宇宙人に住所を聞かれたらなんと答えれば良いだろう。
相手は宇宙の住人だ。世界を通り越し文字通り宇宙規模でものごとを考えなければならない。
と・・・私も最初は身構えていた。
そこで見栄を張って緯度と経度で自宅を伝える。正確にはネットで検索して紙に書き写した意味不明な数字の羅列のメモを渡した。
が、予想に反して宇宙人の反応はとても悪い。これじゃよくわからない、というのだ。
私「そんなこと言ったってこれが一番正確で・・・」
宇宙人「・・・・・」
そこで私はハタと気が付く。宇宙人はもじもじしている。どうも、彼(か彼女)も数字と方位が苦手らしい。UKを起点にしたときにかなり東の方だよ、とも言ってみたがやはりよくわからないようだ。
ここからまっすぐ北の方に進んで・・・とか、3つ目の大きな道を左とか言われれもよくわからない私には彼(か彼女)の気持ちが痛いほどよくわかった。
要するにもっと強烈、わかりやすく何かを訴えてくるものをランドマークにした教え方をしてもらわなければわからないのだ。
もっと目につくなにか、わかりやすい何かだ。
悩ましい宇宙人を前にして私が最初に思い浮かべたスバらしい目印は「可愛いネコちゃんがいる公園の近く」というものだった。
だが喜ばしいことに―と、同時に少々厄介なことに―うちの近所には可愛いネコちゃんがたくさんいる。しかもそんな公園も複数ある。
私は思案する。宇宙人は辛抱強く待ってくれている。
やがて、ひらめいた。
私「イケボのおじさんがいる果物屋さんが近くにあるよ!」
宇宙人「!」
私の近所には個人経営の果物屋さんがある。その店主のおじさんがこれまた、びっくりするほどの美声の持ち主なのだ。
【謎のイケメン】
CV.果物屋のおじさん
初めて聞いた瞬間そんな文字が頭に浮かんだほどだ。
うんうんと宇宙人は頷いた、と同時に私をなじった。どうして最初からそのわかりやすい道案内をしてくれなかったのか、と。
私にも言い分はあるが、素直に謝罪をしておいた。
本当にまた来るかどうかは別として、宇宙人は(たぶん)晴れやかな顔をして宇宙船に乗り込む。
方向音痴というのは世界基準ということがわかって、私も嬉しかった。控えめに窓から手を振ってきた彼(か彼女)に手を振り返す。
今日はそんなことを考えながら、午後いっぱい仕事をしていた。よい天気だったことも相まって、素晴らしく充実した時間だった。
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