたら聞こえないだろうけれど、ひとまず声をかける。
お店の方に出るには着替えないといけない。

ママとアカリの二人で切り盛りできる小さな店だ。堅苦しい決まりはないが、最低限のケジメはつけた方がいい、ママは常々そう言っていた。

着替えを済ませ、化粧を直してから、お店の方に顔を出す。
ちょうどよく客を見送るタイミングだったようで、店の入口で客を見送るママの後ろ姿があった。

店内を見渡すが、他に客はない。

「あら、アカリ、来てたの?」

「はい、遅くなってごめんなさい」

「無理しなくても大丈夫よ?」

そう言いながら、客に向けるのとは違う優しい笑顔でアカリを迎えてくれた。アカリはホッとした自分に気付くと同時に、

「ママにプレゼントしたくて」

素直にプレゼントの入った箱を渡すことができた。実は、どう渡そうか少し迷っていたのだ。

「まぁ、なに〜?」

中に入っていたのは、イヤリングだった。小さな白い花をあしらったモチーフと桜貝が可愛らしいそれは、なんとなくレトロさを感じるのに、古臭いとは感じなかった。

「貝のイヤリングなんて、懐かしいわね! それに、とても素敵だわ、ありがとう、アカリ」

「気に入ってもらえると嬉しいです。その、ママに似合うと思って…」

「本当に嬉しいわ」

そう言いながら、さっそく着けてくれることが嬉しい。心に日が灯るような温かさを感じるが、なんとなく照れくさくて、そそくさとテーブルを片付け始めた。

アカリは、実家に帰れば両親がいるが、もう何年も帰っていないし、連絡も途絶えたままだ。

アカリが気がついたときには既に、冷え切った家庭だった。夫に見限られた母は、娘に依存していた。
アカリはそれがイヤになり、高校卒業と同時に家を飛び出して一人暮らしを始めたのだ。
その少しあとには携帯電話の番号も変えてしまった。

もう8年も前の話だ。

いろいろとあって、ママと出会い、この店にきた。今では、実の母よりもママのほうが頼りにもなるし、心を開いていられる。

それでも、叶うことならば。

いつかは本当の家族をつくれる男性と結ばれたいと願っていた。


深夜。

閉店の時間になり、ママは売り上げなどを2階の自室へと運んで計算している。
以前、空巣にあったとかで、レジに入れっぱなしにはしない。

その間に、アカリは店内を片付ける。
ふと、照明を落とした店の隅に人影が見えた。

(……え?)

そんなはずはない。

店の入口は施錠したはずだ。

一度、視線をはずしてから、もう一度店内を見渡す。

やはり、暗がりに影が見える。

「……あ、あの…」

声を出すことで恐怖心をごまかしながら、照明のスイッチへと移動する。

「お客様、ですか?」

バカバカしい質問だが、聞かずにはいられなかった。

_呼んだのは、お前だ_

声が聞こえると同時にパッと電気が点いた。 たが、人影は消えていた。

(気のせい……?)

そう思うものの、手はしっかりと握りしめられ、汗ばんですらいたのだった。

そう、それが、始まりだったのだ。

《続く》