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ヨミが目がさめたのはもう夜になってからだった。僕はずっとヨミの眠るすぐ傍らで彼女を見守っていた。
「心配かけてごめんなさい。大丈夫、すぐ良くなるから…」
まだ夢うつつのヨミがイナギに微笑んだ。『それは嘘だ。僕にはもう分かっているんだ。ヨミ、お前は助からない。唯一の方法をのぞいて…』僕はヨミを見つめる。今をどれだけ頭に焼きつけたところで綺麗な思い出になんてならない。僕が欲しいのは今一瞬じゃない。明日も、あさっても、一週間後も、一ヶ月後も、一年後も、十年後も、何時までも二人でいられるってことなんだ。こう考えたことだってある。死んだらヨミは一生僕のものだって言えると。誰にも取られることはないんだから。でも僕は望んでしまったんだ。ヨミ、お前のせいで。
「イナギ?どうしたの?」ヨミが聞く。
「いや、なんでもない…」
「アノンちゃん、どうかあの子をよろしくね」
アノン?こんな大事なときになぜあいつの名前を?あんなヤツのことは関係ないじゃないか。何もわかってないのはヨミの方だ。僕の想いも、なにも…そんなだれにでもあげられる優しさは僕は欲しくないんだ。
「なんでそんなことを言うんだ!?あんなやつどうでもいいじゃないか」
「違うの。あの子は私にとって特別なの。」
「なんでだ!僕との生活よりずっといいって言うのか?そんな馬鹿なことがあるか」
「イナギ、あなたは分かってないの…」
「わかりたくもない。それ以上言うなら、僕はあいつを殺してやる」
「イナギ、わかってない。わかってない…」
ヨミはかすれる声を振り絞って言う。彼女を興奮させてしまったらしい、ヨミは苦しそうに深い呼吸を繰り返す。だが僕はウケイを呼ぶのをためらった。ウケイまた二人で超然とした高みから僕を憐れむだけだ、と。
「ごめん、ヨミ。言い過ぎた…」
こう言うのが僕の精一杯だった。
「…イナギ、ありがとう…私、少し寝るね…」
「ああ、おやすみ」
そう言ってヨミはまた眠りに落ちた。それはかなり楽観的な見方で、本当は気を失ったのかも知れないと僕は思った。
そして、その夜僕はヨミを連れだした。
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