Are Core Hire Hare ~アレコレヒレハレ~

自作のweb漫画、長編小説、音楽、随想、米ラジオ番組『Coast to Coast AM』の紹介など

030-瞳の色

2012-10-16 21:10:39 | 伝承軌道上の恋の歌

 歯ブラシをくわえてパソコンをいじる僕の斜め後ろにアノンはきりっと立っていた。
「見たの?」
 そう言われると、アノンの着てるぶかぶかのトレーナーはより意味深になってくる。その格好がつい今しがた見た柔肌をひどく忠実に再現してくれている。
「ああ、いや、湯けむりでそんなには…」
「見たんだ?」
 ああ、見た。確かに見た。顔を隠しても首から下だけで誰がアノンかを当てられるほどにまじまじと。
「その…悪かった。つい一人でいた頃の癖で…」
 悪気はなかった。それは本当だ。
「いいよ…このくらいは覚悟の上だよ」
 アノンは僕に濡れ衣を着せて、一宿一飯の恩に身体を差し出したとでも言いたげだ。
「いや、だから見るつもりは…」
「とにかく!事故だと思って忘れて」
「…ああ」
 だが、残念だな、アノン。僕は忘れない。まだ幼さの残る顔に似て小ぶりな…いや、やめておこう。しかし、あのバーコードみたいなタトゥーだけは今は忘れておいた方がいいだろう。この子にはまだ何か隠していることがある。多分それが僕と彼女を結びつけた。不思議なものだ。偶然にしてもでき過ぎてる。心の奥でくすぶる好奇心を抑えて僕はアノンの顔をぼうと見つめていた。
「…何よ」
 その様子にアノンは思わず構える。
「アノン…お前良く見ると両目の色が違うんだな…」
 アノンの顔を見る度に胸の中のどこかにあった微かな違和感。初めはアノンのどこか異国風の彫りの深い顔立ちに対してだと思っていた。その謎が今ひとつ解けた。その正体は少し薄く青みがかっているように見える彼女の右目にあったんだ。
「へへ、いいでしょ。オッド・アイ。マキーナと同じなんだよ」
 アノンの青く透き通った左の目を指さした。僕は机の上に無造作に置いてあった雑誌を手に取って、表紙に映っているCGのマキーナとアノンを見比べる。
「…コンタクト・レンズか?」
「ううん、元からこうなんだ。すごいでしょ?」
「アノンはマキーナ以上にマキーナなんだな」
「マキーナを程度で表さないで」
「褒めてるんだよ」
「ああ、そうなの?やった」
 一時はだいぶ傾いていたアノンの機嫌もどうやら直ったようだ。彼女が単純でよかった。その背後は複雑でも。

…つづき

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