私は女のSNSと家を監視し、来たるべき日に備えたが、月日は虚しく過ぎて行った。
流石に警戒されていると思い、少し期間を空けようと、土方仕事に没頭した。
その中で、もうこの街で、資格でも取って、何気無い日常を過ごして、平穏な人生を歩んで行くのも悪くは無いかなと、ふと、過る様にもなった。
飯場仕事は、まるで昭和のあの、古き良き時代の再現VTRの目白押しで、
私は山崎豊子の「大地の子」の主人公、陸一心、若しくは、山崎豊子の「不毛地帯」、同じく主人公の壹岐正を、それぞれ演じていた。
今考えると、それは「蟹工船」の様でもあった。
毎朝6時に起き、食堂で朝食を食べて、弁当を持って、自分の名前が書いた札の前で今日の現場の振り分けを確認する。
そして7時には一斉に、それぞれボロッボロの車やバンに乗り込んで、現場に向かう。
仕事は一番下手間で、それこそ日本語のしゃべれない外国人でも出来る仕事ばかりだった。
信じられないが、10年飯場に住んでいる幹部も居て、そういう人達が猛威を振るう。
しかし、通いの職人さんからは、全員、まるで子供扱いの様だった。
その中で、通いの職人さんを含め、徐々にこの人達を出し抜きたいと思う様になった。しかし、経験ではこの人達には敵わない。それならば資格を取ればいけるだろという事で、何が有効かスマホで探した。私は、刑務所でガッツリ宅建を勉強していたので、出たら試験を受けようと思っていた。受かる自信はあった。しかし、その時目標としていたのはデリヘルの開業だったので、後回しにしていた。
宅建は止めた。欠格事由があった。禁固刑以上の刑を終えた時から5年以内は、登録出来ない。
まだ出て来て半年位だった。建設系を探したが、どれもこれも学歴要件、経験年数等、条件があった。二級建築士が理想だった。結局考えた結果、3級ファイナンシャルプランニング技能士なら手っ取り早くいけると思って、本屋でテキストを買って、勉強しだした。全然関係が無かったが、とにかく何でもいいからこいつらから一目置かれたかった。
多分飯場で唯一だったと思う。50人以上はいたと思うが、空き時間勉強していた。
それを言えば、私は唯一新聞を読んでいた。現場の休憩室でも読んでいた。スポーツ新聞を読んでいる人は何人かいたかも知れないが、新聞を読む人は皆無だった。
勿論浮いた。通いの職人さんから見たら、乞食が新聞を読んでいる。それを見て怒りが湧いて来るだろう。
飯場の人とは、やっている事は一緒だったが、私の場合、頭の中身が全然違った。何故なら私はその時点で、中卒ながら本を500~600冊は読んでいた。
私はまず始め、九州の刑務所の中で4年間、その多くの時間を勉強に費やした。
周りは若いやくざ組員ばかりの中で、マイノリティでいつも余所者で、刺青も腕にワンポイントが入っていただけなので、潔く全てを諦めて、勉強と筋トレだけに没頭してやろうと、無我夢中で難しい本を読み漁った。とにかくすぐ喧嘩になる様な刑務所だったので、劣勢で堅気だし、出来るだけ目立たない様に勉強と筋トレに励んだ。しかし、元々喧嘩っ早い方で、何度か暴行事件を起こし、保護房に入れられたりもした。
結局、
・漢字(テキスト、ドリル)
・ペン習字(通信教育)
・新聞
本は、
・歴史小説
・暴力団関連
・アウトロー小説
・推理小説
・ハウツー本
・自伝
・心理学
を最初集中的に読んでいたが、途中から周りと一緒の事をやっていても勝てないと思い、
新聞をより理解する為に、
・政治
・経済
・世界情勢
・哲学
に関する本を、読み出した。
出るまでに新聞記事の内容が全て分かる様になろうと目標を立てていたので、分からない所は大辞泉、イミダスで調べた。
雑誌は、
今では廃刊となったが、
・SAPIO
という雑誌を1年以上購買していた。
時間が勿体なかったので漫画は読まなかった。
新聞で気になった記事を掘り下げていく作業だったので、楽しかった。
独居に移り、資格勉強もしようと思い、司法書士のテキストを買ったが、これは中では無理だと感じ、測量士補にも興味を示し、テキストを買ったが、これも難しかったので、差し入れして貰った、マンガでわかる宅建を読むと、これならいけると思い、勉強を始めた。丁度、やくざの人を殴って、自由に工場に行けなくなり(行ったら組の人にヒットされる)、反省として独居作業を強いられていたので(大分運がいい方!普通はやられる!)、集中して勉強する事が出来た。
正月も朝から晩まで勉強して、大体3ヵ月位で、多分今試験を受ければ受かるだろうと思い、止めた。どのみち満期出所まで後1年半位だった。
一応言っておくが、私の様にそこそこ難易度のある宅建試験の勉強をする人は、同時期にその刑務所には居なかったかも知れない。聞いた事が無かった。
他の人は、大体シノギの勉強をしていた。
筋トレは、毎日腕立て、1日一回ずつ回数を増やし、
最高連続250回+30×何セットかやって、
後腹筋、バケツ上げ、運動時のグリップ、
スクワットも最高連続750回やった。
しかし、食事が悪かったので、身体というよりかは、
根性を鍛えていた。でも、身体もそれなりに引き締まった。
次の刑務所では、1年6ヵ月間、
主に
・政治
・経済
・世界情勢
・歴史
・古典
・初級英語(ドリル)
・新聞
・SAPIO
を本で勉強し、無事故で仮釈放が狙いだったので、
和気あいあい、部屋で博打三昧、それが原因で暴行事件にまで発展する位の部屋で、何とか持ちこたえ、
運動は、連続腕立て伏せ最高150回+30×何セット
今回は腹筋を割ろうという目標を立てていたので、
出る間際にはパッキパッキになっていた。
それから十数年たった今でも、うっすらだが、腹筋は割れたままだ。
そして独居に移り、約3ヵ月で出所した。
捕捉しておくと、学生時代(小中学生)、漫画が大好きだった。ありとあらゆる漫画を読み漁った。
子供の頃から家に極道漫画もあったので、結構詳しかった。
当時のヤンキー漫画は、全部読んだと言っても過言では無いだろう。